いつの間にかテレビをつけっパで寝ていた。
テレビから流れる歓声にまじって、小さなカチリという音がする。私は目を覚まし耳をすます。時計を見ると11時半。
あぁ、お父さんが帰って来たんだ。
ガチャ、ギー、バタン。
お父さんが帰って来た!
パタ、パタ、パタ。
玄関から居間までのわずかの距離の足音も聞き逃さない。
私は飛び起きて正座して散らかしてあった本を開いて読んでいたふりをする。
「ただいま、みのり」
「お帰りなさい、お父さん!」
お父さんが私に言う。
「みのりは毎日おそくまで勉強で大変だね、今日はごほうびにおみやげを買ってきたよ」
お父さんのお土産は、お母さんがいなくなってから毎晩のことなので、たまにはガッカリ3年モノのお土産もあるけど、たいていは食べ物か飲み物なので嬉しい。今日は何かな?
「今日はすごいよ。ジャーン! 便所の電球だ!」
段ボール紙に包まれた便所電球。
仕事以外には無頓着なくせしてトイレの電球が切れていた事に気がついていたんだ。そして今夜も家に帰ってくるつもりで、どっかで思い出して電球を買ったんだね。
なにより、今夜もちゃんと帰って来てくれた。
「ありがとうお父さん。タングステン燃え尽きるまで大切につかうよ!」
お父さんが残業の日は、たいてい会社で6時前に夕ご飯をすませるので家でご飯を食べない。そして、お父さんはほとんど毎日のように残業か接待か飲み会な上に朝も早いので、家じゃ休日以外はご飯を食べない。
「とくに何か他に必要な物はないか?」
「とくにない」
千円札をピタンとちゃぶ台に置く。
「これで足りる?」
「大丈夫だよ!」
お母さんがいなくなってから、お父さんは毎日かかさずに食費だと千円くれる。大丈夫だよ、私はそれで問題ないよ。
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