二次元が好きだ!!

SSなどの二次創作作品の連載、気に入ったSSの紹介をします。
現在ストパン憑依物「ヴァルハラの乙女」を連載中。

弓塚さつきの奮闘記~MELTY BLOOD編 ACT.12「雑話」

2018-02-04 16:26:10 | 弓塚さつきの奮闘記~月姫編
そして夜が再び来る。
三咲町の空気はここ最近流れる噂のせいで重い。
人通りは少なく、肌だけでなく内臓まで凍りついてしまいそうな冷気が流れる。

そんな夜の中。
ビルの屋上で黄金の髪を揺らす人物。
アルクェイド・ブリュンスタッドは街を一望しつつ呟いた。

「まあ、予想通りね。
 タタリ本体が出てくるであろう場所は。
 このままだと明日の夜には現れるでしょうね」

はるか彼方に見える建物。
三咲町の中で最も高いビルとなる予定の建物。
そここそが今回の騒動の原因であるタタリが最後に現れる場所であるとアルクェイドは見抜いた。

「・・・でさ、それにしても知ってる?
 あのビルの名前はね『シュライン』と言うの。
 神殿なんて名前を持っているのだけ貴方はどう思うかしら?」

周囲に人影はいないはずだがアルクェイドは誰かがいることを前提に口を開いた。

「ふむ、そうだな。
 この劇を組んだ脚本家は少しは気が利くではないか。
 安直ではあるが観客を満足させる心意気という物を理解しているようだ」

背後で光の粒子が人の形を作ってその男は現れた。
アルクェイドと同じ黄金の髪、血のごとく赤い瞳を持つ男。

しかし、男はガイア側の吸血鬼にあらず。
そして今を生きている人間でもなく、失われた神話世界の人間。

すなわち、

「はぁーあ。
 まっさか英霊。
 しかも人類最古の王様がいるなんて予想外よ。
 ・・・加えて受肉しているようだけど、真っ当な手段じゃないみたいね」

「くくく、見ずとも分かるのか。
 我の名だけでなくあの泥も見抜くか。
 よいぞよいぞ――――流石は真祖の姫、ほめて遣わそう」

「どーもアリガトウゴザイマース」

英雄王ギルガメッシュ。
その名を頂く人間がこの場にいた。

「色々言いたいとことかあるけど、
 貴方はこのタタリに携わる気はない、そうよね?」

「当然であろう。
 王である我が何故役者として動かなくてはならない?
 我は観客席にて雑種共が演ずる劇をゆるりと観賞するのみ」

「・・・そう、好きにすれば」

分かり切っていた回答を聞いたアルクェイドはそのまま立ち去ろうとする。


「ああ、だが面白い人間がいたな。
 たしか名は・・・遠野志貴であったか。
 奴の在り方も興味深いがまさかこの時代にあのような魔眼を持つとはな。
 なかなか希少価値のある存在ゆえに、我の倉に眼だけを保管するのも良いかも・・・」


次に言葉を綴る前に濃密な殺意が場を圧した。


「志貴に手を出したら――――殺すわよ」


これまで顔すら向けていなかったがこの時初めてアルクェイドは英雄王に振り向いた。
瞳は月のごとく爛々と輝いているが、視線はどこまでも冷たいものであった。

「ほう・・・」

それに英雄王は目を細めて呟く。
途端、濃厚な殺意をアルクェイドに浴びせる。
常人ならば発狂しても可笑しくない代物である。

「我と戯れたい、
 と言うならば存分に戯れようではないか。
 我とて久々に体を動かすのも存外悪くはない」

英雄王の背後の空間が揺らぐ。
そして剣、槍、斧、など無数の宝具が現れ照準をアルクェイドへと向ける。

「―――――喧嘩を売ってきたのは貴方でしょ?だから私は全力で相手になってあげる」

「久しい。
 久しいなぁ。
 我に対してそのような言葉を述べるとは」

ここまで真正面から自分に対して挑戦してくる人物は本当に久しく、
アルクェイドの啖呵に英雄王は喜色を隠さずそのままの感情を表に出す。

「余裕な態度だけど、
 この距離なら貴方の喉元を切り裂くなんて簡単な事よ?」

対するアルクェイドには武器は己の身体のみ。
しかし、真祖の吸血鬼が繰り出す身体能力は圧倒的だ。
一呼吸で英雄王の懐に飛び込んでその喉を爪で引き裂くことは容易である。
そして何よりも空想具現化という真祖の吸血鬼にしかない能力もある。

