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植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
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論文)ヒストン修飾によるカルス誘導

2018-10-19 22:52:47 | 読んだ論文備忘録

JMJ30‐mediated demethylation of H3K9me3 drives tissue identity changes to promote callus formation in Arabidopsis
Lee et al. The Plant Journal (2018) 95:961-975.

doi:10.1111/tpj.14002

植物の器官を培養することによって誘導されたカルスは、側根原基に似た物理的、遺伝的な特徴を有している。このような組織分化はエピジェネティックなプログラム機構によって起こると考えられるが、詳細は明らかとなっていない。韓国 成均館大学校のSeo らは、ヒストン脱メチル化酵素のJUMONJI C DOMAIN-CONTAINING(JMJ)タンパク質をコードするJMJ30 がシロイヌナズナ葉片からのカルス形成過程で発現量が増加することに着目して詳細な解析を行なった。T-DNA挿入jmj30 変異体の葉片は、野生型と比べてカルス形成能が低下しており、JMJ30はカルス形成を正に制御していると考えられる。カルス形成に関与している遺伝子の発現をjmj30 変異体と野生型のカルスで比較したところ、jmj30 変異体カルスではLATERAL ORGAN BOUNDARIES DOMAIN(LBD)転写因子をコードするLBD16LBD17LBD18LBD29 の転写産物量が減少していることがわかった。JMJ30タンパク質はLBD16 遺伝子およびLBD29 遺伝子のプロモーター領域に結合し、LBD16LBD29 の発現を促進することがわかった。野生型植物では、LBD16 、LBD29 遺伝子プロモーター領域のH3K9me3量はカルス誘導初期段階に一過的に減少するが、jmj30 変異体カルスではLBD16LBD29 遺伝子のH3K9me3量が野生型よりも高くなっていた。したがって、JMJ30はカルス形成初期過程にLBD 遺伝子のH3K9me3を除去することで遺伝子発現を活性化していることが示唆される。JMJ30が特異的な領域のヒストンを脱メチル化するためにはDNA結合因子と相互作用をする必要がある。LBD 遺伝子の発現はAUXIN RESPONSE FACTOR 7(ARF7)やARF19によって制御されていることから、これらの転写因子とJMJ30との関係をBiFC解析やCo-IPアッセイで調査したところ、JMJ30はARF7やARF19と物理的に相互作用をすることが確認された。arf7 arf19 二重変異体では、jmj30 変異体と同様に、カルス誘導初期段階でのLBD 遺伝子プロモーター領域のH3K9me3量が増加し、JMJ30タンパク質のプロモーター領域への結合量が減少していた。よって、JMJ30とAFRは協働してカルス形成を制御していることが示唆される。LDB16 を過剰発現させた形質転換体(LBD16-ox )はカルス形成能が向上しており、LBD16-ox/jmj30 のカルス形成能はLDB16-ox と同等であった。このことから、カルス形成においてLBD はJMJ30よりも上位に位置していると考えられる。ヒストンリシンメチルトランスフェラーゼのARABIDOPSIS TRITHORAX-RELATED 2(ATXR2)は、LBD16LBD29 遺伝子のプロモーター領域でのH3K36me3の蓄積を促進してカルス形成を誘導することが報告されており、ATXR2はARF転写因子と結合し、JMJ30とATXR2のLBD 遺伝子プロモーターへの結合能力は同等であることが知られている。酵母two-hybridアッセイから、JMJ30とATXR2は物理的に相互作用をすることが確認された。jmj30 変異体ではカルス形成過程の間のLBD16 、LBD29 遺伝子プロモーター領域のH3K36me3 の増加が抑制された。また、atxr2 変異体カルスではLBD16 およびLBD29 プロモーター領域でのH3K9me3の減少が阻害された。jmj30 atxr2 二重変異体は、それぞれの単独変異体よりもさらにカルス形成が抑制された。したがって、JMJ30とATXR2はカルス形成において相乗的に作用していることが示唆される。以上の結果から、ARF-JMJ30-ATXR2複合体は、LBD 遺伝子の2つのエピジェネティックマーカーH3K9me2とH3K36me3を制御することでLBD 遺伝子を活性化し、カルス誘導に関与していると考えられる。

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