Causal role of a promoter polymorphism in natural variation of the Arabidopsis floral repressor gene FLC
Zhu et al. Current Biology (2023) 33:4381-4391.
doi:10.1016/j.cub.2023.08.079
シロイヌナズナは世界中に分布し、開花する時期に大きな変異がある。シロイヌナズナの花成は、花成抑制遺伝子座FLOWERING LOCUS C(FLC)とその転写活性化因子FRIGIDA(FRI)の2つの主要な決定因子によって制御されている。特に、FLC の発現は花成に大きく影響し、FLC 低発現系統は夏生一年生を示し、低温にさらされることなく花成する。対照的に、FLC 高発現系統は越冬一年生となり、花成前に冬越し(低温春化処理)が必要となる。英国 ジョン・イネス・センターのDeanらは、春化応答において重要な秋のFLC 発現について、Col-0(fri)、Col FRI(SF2系統のFRI をCol-0に導入)、およびFLC 発現の高いスウェーデンの系統Var2-6のFLC をCol FRI に導入したVar2-6近同質遺伝子系統(Var2-6 NIL)を用いて調査した。Col-0は夏生一年生で、花成に春化処理を必要としない。Col FRI は花成が遅いが、迅速な春化応答を示す。Var2-6 NIL は春化応答が遅く、完全に花成を促進するためには8週間の低温暴露が必要である。温暖(非春化)および低温(春化処理)条件下で育成した芽生えを用いて5' RACE解析を行ったところ、FLC の転写開始点(TSS)のほとんどがATGから-60 bpから-120 bpの間に分布していたが、Col FRI(温暖および低温育成)とVar2-6 NIL(低温育成)では、主要なTSS(mTSS)の100 bp上流に上流転写開始点(uTSS)のクラスターがマッピングされた。Col-0はFLC 発現が低くく、uTSSはCAGEseq等によって検出された。uTSSからの転写産物は、完全長FLC mRNAで、選択的スプライシングは検出されず、5' UTRにORFはなかった。FRIは、FLC のuTSSとmTTSの両方からの転写を、uTTS使用率に影響することなく促進した。温暖育成したVar2-6 NIL芽生えでは5' RACEにおいてuTSS FLC が検出されなかったが、その後の解析の結果、Var2-6 NILのFLC RNA総量はCol FRI と比較して3倍近く多いが、uTSSからのFLC 発現は半分程度であることが判った。他のFLC ハプロタイプの解析からも、uTSS使用率の減少とFLC 発現量の増加との間に関連があることが判った。uTSSコアプロモーターの塩基配列を見たところ、一塩基多型(FLC ATGの上流230bp、以下SNP-230と命名)が存在し、Col-0ではAであったが、他のFLC ハプロタイプではGであった。配列決定されたシロイヌナズナ1135系統のうち、1.6%(18系統)がAバリアントであり、88.2%がGバリアントで、10.2%はその配列に様々な欠失を有していた。Aバリアント系統の地理的分布を見たが、Aバリアントと気候条件との間に関連はなかった。さらに、アブラナ科のほとんどの種はこの部位がGであり、Gバリアントが祖先型であると考えられる。Aバリアント系統は、FLC 発現が低く、花成や春化応答が早かった。SNP-230の変異がTSS選択とFLC 発現の変化の原因であるかを調べるため、SNP-230にAからGへの点変異(A-230G)を持つCol FLC を導入した形質転換体を作出して解析を行なった。その結果、G置換は、FRI とfri の両バックグランドでuTSS使用率を有意に低下させたが、FLC 発現レベルは特にfri バックグランドで上昇した。この結果、A-230G fri はCol-0より花成がかなり遅れたが、A-230G FRI はCol FLC FRI と同じ時期に開花した。これらの結果から、SNP-230がVar2-6 NILにおけるuTSS使用の減少の原因となるSNPであると考えられる。GバリアントによるuTSS使用の減少はFRIとは無関係であることから、SNP-230はFRIの遺伝的上流で作用してFLC 発現を上昇させており、GバリアントとFRIは冗長的にFLC 発現を促進していることが示唆される。Var2-6 NILはCol FRI よりも高いFLC 量を示すが、A-230G を導入したCol FRI のFLC 量はCol FRIと同等であった。Var2-6 FLC 遺伝子の第1イントロンにはSNP+259(TからGへの置換)が存在し、Var2-6でのFLC 高発現に貢献している。Col FLC のSNP+259をGに置換した系統とVar2-6 FLC をGに置換した系統を用いた解析から、Var2-6 NILではSNP+259に起因する高いFLC 発現と、SNP-230によるuTSS利用の低下が相乗的に作用してFLC 発現を高め、花成に影響していることが判った。uTSS使用と低温春化処理との関係を見たところ、uTSSおよびmTSSから発現されるFLC は、試験したすべての遺伝子型において低温処理とともに徐々に減少したが、uTSSの相対的な使用量は低温処理後に増加することが判った。Col FLC と A-230G との間のuTSSからのFLC 発現の差は、非春化処理や2週間春化処理後と比較して5週間春化処理後のほうが小さくなっていた。したがって、SNP-230を介したTSS選択は、主に温暖な条件下または短期間の低温処理後のFLC 発現に影響していた。また、SNP+259によるFLC の高発現は、春化処理とは無関係であった。これらの結果から、SNP-230は、寒冷によるFLC のエピジェネティックなサイレンシングではなく、秋のFLC 発現に影響を与えていると考えられる。以上の結果から、シロイヌナズナFLC 遺伝子のプロモーター領域のSNP(SNP-230)は、転写開始点の選択に関与しており、他のSNP(SNP+259)や転写活性化因子(FRIGIDA)の変異と組み合わさることでFLC 発現の量的変異を引き起こし、開花時期の変異に寄与していると考えられる。