「強がっているようだが、どうかな?
 見るからに一度殺された、いいや『壊された』せいで随分と弱まっているみたいだが?」

「・・・・・・」

英雄王の指摘にアルクェイドは沈黙を保つ。
何せ遠野志貴に殺され、壊されたのは事実であるからだ。

そのまま睨み合いが続いていたが、
終わりを告げたのは英雄王の方からであった。

「まあ、いいだろう。
 そこまで言う痴れ者はあの杯を巡る戦い以来だ。
 普段ならば八つ裂きにしてもなお足らぬが、今宵の我は観客。
 観劇が始まる前に役者に手を出すなど無粋な真似は控えるとしよう」

吸血鬼タタリで街全体が死街と化する瀬戸際を「観劇」と言い切った英雄王。
加えて先にアルクェイドにとって逆鱗に触れてきたにも関わらず上から見下す態度を継続している。

「上から目線な態度。
 本当に腹が立つわね、この金ピカは」

そうアルクェイドは呆れ、
どこぞのツインテールと似たような感想を口に出す。

「当然であろう。
 時代は違えど雑種共が住まうこの星は我の庭ぞ」

「サーヴァントという『枠』でなければこの世界に現界できない今の状態でも?
 マスター・・・大方心臓にみょーな物を抱えている胡散臭い神父でしょうけど、よくまあ、そんなことが言えるわねえ」

その雑種がいなければここにいられない、
という皮肉も込めてアルクェイドが言葉を綴るが、

「は、違うな。
 今世の雑種に呼び出されたのではない、我が来てやったのだ!」

英雄王はこれ以上ないドヤ顔でそう宣言した。

「何、このポジティブな思考は?
 人間って色々面白いことは知りつつあるけど、
 貴方ほど思考が吹っ飛んだ人は初めてよ・・・」

対するアルクェイドはあきらめ気味にぼやく。

「は、貴様が熱を入れているあの人間も、
 我とは違う意味で面白い思考を持っているではないか」

「・・・否定はしないわ。
 でも金ピカの貴方に志貴の内面を口にすること自体が腹立つわね」

英雄王が遠野志貴の内面を口にする。
聞き手側は身に覚えがあるのか否定の言葉は出ない。

「怒るな、
 これでも我は褒めているのだぞ。
 この贋物しかおらぬ世界で我に価値が見出さる数少ない雑種ゆえに」

そんな言葉を口にした後、
身をひるがえしてその場を後にする。

「さて、我も少し眠い。
 今晩はここまでとしよう。
 明日の夜に開催される観劇には期待しているぞ・・・」

そう言い終えると光の粒子と共に英雄王はその場から消えた。

「・・・・・・・・・なんて身勝手なのかしら」

残されたアルクェイドは短い間ながらも会話を交わした相手に対してそう総括する。
何せ吸血鬼タタリがしようとしているのを観劇と表現した上で、自分は観客として見物する。

と言い切ってしまう存在に対して好意的な印象など持ちようがない。

「まあ、いいわ。
 邪魔だけはしてこないみたいだし・・・後は」

振り返った先にはタタリが現れるであろう高層ビルが変わらずある。
だが、吸血鬼特有の魔性の匂い、あるいは気配がより濃厚になりつつあり、
決着の日が近づいていることをアルクェイドは確信した。








 
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【予告】弓塚さつきの奮闘記~MELTY BLOOD編 ACT.12「雑話」

