徒然なるまゝによしなしごとを書きつくる

旧タイトル めざせ、ブータン

天才と分裂病の進化論

2013年05月07日 | 進化

”天才と分裂病の進化論 ;ディビッド・ホロビン” という本がある。 著者は英国の著名な生化学者。この本では、現人類のもつ創造性は分裂病遺伝子によるもので、それは生化学的な突然変異に起因している。そして、その病像はω3必須脂肪酸、とくにEPA(エイコサペンタエン酸)の不足により顕在化するという驚くべき説を説いている。

あまり知られていない事実がある。 脳は何で出来ているか? 恐らくこの問いに正確に答えることが出来る人はあまり多くないだろう。もちろん水が最も多い、しかしそれを除いた乾燥重量を見ると脳の60%は脂肪なのだ。もうすこし正確に言うとリン脂質である。リン脂質は親水基と疎水基の二極構造をもっており親水基を外側、疎水基を内側にした膜構造をつくる。細胞膜はこのリン脂質から出来ている。そして脳はこのリン脂質の膜で構成されたとんでもなく複雑に絡み合った神経細胞の塊なのだ。

必須脂肪酸というのがある。古くはビタミンFと呼ばれていた時期もあるがビタミンは微量で効果が有るのに対してこれは人体に一定量の比率を必要とする物質なので必須脂肪酸と呼ばれる。この物質は人体内で合成することが出来ないので食物として外部から取り込む必要がある。脳を構成するリン脂質はこの必須脂肪酸により構成される。つまり、この栄養素を食べない限り正常な脳は出来ないのだ。

必須脂肪酸にはω6系脂肪酸とω3系脂肪酸があり不飽和脂肪酸と呼ばれている。ω6とかω3というのは脂肪酸の分子配列の終端から何番目に炭素二重結合があるかを示している。ω6は終端から6番目、ω3は3番目である。二重結合がある、つまり不飽和の状態の脂肪分子でω6系とω3系は体内では互換性は無い。つまりこの二種類の不飽和脂肪酸は似て非なるもので独立栄養と考えなくてはならない。そして、現代人にとって常に不足気味なのがω3系脂肪酸(αリノレン酸、DHA,EPA)である。これらω3脂肪酸は魚介類・魚油・肝油に多く含まれる。

胎児はこのω3脂肪酸を多く吸収するので母親はこれが不足して新生児うつ病を発病する。繰り返すが、ω3脂肪酸は脳の重要な構成要素で食事で取り込む以外には方法は無いのである。そして、分裂病(統合失調症)患者の血液ではω3脂肪酸の不足が常に見られる。

分裂病は悲惨な精神病だが不思議なことに、その家系は創造的な人物を輩出する。アインシュタインの息子は分裂病だ。著者はこの分裂病を引き起こす遺伝子は15万年前に突然変異により起こり、現世人類の爆発的な知的進化を引き起こしたと主張している。そして、農業化・工業化が進むにつれ食事からω3脂肪酸が減少するに伴い分裂病症状が激しくなって現在に至っているというのだ。

そして、分裂病を直す方法を提案している。EPAを多く含む魚油を一定量飲み続ければ分裂病は治る。その劇的な二重盲検試験の結果も本書で述べられている。

分裂病(統合失調症)は抗精神薬ではほとんど治らない。しかし、魚油を飲めば直る!これは分裂病患者を抱える家族には朗報だ。 これに関する最新の知見を理化学研究所が発表しているので併せて参照下さい。 http://www.jst.go.jp/pr/announce/20071113/


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