皮膚呼吸しか知らない蛙

アスペルガー症候群当事者が、2次障害に溺れることもありながら社会に適応していく道のりを綴っていきます。

学術的見地からの富士山噴火とハザードマップ

2008-11-11 23:39:51 | 地球科学

2000年と2001年に観測された低周波地震により『活火山 富士山噴火』が現実味を帯び、2003年富士山火山防災協議会設立、同年9月「富士山火山防災マップ(富士山ハザードマップ)」、「観光客用マップ」「防災業務用マップ」が作成されました。

富士山は781年以降少なくとも10回噴火したことが、古文書などの記録に残されています。864~866年に起きた「貞観噴火」では、北西山腹に火口が開き、現在樹海で有名な青木ヶ原一面が溶岩流で覆われました。また富士山の北側にあった剗の海という湖が分断されて、精進湖と西湖の二つの湖になったと言われています。

直近の噴火は江戸時代に入ってからの1707年(宝永4年)12月16日午前10時頃、記録に残る大規模な噴火で「宝永噴火」と呼ばれています。
爆発音は100㎞以上離れた江戸の町でも響き、噴煙は熱上昇気流となって、高度1万mにも達したと言われています。噴き上げられた火山灰が偏西風に乗って東側の関東平野に広がり、江戸でも正午頃から降り始めたそうです。

噴火はその後16日間続き、火口の東側一帯では大量の火山灰のために田畑や家屋が埋没、酒匂川などの河川流域では火山灰が雨に流され一部に大量に埋積し洪水が発生、下流に大水害を引き起こす要因となりました。洪水は、噴火後数十年に渡って続いたと言われています。


富士山の噴火形態は非常に特殊で、解明されていない科学的検証が多々存在します。
現在想定されている富士山の噴火史は以下の通りです。
①70万年~20万年前:小御岳火山の時代(現在、富士吉田登山口5合目の小御岳神社付近)
②10万年~1万1千年前:古富士火山の時代(小御岳火山南側)
③1万1千年前~現在:新富士火山の時代(初期の3,000年で全体の8割程の玄武岩質溶岩流出)

2001年から始まった富士山北東山麓(標高1,400m、富士スバルライン4合目付近)での深層ボーリング調査(防災科学技術研究所)により大室山が誕生した時の火山堆積物である3,000年前の「大室スコリア」、3,500年前の「火砕流」、約1万年前の「富士黒土層」などが確認、採取され、深度400m以深に土石流堆積層が確認された。
この調査では深度650mにて掘削中止、途中の安山岩質溶岩層に地震計を設置した。
<防災科学技術研究所>


その他富士山周辺ボーリングコアによる活動史
富士五湖湖底ボーリングコアに記録された富士火山活動史(PDF)

富士山周辺で実施されたボーリングコアによる地質・岩石学的特徴はまた機会があればということにしようと思います。

ワタシが研究関連部門にいた頃の通説は、富士山を形成する(火山活動で流出した溶岩、火砕岩、火山堆積物、土石流堆積物等)は玄武岩質であると言うことでしたが、この大深度ボーリング調査で深度300m以深で確認されたのは安山岩質でした。
過去10万年までの噴火痕跡のうち2例にのみ玄武岩以外に安山岩及びデイサイト質溶岩流が確認されていたのですが、このボーリングで角閃石斑晶を含む安山岩が深度300m~650mに一部確認されました。

角閃石斑晶が確認される安山岩やデイサイト質岩は珪酸塩鉱物を比較的多く含む岩石であり、従来考えられていた「富士山=苦鉄質(玄武岩質)」という概念を一部覆すことになります。


その後発表された論文
<先富士火山群 山梨県環境科学研究所, p.69-77>
により各層序の起源が分析により推定されました。


基本的に岩石の起源説を提唱する時には、全岩化学組成分析(主に蛍光X線分析装置(XRF)やX線マイクロプローブ(EPMA)を使用するのですがここでは前者での実施)により、以下のことが推定されています。

最深部に位置するグループは、小御岳溶岩や上位のグループとは明らかに異なる組成範囲を持つことから、これまでに報告されなかった富士山の古い基盤の火山であると考えられる(先御岳火山岩類と命名)。

これの意味するところは、従来の富士山形成史の変容と、富士山を形成する岩石の組成変化(つまりは起源となるマグマの組成の違い)が確認されたことで、富士山噴火のメカニズムの推定を一層複雑化する要因になってしまいました。


この富士山の噴火特性を研究することが、火口の推定、溶岩流や火砕流、山体崩壊、噴石・火山弾、降下火砕物、火山泥流、火山ガスなどの現象の発生箇所、規模、分布域、規模による影響範囲、噴火形態による噴出物の違いと言ったハザードマップを作成する因子になるのですが、今回のハザードマップ作成はもしかしたら時期尚早だったかも知れません。

噴火火口領域が修正されるとほとんどの危険領域の分布範囲は塗り替えられてしまい、噴火形態が異なると対処法も大きく異なるので、今後新たな事実が挙がった際には少しずつでもより精度の高い災害予測図にしていって欲しいと願っています。
現時点で必要な情報を提供し、今できる最善を施すことが防災のあるべき姿だと思いますので、これをより巧く活用していって頂きたいです。


なおここで記述したことは研究者・行政対応者用の災害予測図としての事ですので、周辺住民、観光客、遠隔地被害予測者、包括的災害復旧対策行政用のハザードマップ、基礎資料などは個々のニーズに応じた形にデフォルメやより広範囲な情報集積が求められるでしょう。


住民説明用ハザードマップに関する提言は別途記事にて書きたいと思います。



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