2017-11-14 00:36:19 | 弓塚さつきの奮闘記~月姫編

そして夜が再び来る。
三咲町の空気はここ最近流れる噂のせいで重い。
人通りは少なく、肌だけでなく内臓まで凍りついてしまいそうな冷気が流れる。

そんな夜の中。
ビルの屋上で黄金の髪を揺らす人物。
アルクェイド・ブリュンスタッドは街を一望しつつ呟いた。

「まあ、予想通りね。
 タタリ本体が出てくるであろう場所は。
 このままだと明日の夜には現れるでしょうね」

はるか彼方に見える建物。
三咲町の中で最も高いビルとなる予定の建物。
そここそが今回の騒動の原因であるタタリが最後に現れる場所であるとアルクェイドは見抜いた。

「・・・でさ、それにしても知ってる?
 あのビルの名前はね『シュライン』と言うの。
 神殿なんて名前を持っているのだけ貴方はどう思うかしら?」

周囲に人影はいないはずだがアルクェイドは誰かがいることを前提に口を開いた。

「ふむ、そうだな。
 この劇を組んだ脚本家は少しは気が利くではないか。
 安直ではあるが観客を満足させる心意気という物を理解しているようだ」

背後で光の粒子が人の形を作ってその男は現れた。
アルクェイドと同じ黄金の髪、血のごとく赤い瞳を持つ男。

しかし、男はガイア側の吸血鬼にあらず。
そして今を生きている人間でもなく、失われた神話世界の人間。

すなわち、

「はぁーあ。
 まっさか英霊。
 しかも人類最古の王様がいるなんて予想外よ。
 ・・・加えて受肉しているようだけど、真っ当な手段じゃないみたいね」

「くくく、見ずとも分かるのか。
 我の名だけでなくあの泥も見抜くか。
 よいぞよいぞ――――流石は真祖の姫、ほめて遣わそう」

「どーもアリガトウゴザイマース」

英雄王ギルガメッシュ。
その名を頂く人間がこの場にいた。

「色々言いたいとことかあるけど、
 貴方はこのタタリに携わる気はない、そうよね?」

「当然であろう。
 王である我が何故役者として動かなくてはならない?
 我は観客席にて雑種共が演ずる劇をゆるりと観賞するのみ」

「・・・そう、好きにすれば」

分かり切っていた回答を聞いたアルクェイドはそのまま立ち去ろうとする。


「ああ、だが面白い人間がいたな。
 たしか名は・・・遠野志貴であったか。
 奴の在り方も興味深いがまさかこの時代にあのような魔眼を持つとはな。
 なかなか希少価値のある存在ゆえに、我の倉に眼だけを保管するのも良いかも・・・」


次に言葉を綴る前に濃密な殺意が場を圧した。









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【完成】弓塚さつきの奮闘記~MELTY BLOOD編 ACT.11「会話」

2017-07-27 22:28:44 | 弓塚さつきの奮闘記~月姫編

「・・・知っている天井だ」

目が覚めたらよく知っている天井だった。
というか吸血鬼になった後に遠野家からあてがわれた自室だった。

太陽の光を直撃すると即死してしまうから基本締めっぱなしな窓のせいで全体的に薄暗い部屋。
後、吸血鬼の跳躍力で天井にタッチさせる遊びでうっかり爪を立てて天井に出来た傷なんてここしかない。

翡翠さんや秋葉さんにバレていない間に修復しないとなあ・・・・。

で、現実逃避はさて置き。
切り落とされた両腕はくっつけば治るので問題はない。

あるとすればまるで病院に運び込まれた恋人を心配するように、
しっかりとボクの右手を握ったまま寝ている遠野志貴がそこにいたことだ。

いや、さ。
心配してくれたいるのはありがたいよ。
だけど、そりれよりも志貴の方が体の具合を心配しなきゃいけないはず。
まあ、今は体調が良さそうなのは手から伝わる体温から分かるけど・・・ああああ、というか正直、気恥ずかしい!!

「目が覚めたようね、弓塚さん。
 兄さんは寝てしまっていますけど相変わらず仲が宜しいようで」

「・・・あ、あははは」

何たってこの部屋には志貴以外の人間も同席しているのだから。
志貴の傍に座る秋葉さんが嫉妬交じりの視線と共に嫌味を零して来た。
髪の色こそ変わっていないけど、部屋の温度が数度下がりつつある気がする!

