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永井路子『氷輪 上』を読み終えました

2012-12-14 07:06:22 | 日記



 こんにちは。

 永井路子『氷輪 上』中公文庫・279頁

【カバーにある紹介より】

「波濤を越え、苦難のはてに中国から渡来した戒和上鑑真の見たものはー光明皇后と結び、陰謀と術策を弄して政治権力の中枢に立ち、孝謙女帝と対抗する藤原仲麻呂。政争うずまく天平の時代を透徹した史眼で捉え直す歴史大作」

【本書によるストーリー展開】
(742年:日本からきた栄叡、普照から戒律を日本へ伝えるように頼まれる→753年:鑑真らが鹿児島に到着)

(小説は次から始まる)

754年:鑑真一行が平城京に到着→同年:聖武上皇・孝謙天皇たちに「菩薩戒」を授ける(鑑真ら唐僧は東大寺に住むことになる)

755年:初めての三師七証による授戒の儀式がおこなわれ、80人ほどの正式な僧侶が誕生(それまで日本にいた僧侶は、自分で自分に対して授戒して僧侶となっていた。しかし、中国の仏教から見れば正式な僧侶ではない。正式な授戒ができる僧10人から認められなければ、僧とは言えない)

756年:聖武上皇崩御→大僧都 良弁を中心とする勢力(わかりやすく言うと「公務員僧侶」)と、大僧都 鑑真のもとに集まる勢力との対立

758年:鑑真が大僧都(政治的な仕事もおおく忙しい)を解任される

759年:解任により、東大寺から出ることになる。鑑真の授戒権喪失→新田部親王の旧邸宅跡が与えられる(廃屋に近かった)→その場所に「唐律招提」がつくられる(現在の唐招提寺)→廃材や平城京の屋敷を移築し次第に寺として整備されていった(当時の権力者であった藤原仲麻呂らの援助など)

【補足説明など】

・菩薩戒(3つの戒を守る《規律に従い悪いことはしない・進んでよいことをする・さらにこれを他人に及ぼす》、俗人か僧侶かを問わない)→沙弥戒(十戒を守る)→具足戒(250戒をまもる)→三師七証による授戒の儀式(一人前の僧侶のスタート地点に立つ。男性は「比丘」女性は「比丘尼」)→和上(僧侶を指導する教師)のもとで、その後も戒について学びつづける→5年から10年するとみずから和上になり、後進を指導する。

・「唐律招提」とは、唐の戒律を学ぶための開かれた学舎(私寺)という意味。(この名称が、いつから唐招提寺にかわったのかはまだ不明)

・国分寺の正式名称は「金光明四天王護国之寺(こんこうみょうしてんのうごこくのてら)」、国分尼寺は「法華滅罪之寺(ほっけめつざいのてら)」が正式名称である(p.44)

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【感想】
 鑑真一行が日本に来てからの話です。来日するまでの話は井上靖著『天平の甍』をお読みください。『天平の甍』は映画化されていて、子どもの時にみました。子ども心に、「鑑真は目が見えなくなっちゃったのに、ここまでして日本にきたなんてすごいな・・・」とごくありふれた思いをもちました。

 この『氷輪』は、平城京にきてからの鑑真一行の話で、それほど知られていないところが描かれています。当時の天皇と皇后、藤原氏などの政争の話もでてきますので、きちんと系図を見ながら読んでいかないと、わけがわからなくなります。私は日本史資料集をみながら読みました。しかし、細かいことは無視して読んでも、十分に楽しめます。

 永井路子氏は、遺跡の発掘現場にいったり、古文書にあたったりしながら、この本を書いたらしく、細かい内容がみられます。しかし、心地よい細かさといえます。やみくもに想像力だけで書ききってしまうというのではないので、説得力があります。

 ただこの文庫の初版が1984年で、単行本はそれ以前に出版されているでしょうから、少なくとも20年以上は経過しています。きっとあらたな発見や研究がすすみ、古くなっている内容があるかもしれません。それでも、十分に興味深いものになっています。学問的にさらに知りたければ、研究書を読めばいいのです。わたしにその予定はありませんが・・・。

 今日から『氷輪 下』を読み始めます。

 今日も来てくださってありがとうございました。