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「1970年代 記録文学の時代」(その10):「青春小説の大爆発」の理由①青春の質の多様化、②文芸各誌の新人賞創設、③使い勝手のいい「一人称小説」定着!(斎藤美奈子『日本の同時代小説』2)

2022-02-24 17:08:09 | 日記
※斎藤美奈子(1956生)『日本の同時代小説』(2018年、62歳)岩波新書

(23)「『青春小説の大爆発』はなぜ起こったか」すなわち「青春小説の大爆発」の理由①:全員「そこらの若者」だ、つまり青春の質が多様化した!
J 中上健次(1946生)、村上龍(1952生)、三田誠広(1948生)、宮本輝(1947生)、高橋三千綱(1948生)、村上春樹(1949生)、立松和平(1947生)ら1970年代の「青春小説の大爆発」。主人公は全員、(a)「東京」に幻想を抱いていない、(b)「知識人いかに生くべきか」的な悩みと無縁、(c)「政治的」でもない。(d)彼らはいわば、全員「そこらの若者」だ。なお(e)みんな「微妙に不機嫌」だ。(78頁) 

J-2 「青春小説の大爆発」の理由①:「青春の質が多様化した」。庄司薫(1937生)『赤頭巾ちゃん気を付けて』(1969)の主人公「薫くん」は、1970年前後に青春を送った。1970年代の「青春小説の大爆発」における主人公たちも同じ時代に青春を送った。(78-79頁)
J-2-2 「薫くん」は(ア)東京の中産階級の家に生まれ、エリート高校から東大を目指す受験生。だがそんな子は世の中に人握りしかいない。(イ)新聞販売所の寮でくすぶっている子(中上)もいれば、(ウ)基地の町でラリっている子(村上龍)、(エ)※セクト幹部で年上のレイ子と同棲し流されていくノンポリの大学生(三田)、(オ) ※北陸富山を舞台に古風な思春期を経験する少年(宮本)、(オ)部活で汗を流す高校生(高橋)、(カ)※自己の独自の世界を構築しその内で主観的に生きる青年(村上春樹)、(キ)都市近郊でトマト栽培に精を出す青年(立松)など、「青春の質が多様化した」。(78-79頁)

(23)-2 「青春小説の大爆発」の理由②:多様な青春をすくい上げる(小説家の)人材登用のシステムが整った!
J-3 「青春小説の大爆発」が起こった理由の第2は、多様な青春をすくい上げる(小説家の)「人材登用のシステム」が整ったことだ。(79頁)
J-3-2  昔の文学青年が小説家を目指す場合、上京して著名な作家の門を叩くか、同人誌で腕を磨く以外になかった。(だから同工異曲に「ヤワなインテリの小説」ばかり製造された。)(79頁)
J-3-3  だが1950-60年代に、文芸各誌の新人文学賞が続々創設された。かくて修行の過程をショートカットして、若い書き手がいきなり文壇に登場する道が開かれた。(Ex. その先駆的な例が1955年、文學界新人賞受賞の石原慎太郎『太陽の季節』だ。)(79頁)

(23)-3 「青春小説の大爆発」の理由③:「僕/ぼく」で語る「一人称小説」の定着!
J-4  1970年代の多くの青春小説が「僕/ぼく」という「一人称一元小説」(ひとりの視点で書かれた小説)だ。(79頁)
J-4-2  「一人称小説」は岩野泡鳴(1873-1920)が「僕は一夏を国府津の海岸に送ることになった」ではじまる情痴小説『耽溺』(1909)で発明した方法と言われるが、1960年代までは一般的な方法でなかった。「私小説」の多くも「A男は・・・・」などと書く「三人称一元小説」だった。(79-80頁)
J-4-3 「僕」を多用しその効用を知らしめたのは、大江健三郎と庄司薫だ。(80頁)
J-4-4  やはり団塊世代の沢木耕太郎(1947-)『敗れざる者たち』(1976)も、「ぼく」という一人称で自身とスポーツ選手を訪ねる一種の青春小説(的ノンフィクション)だった。(80頁)
J-4-5 「僕/ぼく」という男性の一人称は、(ア)「私」よりカジュアルで、「俺」よりフォーマルで使い勝手がいい。また(イ)「何気ない日常に秘められた不安」を語る現代の小説と相性がいい。(80頁)
J-4-6  1970年代後半以降は「神の視点」で語る「三人称小説」のほうが珍しくなる。「私小説」ならぬ「僕小説」の誕生。「僕/ぼく」を自家薬籠中のものとした団塊作家の登場は「一人称の時代」のはじまりを告げるものだった。(80頁)

J-5  1970年代から80年代にかけて、芥川賞の「取りこぼし」が目立つ。村上春樹に芥川賞を出し損ねたことは芥川賞の「汚点」として語り継がれることになる。旧世代の選考委員には、戦後生まれの小説が理解できなかったのだろう。(80頁)
《参考》「1973-80年の間、芥川賞選考委員だった者」:滝井孝作、丹羽文雄、船橋聖一(1975まで)、井上靖、中村光夫、永井龍男(1977まで)、大岡昇平(1975まで)、 安岡章太郎、吉行淳之介、遠藤周作(1976から)、大江健三郎(1976から)、開高健(1978から)、丸谷才一(1978から)。
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