・・・それと緊張感で胃が痛い。

「腕の方は・・・まあ、あのアーパー吸血鬼と同類ですから問題なさそうね。
 例の錬金術師と戦って怪我をしたと聞いて館の主人として様子を見に来ましたけど、その必要はなかったようね」

ジト目でこちらを見つつ突き放すように秋葉さんはそう述べる。
事実とはいえ、怪我をした身でそう言われると結構キツイなー・・・。

まあ、でも。

「早速秋葉様による言葉のストレートパンチに面食らっているようですけど、ご心配なく。
 これは素直じゃない秋葉様なりの感情表現ですから、何たって弓塚さんが両腕を落とされたと聞いて・・・」

「お、おだまり琥珀!」

「やーん!暴力反対!パワハラだー!」

うん、こうなるのは分かっていた。
さっきまでの緊張感が遥か彼方にすっ飛んだ。
さよならシリアス時空、こんにちわギャク空間。

「ありがとう、秋葉さん。
 わざわざ心配してくれるなんて」

「で、ですからそんなつもりではありません!
 ああああ、弓塚さん!貴女までそんな微笑ましい表情で私を見ないで!!」

秋葉さんは顔を茹で蛸のごとく顔を赤らめていた。
微笑ましい表情と共に感謝の言葉を述べただけでこれだ。

ああ、確かに琥珀さんの気持ちはわかる。
たしかにこうも素直な反応をされるとからかいたくなる。

「う、うんんっ・・・」

と、志貴が唸り声を漏らしてうっすらと目を開けている。
どうやら目が覚めたようだな。

「おはよう志貴。
 心配してくれてあり『さつき!!』・・っわぁ!?」

んで、眼が覚めるなり志貴はボクに抱き着いた。
な、なんで突然抱いてくるんですかーーーこの主人公は!

べ、別に嫌じゃないし、
むしろ病弱な体な割に意外と体格が良くて・・・。
じゃなくて!恥ずかしい以上に鬼を背負った秋葉さんのオーラが怖い・・・。

あ、琥珀さん待って。
さり気なく距離を取って逃げようとしないで!


ぶち


突然そんな擬音が聞こえた気がした。
発生源は――――――言わずとも判る。

「う、うふふふふ。
 私はずっと心配していたんですよ。
 兄さんの部屋にいた錬金術師が暴れたと聞いて。
 ・・・本当に弓塚さんとは仲が宜しいようですね、に・い・さ・ん」

「あ、秋葉っ!?」

で、鬼妹の存在に気づいて青ざめる志貴。
唯でさえ低めな体温が更に低下しているのが分かった。
・・・いくら秋葉さんが怖いとはいえさらにきつく抱きしめないでほしいな。
そして蛇に睨まれたカエルのごとく固まった志貴の首根っこを掴んでボクから引きはがす。

「弓塚さん、少し兄さんをお借りしますわね」

「はい、どうぞ!
 煮るなり焼くなり好きにしてください!」

「ちょ、さつき!」

うるさい!
こっちだって命は惜しい身なんだ。
それに、これは志貴のためでもあるんだ。
少しくらい秋葉さんの気持ちに答えるのが兄としての務めだろ!

「ご協力感謝いたします、弓塚さん。
 兄さん、別に弓塚さんへの見舞いを悪く言うつもりはありません。
 ただ少ーしばかり頭に来ているので、今度という今度は兄さんに対して自重や自愛。
 という単語の意味を懇切丁寧、かつ兄さんの何度言っても分からない頭に叩き込んで差し上げますわ」

「ま、待って。
 待ってくれ秋葉!
 首が締まる首が締まる!?」

秋葉さんは志貴の首根っこを掴んだままズルズルと引きずって行く。
南無阿弥陀仏、骨は拾えたら拾ってあげるから安心して逝ってこい、志貴。

「ではご機嫌用、弓塚さん。
 いくら吸血鬼は治りが速いとはいえ、
 完治するまでしっかり休んでいて下さいね」

そう秋葉さんが言うと志貴の悲鳴をBGMに部屋を後にした。
残されたのは琥珀さんとボクだけで、

「・・・ふふ、鬼の居ぬ間に何とやら。
 これでしばらく秋葉様は志貴様に夢中ですから私はしばし自由の身、バンザーイ!」

主人が去って向日葵のような笑顔と共に万歳する琥珀さんがいた。
志貴を鬼妹に差し出した罪悪感など一片もない態度である。

「はい、弓塚さん。
 ハイタッチ!イェーイ!」

「い、いぇーい・・・」

何かよくわからないノリに浸っている琥珀さんに言われるがままハイタッチを交わす。
琥珀さんとの付き合いが未だ浅いこともあるけど、唐突にこうした事をしてくることに慣れないな。

