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植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
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論文)植物の齡が進むことによるシュート再分化能の低下

2015-04-11 15:39:46 | 読んだ論文備忘録

An Intrinsic MicroRNA Timer Regulates Progressive Decline in Shoot Regenerative Capacity in Plants
Zhang et al.  Plant Cell (2015) 27:349-360.

doi:10.1105/tpc.114.135186

植物細胞は分化全能性があり、分化した器官から個体を再生する能力がある。この過程には、オーキシンとサイトカイニンの2つの植物ホルモンが関与している。この能力は植物の齡が進むにつれて失われていくが、その機構は明らかとなっていない。中国科学院 上海生命科学研究院 植物生理生態研究所Wang らは、タバコとシロイヌナズナの葉切片からのシュート再生能力が植物の齡によって変化するかを調査した。その結果、タバコでは若い葉ほどサイトカイニン(6-BA)添加培地でのシュート分化率が高くなることがわかった。シロイヌナズナの葉切片では、オーキシンを含むカルス誘導培地で形成されたカルスをサイトカイニン(2-IP)を含むシュート誘導培地に移植してシュートを分化させる。この時、カルス誘導に関しては葉の齡による変化は見られなかったが、シュート分化率は若い葉の方が高くなっていた。よって、シュート再生能力は植物の齡が進むにつれて低下すると言える。また、タバコもシロイヌナズナも培地に添加するサイトカイニン量が増えるとシュート再生率が高くなった。マイクロRNAのmiR156は、SQUAMOSA PROMOTER BINDING PROTEIN-LIKE(SPL)転写因子をターゲットとしており、多くの植物において若齢期から成熟期への移行に関与していることが知られている。miR156を過剰発現(Pro35S:MIR156 )させたタバコは野生型と比べて再生能力が高まったが、miR156を不活性化するターゲットミミックMIM156を過剰発現(Pro35S:MIM156 )させたタバコは再生能力が低下した。miR156の過剰発現は齡によるシュート再生の低下を抑制した。シロイヌナズナ葉切片のカルス誘導において野生型とPro35S:MIR156 およびPro35S:MIM156 の間で違いは見られなかったが、シュート再生能力とmiR156量との間には正の相関が見られた。また、培地に添加するサイトカイニン量を増やすことでPro35S:MIM156 での低いシュート再生能力が改善された。これらの結果から、miR156はシュート再生能力に関与していることが示唆される。miR156のターゲットとなるSPLは、SPL3、SPL4、SPL5のグループと、SPL2、SPL6、SPL9、SPL10、SPL11、SPL13、SPL15のグループの2つに別れる。miR156のターゲットとならないSPL3rSPL3 )を過剰発現させた個体はシュート再生率が野生型と同等であったが、rSPL9 を過剰発現させた個体は再生率が低下した。よって、SPL9 グループ遺伝子がシュート再生能力を制御していることが示唆される。spl9-1 spl15-2 二重変異体のシュート再生能力は野生型よりも高く、miR156過剰発現個体よりも低いことから、miR156のターゲットとなるSPL9 グループ遺伝子はシュート再生に関して機能的冗長性があると考えられる。miR156過剰発現個体の内生サイトカイニン量は野生型と同等であり、miR156は内生サイトカイニン量を制御することでシュート再生能力を制御しているのではないと考えられる。シロイヌナズナにおいてサイトカイニンシグナル伝達に関与しているB-タイプARR転写因子の変異体arr2-4 arr12-1 およびarr1-3 arr10-5 arr12-1 はシュート再生能力が低下しているが、miR156を過剰発現させても再生能力の回復は見られなかった。よって、miR156とそのターゲットであるSPLはB-タイプARRを介してシュート再生能力を制御していることが示唆される。miR156過剰発現個体ではサイトカイニンレポーターProTCS:GFP の発現量が増加しているが、オーキシンレポーターProDR5:GFP 発現量に変化は見られなかった。よって、miR156-SPLによるシュート再生制御ではオーキシン応答制御は関与していないと考えられる。酵母two-hybrid 解析から、SPL9グループのSPL2、SPL9、SPL10はB-タイプARRのARR1、ARR2、ARR10、ARR12と結合するが、A-タイプARRとは結合しないことがわかった。両者の相互作用は、BiFCアッセイやCoIPアッセイから、生体内でも起こることが確認された。ARR2タンパク質は、N末端側の受容体ドメイン、中央のGRAP DNA結合ドメイン、C末端側のトランス活性化ドメインから構成されており、トランス活性化ドメインがAPL9との結合に関与していた。B-タイプARRはサイトカイニン処理によって受容体ドメインのAsp残基がリン酸化されるが、リン酸化はARR2-SPL相互作用に関与していなかった。ARR2 を過剰発現させたタバコではProTCS:LUC の発現量が増加するが、rSPL9 を過剰発現させたタバコでは発現量が減少した。B-タイプARRrSPL9 を同時に過剰発現させるとProTCS:LUC の発現量は減少することから、SPL9 の過剰発現はタバコでの内生サイトカイニン応答を阻害していることが示唆される。ARR2のトランス活性化ドメイン(ΔARR2)と酵母GAL4のDNA結合ドメインとの融合タンパク質(BD-ΔARR2)を過剰発現させた植物ではレポーターのPro6xUAS:LUC の発現量が増加するが、rSPL9を同時に発現させるとBD-ΔARR2によるレポーターの活性化は抑制された。ARR2 を過剰発現させた個体は野生型よりも再生能力が高く、SPL9 を発現させることによって低下していた再生能力を回復させた。以上の結果から、齡の進んだ植物ではmiR156のターゲットとなるSPL の発現量が増加することでB-タイプARRの機能が抑制され、サイトカイニンを介したシュート分化能力が低下するものと考えられる。

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