The main auxin biosynthesis pathway in Arabidopsis
Mashiguchi et al. PNAS (2011) 108:18512-18517.
doi:10.1073/pnas.1108434108
Conversion of tryptophan to indole-3-acetic acid by TRYPTOPHAN AMINOTRANSFERASES OF ARABIDOPSIS and YUCCAs in Arabidopsis
Won et al. PNAS (2011) 108:18518-18523.
doi:10.1073/pnas.1108436108
植物においてインドール-3-酢酸(IAA)はトリプトファン(Trp)から生合成されることが遺伝学的、生化学的研究から示されており、4種類の生合成経路、1)YUCCA(YUC)経路、2)インドール-3-ピルビン酸(IPA)経路、3)インドール-3-アセトアミド(IAM)経路、4)インドール-3-アセトアルドキシム(IAOx)経路(CYP79B経路)が提唱されている。これまでの研究から、シロイヌナズナでのIAA生合成にはTRYRTOPHAN AMINOTRANSFERASE OF ARABIDOPSIS(TAA)とYUCフラビンモノオキイゲナーゼ様タンパク質が関与していることが報告されているが、両酵素は別の経路の酵素であるとされていた。今回、PNAS11月8日号(vol.108 no.45)において、2つの研究グループがTAAとYUCは同一のIAA生合成経路の酵素であることを報告している。
理化学研究所 植物科学研究センターの笠原ら(Mashiguchi et al. 108:18512-18517.)は、TAA1 を過剰発現させたシロイヌナズナ(TAA1ox )に形態的変化が見られないが、YUC 過剰発現変異体yuc1D でTAA1 を過剰発現させるとyuc1D 変異体に比べて不定根や側根の形成量が増加することを見出した。これらの植物の内生IAA量を調査したところ、TAA1ox ではIAA量が僅かに増加し、IAA-Asp、IAA-Gluの量に変化は見られなかったが、yuc1D 変異体ではIAA量に変化はなかったがIAA-Glu量が6.8倍増加していた。そしてTAA1ox yuc1D ではyuc1D に比べてIAA量が1.5倍、IAA-Glu量が2.3倍増加していた。よって、TAA1 とYUC1 はIAA生合成において相補的に作用していると考えられる。TAA1 とYUC6 を過剰発現させた個体(TAA1ox YUC6ox )は不定根や側根の増加の程度がTAA1ox yuc1D よりも多くなり、YUC6 を単独で過剰発現させた個体(YUC6ox )よりもIAA量が1.8倍、IAA-Asp量が96倍、IAA-Glu量が23倍高くなっていた。このことから、TAAとYUCは同じIAA生合成経路に属する酵素であることが示唆される。TAAはトリプトファン(Trp)からIPAを生成する過程を触媒しているとされており、シロイヌナズナのIPA生成は主にTAAによってなされていることが確認された。YUCはトリプタミン(TAM)をN -ヒドロキシ-TAM(HTAM)に転換する酵素とされてきたが、yuc1 yuc2 yuc4 yuc6 四重変異体の内生TAM量は野生型と同等であり、四重変異体でTAMの蓄積が見られないことから、YUCはTAMをHTAMに転換する酵素ではないと考えられる。逆にyuc1 yuc2 yuc4 yuc6 四重変異体の内生IPA量は1.5倍増加しており、YUC6ox では33%減少していた。よって、YUCはシロイヌナズナにおいてIPAをIAAに転換する過程を触媒していることが推測される。そこで、大腸菌に生産させた精製YUC2標品を用いて酵素活性を測定したところ、YUC2はIPAをNADPH存在下でIAAに転換すること、TAMは基質としないことがわかった。かつて提唱されていたIPA経路では、IPAはインドール-3-アセトアルデヒド(IAAld)に転換されるとされていたが、精製YUC2標品はIPAからIAAldを生産しなかった。TAA1ox 個体において内生IPA量は増加していたが、IAAld量は対照と同等であったこと、TAA欠損変異体wei8-1 /tar2-2 の内生IAAld量は野生型よりも増加していること、YUC6ox 個体のIAAld量に変化が見られないことから、IAAldはIPA経路の中間代謝産物ではないと考えられる。IAAldからIAAへの転換はアルデヒドオキシダーゼ(AO)が触媒しているとされていたが、全てのAOが不活化しているaba deficient 3 (aba3 )変異体で内生IAAid量の増加は見られず、IAA量、IAA-Glu量も変化していなかった。よって、AOはIAA生合成に関与していないと思われる。以上の結果から、シロイヌナズナにおいてTAAとYUCは同一のIAA生合成経路で機能していることが明らかとなった。YUCはIPAをIAAに転換する過程を触媒しており、この過程はIPA経路においてIAA生合成の律速段階となっている。
米国 カリフォルニア大学サンディエゴ校のZhao ら(Won et al. 108:18518-18523.)は、これまでに単離されたシロイヌナズナTAA1 遺伝子の変異体が、根のエチレン応答性(wei8 変異体)、避陰反応(sav3 変異体)、根のN-1-ナフチルフタラミン酸(NPA)応答性(tir2 変異体)の変化から選抜されたものであることから、YUC ファミリー遺伝子の変異体においてもこれらの選抜指標に対して抵抗性を示すかを調査し、yuc 単独機能喪失変異体では抵抗性を示さないが、複数のYUC ファミリー遺伝子が機能喪失した変異体ではtaa 変異体と同じ表現型を示すことを見出した。また、YUC ファミリー遺伝子の変異体において観察される形態変化がTAA ファミリー遺伝子の変異体においても見られることがわかった。YUC ファミリー遺伝子とTAA ファミリー遺伝子が機能喪失したyuc1 yuc4 wei8 tar2 四重変異体芽生えは胚軸と根の成長が著しく阻害されるが、yuc1 yuc4 二重変異体やwei8 tar2 二重変異体ではそのような表現型は示さない。しかしながら、YUC ファミリー遺伝子の変異を集積したyuc1 yuc4 yuc10 yuc11 四重変異体やTAA ファミリー遺伝子の変異を集積したwei8 tar1 tar2 三重変異体はyuc1 yuc4 wei8 tar2 四重変異体と類似した表現型を示した。TAA ファミリー遺伝子の機能喪失変異体でYUC1 遺伝子を過剰発現させてもtaa 変異体の表現型の回復は十分ではなく、YUC1 を過剰発現させることによるオーキシンの過剰生産にはTAA 遺伝子の活性が必要であることが示唆される。微生物由来のオーキシン生合成遺伝子iaaMはyuc 変異の表現型を回復させ、野生型植物やwei8 tar2 二重変異体でiaaMを過剰発現させるとオーキシン過剰生産型の表現型を示した。よって、YUC とiaaMはオーキシン生合成において異なる機構に作用していることが示唆される。野生型植物、yuc 変異体、taa 変異体の内生IPA量を測定したところ、wei8 tar2-2 二重変異体では内生IPA量が大きく減少し、yuc1 yuc2 yuc6 三重変異体では増加していた。よって、TAA 遺伝子はIPA生成に関与し、YUC 遺伝子はIPA代謝に関与していると考えられる。以上の結果から、YUCとTAAは同一のIAA生合成経路で作用しており、YUCはTAAの下流で機能し、TAAはTrpからIPAを生成する過程、YUCはIPAをIAAに転換する過程を触媒していると考えられる。
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