いや、まあ。
【原作】の琥珀さんの過去を知るだけに、
琥珀さんの態度について疑ってしまうからかもしれないが・・・。

「うーん、何をしましょうかねー。
 やりたい事は大方済ませてしますし何をしましょうかねー、
 この前開発した試験薬をこっそり弓塚さんに飲ませましょうかなー」

「本人の前でバイオテロ宣言は止めてくれませんかっ!?」

加えてこんな感じで「月姫」というより、
その後のスピンオフ作品で登場する琥珀さんのような言動をしているから、
余計に戸惑う、というかどう対応すれば良いか分からなくなるんだよなぁ・・・。

「でしたら雑談でもして時間を潰しませんか?
 秋葉さんから安静しろ、と言われても暇でしかたがないし」

特に考えずにボクの口からそんな言葉が出た。

「おや、弓塚さんからのお誘いですか。
 良いですねー以前から弓塚さんについてよく知りたいと思っていたのですよ」

む、ボクの事を?
てっきり学校での志貴の様子やら、
夜間屋敷に侵入して来るアルクェイドさんとか、
同じく志貴目当てに侵入してくるシエル先輩とかに興味を抱くと思っていたけど。


「だって弓塚さん、
 貴女は【初めから私の事を知っていた】じゃないですか。
 そんな方が世の中に居るなんてとてもとても珍しいから私、気になります」


向日葵のような笑顔を浮かべたまま琥珀さんは言った。

「・・・・・・え?」

自分でも非常に間抜けな声と自覚できる程、間抜けな声が漏れた。
思わず琥珀さんを凝視するが、変わらず笑みを浮かべている。

――――しかし、視線はこちらを探るように鋭く、
口元は間抜けなボクをあざ笑っているのは気のせいだろうか?

いや、それよりもどうして琥珀さんからこんな事を言い出した!
「初めから私の事を知っていた」なんて言っているけど、そんな素振りは出していないはずだ!

「・・・珍しいって、それは吸血鬼よりもかな?」

「ええ、それはもう。
 遠野に連なる様々な魔を見てきましたけど、
 これはとびっきり珍しく希少価値のある存在だと言えます」

と、言いつつボクのすぐ傍に近寄る。
例え吸血鬼でなくても琥珀さんを力で押しのけることは可能だ。
しかし、それをしてしまえば、曖昧な表現になってしまうが何かが後戻りできなくなるだろう。

かと言って下手な反論や誤魔化しが通用するとは思えない。
何たって今でこそ裏の世界の住民だが少し前まで太陽の世界に生きて来た自分と違い、
眼前にいる割烹着姿の少女は頭の先から足先まで裏の世界の闇で生きて来た人間で即座に見破られるだろう。

「驚いちゃいました。
 そんな存在がいる事と、
 『驚く』という感情がまだ私にもあったなんて」

「・・・・・・・・・」

ゆえに黙って琥珀さんの独白を聞くに徹している。
沈黙は肯定、とも捉えかねない行為であることは知りつつも。

「おまけに弓塚さんは私に対して好意的で、
 魔にも関わらず酷い事をしないなんて困惑することばかりです」

そしてスッと身を乗り出し、
ボクの耳元で琥珀さんは囁いた。


「貴女は、それとも【貴方】はどこまで知っているの?」


耳元で囁かされた声は普段の『琥珀さん』ではなかった。
例えるならばまるで「人形が人間のふりをして発声させた」様な代物であった。

汗が止まらない。
心臓はけたたましく鼓動する。
緊張感で一秒が一時間のように感じてしまう。

どう答えるべきか?
いっそ正直に「ウェブ小説のように自分は転生主人公です」と言うべきか?
しかし、そう言われて納得するなんて普通は有りえない。

どう答えれば―――――。


「なーんて、冗談です。
 ふふふ、弓塚さんを驚く姿を見たかっただけです」

そう言うなり琥珀さんがぱっとボクの傍から離れる。
表情も何時もの笑顔を浮かべる「琥珀さん」に戻っていた。

「・・・うん、とっても驚いたよ」

どこまで本気だったのか。
どのような意図なのか分からず、
そんな率直な感想を辛うじて口にできた。

「イエス、作戦大成功です!
 我奇襲に成功せりですトラトラトラ!」

ボクの回答を聞いた琥珀さんは大満足なのか、
良くわからない決めポーズを取り歓喜の声を挙げていた。

・・・なんだろう、この徒労感は。
先ほどまでのシリアスな空気はなんだったんだっ・・・!?

「さてと、何だかんだと時間が過ぎちゃいましたね。
 弓塚さんをからかって楽しめましたし、とっても有意義でした。
 そろそろ私は弓塚さん用の輸血パックをお持ちしますから、安静していてくださいね~」

そう言うなりパタパタと足音を立てて琥珀さんは部屋を後にした。


「・・・・・・本当に、どこまで本気だったんだ?」

足音が遥か遠くに消えて行ってから思わずこんな言葉が漏れる。
加えてなぜ琥珀さんがそんな事を言ってきたのか気になるが、今はまず休もう。

何たってまだ傷は完治していなのだから―――――――。


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【予告】弓塚さつきの奮闘記~MELTY BLOOD編 ACT.11「変化」

2017-07-02 21:38:55 | 弓塚さつきの奮闘記~月姫編

「・・・知っている天井だ」

目が覚めたらよく知っている天井だった。
というか吸血鬼になった後に遠野家からあてがわれた自室だった。

太陽の光を直撃すると即死してしまうから基本締めっぱなしな窓のせいで全体的に薄暗い部屋。
後、吸血鬼の跳躍力で天井にタッチさせる遊びでうっかり爪を立てて天井に出来た傷なんてここしかない。

翡翠さんや秋葉さんにバレていない間に修復しないとなあ・・・・。

で、現実逃避はさて置き。
切り落とされた両腕はくっつけば治るので問題はない。

あるとすればまるで病院に運び込まれた恋人を心配するように、
しっかりとボクの右手を握ったまま寝ている遠野志貴がそこにいたことだ。

いや、さ。
心配してくれたいるのはありがたいよ。
だけど、そりれよりも志貴の方が体の具合を心配しなきゃいけないはず。
まあ、今は体調が良さそうなのは手から伝わる体温から分かるけど・・・ああああ、というか正直、気恥ずかしい!!

「目が覚めたようね、さつきさん。
 兄さんは寝てしまっていますけど相変わらず仲が宜しいようで」

「・・・あ、あははは」

何たってこの部屋には志貴以外の人間も同席しているのだから。
志貴の傍に座る秋葉さんが嫉妬交じりの視線と共に嫌味を零して来た。
髪の色こそ変わっていないけど、部屋の温度が数度下がりつつある気がする!

・・・それと緊張感で胃が痛い。

「腕の方は・・・まあ、あのアーパー吸血鬼と同類ですから問題なさそうね。
 例の錬金術師と戦って怪我をしたと聞いて館の主人として様子を見に来ましたけど、その必要はなかったようね」

ジト目でこちらを見つつ突き放すように秋葉さんはそう述べる。
事実とはいえ、怪我をした身でそう言われると結構キツイなー・・・。

まあ、でも。

「早速秋葉様による言葉のストレートパンチに面食らっているようですけど、ご心配なく。
 これは素直じゃない秋葉様なりの感情表現ですから、何たって弓塚さんが両腕を落とされたと聞いて・・・」

「お、おだまり琥珀!」

「やーん!暴力反対!パワハラだー!」

うん、こうなるのは分かっていた。

 


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【完成】弓塚さつきの奮闘記~MELTY BLOOD編 ACT.10「憂鬱」

