Laboratory ARA MASA のLab Note

植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
ホームページの更新情報

論文)ブラシノステロイドの虫害に対する効果

2018-10-03 22:35:24 | 読んだ論文備忘録

Brassinosteroids mediate susceptibility to brown planthopper by integrating with the salicylic acid and jasmonic acid pathways in rice
Pan et al. Journal of Experimental Botany (2018) 69:4433-4442.

doi:10.1093/jxb/ery223

ブラシノステロイド(BR)は、病原菌に対する免疫応答を負に制御していることが知られているが、虫害、特に吸汁性害虫に対する役割は明らかではない。中国 南京農業大学のWan らは、イネのトビイロウンカ(Nilaparvata lugens )に対する抵抗性におけるBRの役割について解析を行なった。ウンカの加害を受けたイネでのBRに関連した遺伝子の発現を見たところ、BR受容体のBR INSENSITIVE 1BRI1 )、BRシグナル伝達因子のBRASSINAZOLE RESISTANT 1BZR1 )、内生BR量を正に制御するSLENDER GRAINSLG )、BR生合成に関与しているD11D12 の発現量が、加害24時間後に減少していることがわかった。また、ウンカの加害を受けたイネの茎のBR量は対照よりも減少していた。これらの結果から、イネはウンカの摂食によってBR関連の経路が阻害されることが示唆される。植物の虫害に対する防御応答にサリチル酸(SA)やジャスモン酸(JA)の経路が関与していることが知られており、ウンカ加害後にSAの生合成やシグナル伝達に関与する遺伝子の発現量が一過的に増加し、JAの生合成やシグナル伝達に関与する遺伝子はSA関連遺伝子の活性化後に誘導されていることがわかった。BRを過剰生産するslg-D 変異体の幼苗は、野生型イネに比べてウンカ加害後の枯死率が高く、slg-D 変異体を摂食したウンカの生存率は野生型イネを摂食した場合よりも高くなっていた。同様の傾向は、他のBR過剰変異体のm107 においても観察された。BR欠損変異体のlhdd10 は、野生型イネに比べてウンカの生存率が低く、摂食するウンカの数も少なくなっていた。よって、lhdd10 変異体は野生型よりもウンカに対する抵抗性が高い。予めBR(24-エピブラシノライド)を添加した幼苗のウンカ加害後の枯死率は対照よりも高く、ウンカの生存率も高くなっていた。よって、BRはウンカに対するイネの感受性を促進していることが示唆される。BR処理したイネではSA生合成酵素遺伝子の転写産物量が減少しており、このような傾向はBR過剰生産変異体においても見られた。また、BR処理した幼苗やBR過剰生産変異体ではSA量が対照よりも少なくなっていた。逆に、lhdd10 変異体ではウンカ加害後のSA生合成酵素遺伝子の転写産物量やSA量が野生型よりも多くなっていた。SA処理したイネを摂食させたウンカは対照よりも生存率が低く、SA処理したイネの枯死率は対照よりも低くなっていた。一方、サリチル酸分解酵素遺伝子(NahG )を発現させたイネは、野生型よりもウンカ加害に対する感受性が高くなっていた。これらの結果から、BRはイネのSA経路を抑制することでウンカに対する抵抗性を負に制御していることが示唆される。BR処理はJA関連遺伝子の発現量を増加させ、内生JA量も増加させた。また、BR過剰生産変異体ではウンカ加害後にJA関連遺伝子の発現が誘導され、BR欠損変異体では抑制された。したがって、BRはウンカ加害後にJA経路を誘導していると考えられる。JA経路とSA経路は相互に拮抗的に作用することが知られている。今回の研究からBRはSA経路を抑制してJA経路を活性化することが示されたので、BRによるSA経路の抑制にJA経路が関与しているかを調査した。JA欠損変異体og1 やJA非感受性coi1-18 変異体では、ウンカ加害後のSA経路のBRによる抑制が見られず、SA量の減少も起こらなかった。よって、BRによるSA経路の抑制はJA経路を介してなされているものと思われる。以上の結果から、ブラシノステロイドは、ジャスモン酸経路を正に制御し、サリチル酸経路を負に制御することで、イネのトビイロウンカによる加害を増加させていると考えられる。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする