皮膚呼吸しか知らない蛙

アスペルガー症候群当事者が、2次障害に溺れることもありながら社会に適応していく道のりを綴っていきます。

WISC-Ⅲの解釈に関して

2008-11-07 23:36:23 | アスペルガー症候群

幼児期・学童期の児童の発達検査に使用されているウェクスラー式知能検査WISC-Ⅲは、文献として購入できるものも出ておりある程度勉強できるが、

成人用のWAIS-Ⅲに関しては研究機関の数少ない文献、
改訂前のWAIS-Rの文献、
WISC-Ⅲの文献からの推論(WISC-IIIアセスメント事例集 : 理論と実際 / 藤田和弘 [ほか] 編著. -- 日本文化科学社 等)
日本文化科学社の「検査法(2冊1組:10,500.-)」、
藤田 和弘、 前川 久男、大六 一志、 山中 克夫各氏の講座を受講するなど、勉強できる機会は非常に限られていると思います。

児童は定期的にWISC-Ⅲを実施することにより、発達の度合いの変化を見ていく等分かりやすい面があると思いますが、WAIS-Ⅲを受けようという成人は様々な二次障害の末に辿り着いた領域であることが多く、検査を受けても所見を出すのは相当難しいことだと思います。


ここではまずWISC-Ⅲ知能検査アセスメントに関して述べてみたいと思います。
発達障害児者への知能検査としてWISC-Ⅲの適応が不可欠な理由は以下のように述べられている。


知能とは、「認知・記憶・思考・判断・推理などの知的機能の複合した有機体の環境に対する知的適応の可能性を示す実用的概念」と定義されているように、多面的な機能の全体的バランスの問題も考慮しなければならない。

広汎性発達障害児者の場合、単純な視覚情報だけの問題やパターン認知の短期記憶課題だけが各年齢段階で正解となるために、算出されたIQと実際の社会適応力レベルとのズレが大きくなる場合もしばしば聞かれる。

<Trial on Clinical Application for WISC-Ⅲ: Assessment with interactive viewpoint より引用>

自閉症(カナータイプ)の場合「視覚優位なため、言語性よりも動作性が高い」と指摘されることが多く、
アスペルガー障害児者では「言語性が動作性よりも高い傾向にある」と指摘されることが多い。


木谷(2003)によると、ある高機能自閉症児のWISC-Ⅲ継続実施によって興味深い結果が得られたと報告されている。

言語性課題は家庭や学校での支援や発達につれてプロフィールが大きく変化している。その一方で、動作性課題はプロフィールの変化があまり見られない。
この現状は他の高機能自閉症児やアスペルガー症候群児でも見られることから、木谷ら(2006)は、動作性課題は生来からもつ外界からの感覚的刺激世界に対する情緒的な反応の敏感さをみる課題として考えている。そして、言語性課題は言語も含めた自己表現(後天的な学習環境に起因する)の柔軟性の発達的変化をみる課題と考えている。

ワタシの個人的解釈としては、言語性課題は日常生活を送っているとかなりの頻度で不具合に衝突することによる学習、周囲との適応を迫られることによる経験値等、現在の学校教育及び社会生活において後天的に学習する機会が比較的多い印象があります。
ですので先天的な脳機能障害があったとしてもその子なりの発達的変化を示す可能性は高いと。
一方動作性課題は現在の教育制度の中ではなかなか能力を発揮・研鑽する機会がないこと、認知面に加えて情緒的反応を要求される項目が多いことからも発達を促す要因が少ない様な気がします。

療育等支援を受ける機会を得られなかった成人のアスペルガー障害者は、このような経緯を持っている可能性があるのではないかと感じています。

基本的に生育歴、検査時の反応、普段の生活状況等を勘案して下位検査数値・群指数に有意な意味合いが認められた場合にWISC-Ⅲから所見としてクライアントの特徴が推測という形で示されます。

発達障害児者の検査所見を聞いた保護者が自分自身もそうではないか?と思うことはよくある様で、実際WAIS-Ⅲを実施してみると、母子共にかなり似た傾向を示すことが多いそうである。


ここからが肝心なことなのですが、WISC-Ⅲを受けようと児童精神科にやってくる自閉症児者、アスペルガー症候群児者の多くが生来からの問題だけでなく、二次障害(ここでは成人に見られる気分障害や人格障害、統合失調症の事ではなく)として社会的不適応状態により来院しているというのが事実であると思います。


なんらかの問題点があり、その問題点を早急に解決しながらも、根本的な状態像への対応が重要になってくるため、明確になる対人関係や状況判断に応じた行動面の特徴を具体的にしながら対応を具体的に検討するほうが、明確な方向性を見極められることになり重要であると思われます。
「単に全IQが低い、言語性IQが低い、動作性IQが低い」等々ではなく。
下位検査項目得点の不均衡が示すScatter analysisは注意深くお聞きするべき要所ではないのかな?と個人的に思っています。

家族の中に発達障害をもっている人物がいることで家族関係まで問題となり、より複雑化している家庭は多くあると思いますが、家族全体が精神的な健康度を有し支える家族にも展望が持てる様なより具体的なフィードバック等の情報共有を試み、家族のアセスメントを実施することも重要であると思います。

うちの子は自閉症だから○○。
と自叙伝やハウツー本を出されている当事者の方の書籍から得た知識を我が子に当てはめるのではなく、検査を実施して下さった臨床心理士、診断を下した主治医との連携を密に取ることがWISC-Ⅲの目的であり、クライアントの今後の生活を豊かなものにする鍵になると思います。


ウェクスラー式知能検査ので算出されたIQに関する捉え方の一例。
知能検査の標準測定誤差
参考になるかは分かりませんが、興味がおありでしたらこちらも見ていって下さればと。



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