2017-01-23 22:31:47 | 弓塚さつきの奮闘記~月姫編

「ぐ、は――――――」

足取りは重く、呼吸するたびに喉が焼けるような乾いた感触。
体力は消耗し、疲労で睡魔が絶え間なく襲いかかっている。

このままこの場で睡眠を取ることができればどんなに楽か。
そんな誘惑にシオンは心を動かされるが、それでも体は動き続ける。

何故ならいくら人気がないとはいえ、
彼女の計算によれば再度代行者に捕捉され、
今度こそ生命活動を強制的に停止させるに至るだろう。

ふと、その時シオンは思った。
今の自分はどんな姿になっているのだろうかと。
視線を下に向け、路地裏に散らばっている窓ガラスの破片に映る己の姿を見出す。

そこに映るのはこれまでになく酷い表情であった。
顔は青白く、目元は何日も徹夜してきたように疲労の極みであるのを示し、
おまけに代行者に傷つけられた生傷まであった。

「ふ―――――、なんて無様」

シオンの口から自嘲の言葉が漏れる。
何せこうも酷い状態となったのは全て自分自身が原因なのだから。

「長年の疑問が解決したにも関わらず、それを拒否。
 挙句タタリ打倒に必要な協力者とは戦闘状態に入る・・・。
 ふふふ、私と言う人間は計算ではなく感情的な人間だったとは初めて知りました」

自虐の台詞がシオン自身から発せられる。
自らを演算装置と見做す高速思考で感情という要素は省かれる。
計算において感情という計算できない要素は必要でなくむしろ邪魔である。

シオン・エルトナム・アトラシアという人間はだれよりもそれを実現してきた人間で、
これからもそうした生き方に疑問を抱いていなかったが・・・。

「異世界人、それもこの世界を俯角することができた人間の介入など計算外にもほどがあります」

壁に背を預け、シオンが嘆息する。
始めは遠野志貴の記憶から読み取ったなかに登場する重要人物、という程度の認識でしかなかった。

だから実際に弓塚さつきと邂逅した時、
『いつものように』エーテライトで情報を抜き取った。
そして得られた情報にシオン・エルトナム・アトラシアは全てを知った。

弓塚さつきが平行世界、否。
『この世界を物語として』観測できる存在は平行世界、
と言うよりも異世界人と表現した方がこの場合適格であろう。
そしてそんな存在などアトラス院の院長補佐に上り詰めた頭脳を以てしても理解不能であった。

「どう、すればいいのでしょうか?」

月を見上げるシオンからそんな言葉が漏れた。
これまでの人生で積み上げて来た物が通用せず、否定されたことにシオンは途方に暮れた。

「妹から聞いたけど、
 随分と派手に暴れたみたいね、錬金術師」

――――第三者の声が突然路地裏に響き渡る。
女性の、凛と響く声だ。
シオンは顔をゆっくりと下げ声の主を確認する。

暗闇にでも輝く黄金の金髪。
爛々と燃え盛る紅の瞳に造形美を極めた肉体と表情。
何よりも彼女が作り上げる空気は「人の形をした何か」をこれ以上なく主張していた。

「・・・真祖の姫」

「こんばんわ、エルトナムの末裔。
 今夜は良い月ね、私達みたいな魔性の者にとっては」

アルクェイド・ブリュンスタッド。
全ての吸血鬼の生み親である真祖の生き残り。
どういうわけか、極東に長期滞在しているのを把握しており、
タタリ打倒と吸血鬼化の治療に協力を求めるつもりであったが・・・。

「成程、ここが私の旅が終焉する場所ですか。
 ・・・いいでしょう、好きにしてください」

真祖の姫に関わる人間を害して生き残れるとはシオンは考えていない。
もはやこれまで、という心境で終わりを受け入れる。

しかし、シオンの諦めに対しアルクェイドは予想外の言葉を投げかけた。

「何勘違いしているのかしら?
 さっちんが傷ついた事には腹が立ったけど、
 私は別に貴女をここで殺すつもりなんて無いわ」

「なっ・・・!?」

呆れと共にシオンの決断を否定したのだ。
やれやれ、と言わんばかりの身振りすらしている。

「馬鹿な、何故です?
 目の前に吸血鬼がいる。
 それだけでも姫が動くだけの理由があるはずです!!」

魔術師の常識が崩れシオンはアルクェイドに問いただす。
吸血鬼を前にして行動を起こさない真祖の姫、という事実は受け入れがたい物であった。

「そんな事言われても意味がないし。
 ・・・そうね、強いて言うなら貴女の様子を見に来た、それだけよ」

「・・・・・・・・・」

殺す価値もない、
と言われての衝撃と様子見という想像の範疇外の回答にシオンの思考は停止する。
弓塚さつき、遠野志貴から抜き取った記録から魔術師が考える真祖の姫と、
実際の人物の間に大きな亀裂があることを知っていても予想外であった。

