Blue Light Induces a Distinct Starch Degradation Pathway in Guard Cells for Stomatal Opening
Horrer et al. Current Biology (2016) 26:362-370.
DOI:10.1016/j.cub.2015.12.036
孔辺細胞の葉緑体のデンプンは、光による気孔の開口誘導と関連していると考えられている。スイス チューリッヒ大学のSantelia らは、シロイヌナズナ孔辺細胞のデンプン量の日変化を観察し、デンプンは夜の終りに見られるが、光照射により1時間以内に分解されることを見出した。興味深いことに、デンプンの減少は夜の後半から始まった。しかし減少速度は光照射による分解と比較すると緩やかであった。デンプンの合成は光照射1時間後から始まり、明期の間継続して夜まで続いた。これらの結果から、シロイヌナズナ孔辺細胞のデンプン代謝は、葉の他の細胞とは異なることが示唆される。β-アミラーゼ(BAM)は主要なデンプン分解酵素であり、葉肉細胞ではBAM3が主なアイソフォームだが、孔辺細胞ではBAM1 が強く発現していた。また、bam1 変異体では日内周期を通して孔辺細胞のデンプン含量が野生型よりも高くなっていた。よって、孔辺細胞のデンプン代謝においてはBAM1が特異的に機能していると考えられる。デンプンを完全に分解するためにはBAM以外の酵素も必要である。α-AMYLASE 3 (AMY3 )は孔辺細胞での発現量が高く、amy3 変異体は孔辺細胞のデンプン含量が高くなっていた。また、amy3 bam1 二重変異体はbam1 変異体よりもデンプン含量が高くなっていた。枝切り酵素をコードするLIMIT DEXTRINASE (LDA )は、孔辺細胞での発現量は高くはないが、lda 変異体孔辺細胞のデンプン含量は幾分か高くなっていた。夜間の葉でのデンプン分解における主要な枝切り酵素をコードするISOAMYLASE 3 (ISA3 )は孔辺細胞での発現量が高く、isa3 変異体では光照射後のデンプン分解は起こるが、デンプン含量は野生型よりも高くなり、isa3 lda 二重変異体ではデンプン含量が更に高くなった。これらの結果から、気孔開口時の孔辺細胞でのデンプン代謝においてはBAM1、AMY3、LDA、ISA3が機能していると考えられる。bam1 変異体は野生型と比較して光に応答した気孔開度が低く、気孔伝導度の増加が緩やかであった。しかしながら、炭酸同化に関しては殆ど野生型との差異は見られなかった。amy3 bam1 二重変異体は光照射による気孔開口が十分になされず、そのために気孔伝導度、葉の細胞間二酸化炭素濃度、炭酸同化が低く、通常の光強度条件下で育成した場合、野生型よりも小さくなった。これらの結果から、孔辺細胞のデンプン分解は、気孔開口を介した植物の光適応において非常に重要な要因であると考えられる。孔辺細胞葉緑体でのデンプン分解と気孔の開口は、光合成活性には不十分な光量子密度の青色光下でも起こった。一方、高い光量子密度の赤色光を照射した場合は、孔辺細胞でのデンプン合成が促進され気孔も開口した。したがって、孔辺細胞でのデンプン合成/分解は光の波長による制御を受けていると考えられる。また、赤色光下での気孔開口は、孔辺細胞葉緑体でのデンプン分解とは独立したものであると考えられる。孔辺細胞ではフォトトロピン1および2(PHOT1/PHOT2)によって青色光が受容され、BLUE LIGHT SIGNALING 1(BLUS1)タンパク質キナーゼやタンパク質フォスファターゼ1(PP1)によってシグナルが伝達され、細胞膜上のプロトンATPアーゼが活性化される。phot1 phot2 二重変異体やblus1 変異体の孔辺細胞は、光照射1時間後も多くのデンプンを含んでいた。一方、これらの変異体の葉肉細胞ではデンプン合成/分解は正常に起こっていた。PP1の阻害剤であるトートマイシンは、デンプン分解と気孔開口を抑制した。細胞膜プロトンATPアーゼの変異体aha1 は、光照射後のデンプン含量が高く、プロトンポンプの活性化物質であるフシコクシン(Fc)処理をすると孔辺細胞のデンプンは消失した。これらの結果から、プロトンATPアーゼ活性とデンプン分解は正の相関があると考えられる。bam1 変異体の気孔は、野生型と同様に、塩素イオンによって気孔を開口するが、amy3 bam1 二重変異体の開口度は低かった。これらの変異体にFc処理をしても気孔の開口やデンプン分解の回復は見られなかった。したがって、プロトンATPアーゼはデンプン分解過程の上流で機能しており、この過程は青色光によって誘導される気孔開口に最も必要であることが示唆される。
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