このところ古本200円シリーズに縁がある。今日は、大岡昇平著 「スコットランドの鷗」 に行き当たった。神田の三月書房から昭和52年 (1975年) 12月に出ている。千円也。神田の、と断ったのは、同名の会社が京都や福岡にもあるらしいので。三月書房のHPによると絶版。
この本は小型で手に取った感じがよく、かわいらしい。最近では見かけないサイズだ。これもまた箱入り。丁度 「レイテ戦記」 を書いていた時期に一致しているようで、その話がよく出てくる。例えば、1967年2月の 「冬にいて夏を思う」 はこのように始っている。
「何年か暖かい冬が続いた。どうやら地球全体が暖かくなっているのではないか、北極の氷も薄くなって来ているそうだ。なんていっているうちに、今年は厳しい寒さが来た。」
もう40年も前から温暖化のうわさ話は出ていたらしい。私の記憶にはないが、、。その冬にあって、レイテの夏を思って書いていたようだ。また、「六十三、四の正月」 (1972年1月) には、次のような話が綴られている。
この前年10月に 「レイテ戦記」 が出版され、毎日芸術賞を授かった。さらに11月には芸術院会員に推薦されたが、辞退した。その理由として、先の戦争で捕虜になったことが一つ。さらに、死んだ戦友に申し訳ないと思って生きた来た。ここまで生きてきたことだけでも充分なのに、国から名誉と年金などもらうことはできないということらしい。これは国との縁を切ることであると認識している。老後の不安定な生活を周りの人が気遣っての配慮ではないかと推測しつつも、一兵卒として戦地で死と向かい合ってきた経験が根にあるようだ。安らかな死など求めず、死ぬまで働き、苦しみ続けて死にたいと締めくくっている。
若き日の特別な経験が、後に決定的な影響を及ぼすこともあるのだろう。今回の私の道も、ひょっとすると20代のアメリカでの経験が何らかの作用をしていなかったとは言えないような気もしていた。また、日付入りのエッセイを読みながら、これは今で言えば推敲されたブログに当たるのではないか、などと考えていた。