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バロン

2009-01-23 | オススメ旧作映画
18世紀のとある街が舞台。
トルコ軍に囲まれ攻め入られるのも時間のうち、毎日戦死者が出ているこんな時にも役人は市民の事になんてお構いなしで、理性という言葉を楯にお役所仕事的に事に当たっている。
そんな戦乱の中でも劇場ではほら吹き男爵の喜劇『バロンの冒険』が細々と上演されていた。

物資の不足、人員の不足に、劇団員達のやる気は同じく不足気味で芝居の内容は酷いったらありゃしない。
突如、芝居を中断させるべく現れた、自らを「私が本物のバロン・ミュンヒハウゼンだ!」と名乗る小汚い身なりの老人。
彼の言葉は本当なのだろうか。


監督のテリー・ギリアムは、膨れ上がってしまった製作費の為に思い通りの映画に仕上がらなかった上に、回収にも失敗したと後悔しているのだそうですが、俺は大好きです。この映画。

膨大にかかってしまった製作費は観れば納得。
カメラが切り替わる度に変お金がかかってます。
場面ごとに変わる大がかりなセットの数々、膨大な量の衣装や大道具に小道具、実物を使ったクオリティーの高い特撮の数たるや、最近のド派手な映画を観慣れた後に改めて1989年の映画だと思ってこの映画を観ると圧巻の豪華さ。

でも本質的に好きなところは別の部分。

主人公は自らをバロンと名乗る老人と、彼を信じる芝居小屋の少女のふたり。

彼は本当にバロンなのか、彼の口から出てくるほら話としか思えない言葉に乗せて芝居が始まったかと思えば芝居が現実へとシームレスに切り替わり、考える間も与えないまま現実とファンタジーとの境が混沌としていく。
劇中劇が終わってからも少女の目から観た彼はいつでもバロンなのだけれど、どこかずっと嘘臭さが漂ってて消えない。
でも現実には有り得ない描写が次々にあり、少女の目線でのみ見えている世界なのかと観ている側は最初の15分で翻弄されてしまうことになる。

そのままバロンと少女が冒険に旅立ち、同時に観客をテリー・ギリアム流のファンタジー映像の世界へといざなってくれるのですが、最初に持った疑念がずっと尾を引き、どう見てもファンタジーの世界を描いているのにどこか嘘っぽさを残してくれる作りがバロンの性格と同様にヒネていて楽しい。。

テリー・ギリアム流というのは便利な言葉で、他に似たモノが無かったから仕方が無いんですが、今ではこの映画からパクってる映画がいくらでも有りますね。
(例えば、一番わかりやすいのは『パイレーツ・オブ・カリビアン ワールド・エンド』の前半世界の果てを船が進む辺りの描写や海が反転する場面など、世界の果てと現実の狭間の描写が曖昧なところも同じっちゃ同じ)

冒頭の舞台に登場する役者達とそっくりな住人達が次々に出てくるファンタジーの世界を観ていると、ますます現実とファンタジーの関係が気になっていくのですが、クライマックスのどんでん返しに嬉しい仕掛けが待っています。

ちなみに、映画やワイドショーで耳にする事の多い“ミュンヒハウゼン症候群”という病名は、この物語の原作『ほら吹き男爵の冒険』の主人公ミュンヒハウゼン男爵から付いたのだそうですね。

オススメ度:94%



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