「それにしても、正直がっかりだわ
 てっきり私に突っかかって来るものかと期待していたけど、
 世界を知り過ぎて自ら絶望に捕らわれた歴代のアトラス院と同じ道を歩むなんて」

「――――——――—」

アルクェイドの言葉に対しシオンは沈黙を保つ。

「まあ、それが貴女の選択、
 ということなら別に私は止めないわ。
 ここのタタリは私やシエルで何とかするから三咲町から出ていくといいわ。
 それじゃ、もう会うこともないと思うけど、バイバイ――――」

「――――——――待ちなさい、アルクェイド・ブリュンスタッド」

踵を返し立ち去ろうとしたアルクェイドに沈黙を保っていたシオンが言葉を投げかけた。

「先ほどから随分と好き勝手に私を評していましたが、
 認めましょう、確かに私は所詮アトラス院という穴倉の住民。
 自らの行き先とこの世界の未来に絶望と狂気を覚える錬金術師です」

「ふぅん・・・?」

批評を素直に認めるシオンの話す内容にアルクェイドは足を止めた。
先ほどまで失せていた関心が再びシオンに向けられる。

「その上自分の矛盾を認められず癇癪を起した未熟者です。
 ・・・ですが、貴女が言うようにタタリから逃げることなど有りえません!
 タタリとの戦いは私が決着を付けねばならない事情で、そのために此処まで来たのですから」

僅かに残った意地と勇気を頼りにシオンは己の内心を口にした。
これまで自分自身を欺いていた事実を認めつつタタリから逃げないという発言。
その内容にアルクェイドは・・・。

「・・・あは、あはははははは!!
 成程、貴女は意地だけを頼りにしているのね。
 愚かね、貴女程度でタタリに敵うとは自分で分かっているはずよ?」

腹を抱えて爆笑した。
金髪の髪が乱れ、瞳には涙さえ浮かべている。
眼の前にいる人間が抱える矛盾と愚かさに笑い続ける。

「魔術師としては失格だけど―――――――私はそういう人間の事嫌いじゃないわ」

だが、遠野志貴に『壊され』た後、
そうした人間という種族の性質を理解しそれを良し、
とするアルクェイドはシオンの発言に対しそう締めくくる。

「じゃあ、今夜はこれで。
 貴女の健闘を期待するわ」

再度踵を返し、
今度こそ立ち去ろうとする、その時。

「ところで、真祖の姫はどこまで知っているのですか?『弓塚さつき』という異物を」

シオンの質問が飛ぶ。
夜の路地裏に響いたその声は冬の様に冷たく、
肌を突き刺す緊張感がこの場を支配し、重い空気が流れる。

「――—―――—さあ、私が知るさっちんは、私が認識するさっちんしか知らないわよ」

一拍間を開けてアルクェイドが質問に答える。
しかし顔は振り向かず背をシオンに向けたままだ。
そしてその声の音は先ほどまでの感情豊かな音声と違い抑制された音調である。

「好奇心が強いのは感心するわ。
 でもね、あまり深入りすることをお勧めしないわね。
 今回は腹を立てた程度にしたけど――――――—次はないから」

「――――――——っ!!?」

刹那、濃厚な殺意が夜の路地裏を制する。
人には耐えがたい強烈な意思と気配に気圧され、
シオンは吐き気を堪えるように口を手で塞ぎ堪える。

「今度こそ、ばいばい。
 せいぜい足掻きなさい。
 それが未来を目指す人間のあるべき姿であり、
 過去にしがみ付く吸血鬼との最大の違いだのも」

言い終えるとシオンの方へ顔を振りことなく、
手をひらひらと手を振りアルクェイドはその場から立ち去る。

残されたシオンはただ茫然とその後ろ姿を見送る事しかできず、
より深い夜の闇に消えゆくアルクェイドの姿が見えなくなるまでその後ろ姿を見つめた。







 
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