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植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
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論文)グルコースによる根の伸長阻害機構

2014-06-20 20:35:57 | 読んだ論文備忘録

Glucose inhibits root meristem growth via ABA INSENSITIVE 5, which represses PIN1 accumulation and auxin activity in Arabidopsis
Yuan et al.  Plant, Cell & Environment (2014) 37:1338-1350.
DOI: 10.1111/pce.12233

グルコースは植物の成長において炭素源としてだけでなく、ホルモン様のシグナル物質としても機能しており、3-5%の高濃度グルコースはシロイヌナズナ芽生えの一次根の伸長を阻害する。中国 武漢大学のLu らは、グルコースによる根の伸長阻害機構を解析した。シロイヌナズナ芽生えの一次根はグルコース添加により分裂領域の長さが短くなり、これは細胞数の減少によるものであることがわかった。また、高濃度グルコースは根の伸長領域と分裂領域の大きさと細胞長を減少させた。しかし、芽生えにショ糖を添加した際には、根の長さ、分裂領域の長さや細胞数に変化は見られなかった。また、代謝されない3-オルソ-メチル-グルコース(3-OMG)を添加すると、根の長さが短くなり、分裂領域の長さと細胞数の減少が起こった。これらの結果から、グルコースは根の分裂組織の成長を阻害するシグナル分子として作用していると考えられる。根の分裂領域が短くなる原因としては、分裂組織細胞の分裂能の低下か分裂組織細胞の伸長・分化過程への早期移行が考えられる。そこで、マーカーとしてCYCB1;1::GUS コンストラクトを導入した形質転換体で根分裂組織の分裂活性を見たが、グルコース添加による変化は見られなかった。また、QC25::GUS もしくはQC46::GUS を導入した形質転換体で分裂組織の幹細胞の活性を見たが、こちらもグルコース添加による変化は見られなかった。したがって、根の分裂領域の伸長・分化への移行がグルコース添加によって早まったことで分裂領域が短くなったと考えられる。植物の成長を調節しているオーキシンの分布について、オーキシンセンサーであるDII-VENUSを用いて調査したところ、グルコース処理は根のオーキシン活性を低下させることがわかった。また、グルコース処理は根端部のオーキシン量を低下させていた。オーキシンの分布は極性輸送よって調節されている。芽生えをオーキシン輸送阻害剤ナフチルフタラミン酸(NPA)で処理すると、グルコース処理をした場合と同様に根分裂組織の細胞数や長さの減少が起こるが、NPAとグルコースを同時に処理しても根分裂組織の異常が相加的に悪化することはなかった。よって、グルコースはオーキシン極性輸送に影響を及ぼすことで根分裂組織の細胞数や長さの制御に関与していると思われる。シュートから根へのオーキシン極性輸送に関与しているオーキシン排出キャリアの変異体pin1 の根は、グルコース処理に対する感受性が低下していた。野生型植物の根のPIN1 発現量はグルコース処理による変化は見られなかったが、PIN1タンパク質量は減少することがわかった。よって、グルコースはPIN1タンパク質の蓄積を制御していると思われる。グルコースによる成長制御はアブシジン酸(ABA)シグナルが関与していることが報告されており、ABA非感受性abi5 変異体はグルコース処理に対して非感受性、ABI5 過剰発現個体は高感受性となった。また、グルコース処理をした芽生えの根ではABI5 の発現が増加していた。以上の結果から、グルコースはABI5 の発現を誘導することでPIN1タンパク質の蓄積を低下させ、このことによって根のオーキシン活性が低下して根分裂組織領域が短くなると考えられる。

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