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「1960年代 知識人の凋落」(その6):「知識人」の権威が失われるとき(高橋和巳、小島信夫、石川達三)!「知識人予備軍」の挫折:柴田翔、庄司薫!(斎藤美奈子『日本の同時代小説』1)

2022-02-07 09:19:50 | 日記
※斎藤美奈子(1956生)『日本の同時代小説』(2018年、62歳)岩波新書

(7)「知識人」の権威が失われるとき:高橋和巳『悲の器』(大学法学部長の二股疑惑)、小島信夫『抱擁家族』(翻訳家の浮気問題)!
H 1960年代には、「知識人の権威を失墜させる」ような、あるいは「知識人がお呼びでなくなった時代の苦悩」を描いた作品が、続々と登場した。(19-20頁)
H-2 知識人批判で出色だったのは高橋和巳(カズミ)(1931-71)『悲の器』(1962、31歳)だ。国立大法学部長の教授・正木典膳(55歳)は、戦時中、大学助教授から検事に転身し「獄中で病死した者」や「転向後に自殺した者」をしり目に如才なく立ち回り、戦後また大学に戻り現在の地位を得た。だが妻亡き後、女性スキャンダル、家政婦と年の若い令嬢(婚約者)との二股疑惑が彼を襲う。令嬢(婚約者)は婚約を解消して言う。「男が思っているほど『名誉や地位』は魅力があるわけではありません。」(20-21頁)

H-3 小島信夫(1915-2006)『抱擁家族』(1965、50歳)は家族の崩壊を描く。翻訳家の三輪俊介(45歳)は2歳年上の妻の浮気を知り、怒って対抗上、自分の浮気もばらし、夫婦は破綻。そして妻は俊介を翻弄し乳がんで死ぬ。知識人として対面を保って来た男が、妻から冷たい目で見られ、子どもたちも父親に批判的だ。(21-22頁)
H-4 『悲の器』(1962)の正木典膳(55歳)も『抱擁家族』(1965)の三輪俊介(45歳)も、(※プライベートな)状況を受け止められず、滑稽な振る舞いを繰り返す「名誉や地位を持つ」or「対面を保って来た」知識人だ。(21-22頁)

(8)「知識人予備軍」の挫折:柴田翔『されど われらが日々――』(1969)(革命のために死んだ仲間もいるのに、小市民的な生き方を選んだ)!
I 60年代を代表する青年小説と言えば、柴田翔(1935-)『されど われらが日々――』(1964、29歳)、庄司薫(1937-)『赤頭巾ちゃん気を付けて』(1969、32歳)だ。どちらも若者らの支持でベストセラーとなった。(22頁)
I-2 柴田翔『されど われらが日々――』(1964)は1950年代末が舞台。大橋文夫は東大英文科修士課程在籍中。その婚約者が節子(東京女子大卒で商社に勤める)。節子は東京女子大歴研(歴史研究会;政治色が強い)に所属していた。2人の共通の友人、東大歴研にいた佐野は共産党員で大学時代、「山村工作隊」として地下に潜っていた。しかし共産党は六全協(第6回全国協議会)(1955)で、党の方針を武装闘争から議会中心に変更する。その虚無感から佐野は睡眠薬自殺する。大橋と節子は、衝撃と後ろめたさで、素直に向かい合えなくなり、結局、別れる。
I-2-2  大橋と節子をとらえているのは、「革命のために死んだ仲間もいるのに、小市民的な生き方を選んだ自分は、これでいいのだろうか」という不安だ。(22-23頁)

I-2-3 なお、これは大江健三郎(1935-)『われらの時代』(1959、24歳)と通じる感覚だ。(※『われらの時代』の主人公・靖男は左翼活動家の八木沢を介し、アルジェリアの民族戦線のアラブ人に共鳴し、フランス留学の機会を失う。靖男は八木沢から左翼活動の参加を提案されるが拒否。友人を失い、同棲相手の頼子も失い、弟も天皇爆殺計画で死に、靖夫は自殺しようとするがその勇気もない。)(23頁)

(8)-2「知識人予備軍」の挫折(続):庄司薫『赤頭巾ちゃん気を付けて』(1969)(大学進学者が増大し「知識人/大衆」というすみ分けが解体する瀬戸際)!Cf. 石川達三『青春の蹉跌』(1968)(「共感できない」エリートの傲慢)!
I-3  庄司薫『赤頭巾ちゃん気を付けて』(1969、32歳)の舞台は1969年だ。語り手の「ぼく」は都立日比谷高校卒で、東大受験を目指すが、学園紛争で東大入試が中止となり、浪人している。(※受験期さなかの2月9日に考えたこと・起こったことが綴られる。「中二病」or「厨二病」(チュウニビョウ)的。思春期の背伸びしがちな言動、自己愛に満ちた空想や嗜好が描かれる。(23-25頁)
I-3-2 大学進学者が増大し「知識人/大衆」というすみ分けが解体する瀬戸際を描く。崩壊しつつある旧秩序をみずみずしい感受性で切り取った。(25頁)

I-4 石川達三(1905-1985)『青春の蹉跌(サテツ)』(1968、63歳)もこの時期のベストセラーだ。司法試験に合格した法学部の苦学生(江藤賢一郎)の歪んだ自己意識を描く。出世のために妊娠させた女性を殺害してもエリートという自負がある江藤は、自分の犯した罪の重さがわからない。エリートの傲慢という点で『悲の器』『抱擁家族』と共通する。(25-26頁)
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