郎女迷々日録 幕末東西

薩摩、長州、幕府、新撰組などなど。仏英を主に幕末の欧州にも話は及びます。たまには観劇、映画、読書、旅行の感想も。

宝塚キキ沼に落ちて vol11

2020年11月30日 | 宝塚

宝塚キキ沼に落ちて vol10 - 郎女迷々日録 幕末東西

 上の続きです。

 本日(11月30日)、またも宙組さんに関して、衝撃的な公式発表がありました。

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組替え(異動)について | ニュース | 宝塚歌劇公式ホームページ

このたび、下記の通り、組替え(異動)を決定しましたのでお知らせいたします。  宙組星風まどか・・・2021年2月22日付で専科へ異動※202...

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宙組 次期トップ娘役について | ニュース | 宝塚歌劇公式ホームページ

この度、現宙組トップ娘役の星風まどかが、2021年2月22日付で異動するのにともない、同日付で次期宙組トップ娘役に、潤花(じゅんはな)が決定...

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2021年 公演ラインアップ【宝塚大劇場/東京宝塚劇場公演】<2021年6月~9月・宙組『シャーロック・ホームズ(仮)』『Délicieux(デリシュー)!-甘美なる巴里-』> | ニュース | 宝塚歌劇公式ホームページ

2021年宝塚歌劇公演ラインアップにつきまして、【宝塚大劇場/東京宝塚劇場公演】の上演作品が決定しましたのでお知らせいたします。  宙組公演...

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 つまり、現在の宙組トップ娘役・星風まどかちゃんは、退団ではなく、専科に移動し、次期宙組トップ娘役には、潤花ちゃんがなる、ということのようです。
 そして、宙組さん、6月から9月までの大劇場公演、東宝公演が発表されましたが、真風さんの退団は、発表されておりません。
 しかも、演目が微妙なんです。以下、引用です。

 稀代の名探偵、シャーロック。その宿敵となるジェームズ・モリアーティ教授。ただ一人、シャーロックの心を動かした「あの女」、アイリーン・アドラー・・・
「罪を追う者」。 「罪に生きる者」。 そして、「罪を背負う者」・・・
「罪」によって分かち難く結ばれた三人のキャラクターの描き出す幾何学模様(トライアングル・インフェルノ)!

 シャーロック・ホームズが真風さん、アイリーン・アドラーが潤花ちゃん、まではわかるんですが、ジェームズ・モリアーティ教授がキキちゃん???
 「憂国のモリアーティ」のウィリアム・ジェームズ・モリアーティだと、キキちゃん、とても似合うのですが。

 TVアニメ「憂国のモリアーティ」PV第1弾

 しかし、原作によせるとなると、こんな感じなんです。

 

 

 

 

 私、テレビで見た覚えがあるんですが、とてもキキちゃんに似合う役とは、思えませんでした。

 だれに似合うかって………、愛ちゃん、愛月ひかるさんです。
 「神々の土地」のラスプーチン、絶対にキキちゃんにはできません。愛ちゃんならでは、でした。


宙組公演『神々の土地』『クラシカル ビジュー』初日舞台映像(ロング)

 『神々の土地』、オンデマンドで見ました。
 ウエクミ(上田久美子)先生は、2016年に『金色の砂漠』、2017年に朝夏まなとさんの退団公演『神々の土地〜ロマノフたちの黄昏〜』、そして今年『FLYING SAPA -フライング サパ-』の作・演出をなさったんです。

 私、明日海さんの本質をつきました『金色の砂漠』に感心して、『FLYING SAPA -フライング サパ』を見たのですが、これで一番感心しましたのは、星風まどかちゃんです。
 これまで私、まどかちゃんの演技力に物足りなさを感じていたのですが、『フライング サパ』のミレナ役は、文字通り体当たりの演技で、これで一皮むけ、「アナスタシア」の好演につながったのかなあ、と思ったりします。

 それで、まあ、一つ前の作品も見てみようと、『神々の土地』も見てみたのですが、驚いたのは、大公妃イリナ役の伶美うららさんの美しさと、愛ちゃんラスプーチンの怪演です。
 まどかちゃんは、アナスタシアの姉・オリガ役なんですが、無邪気なままに突っ走って、愛する男を窮地に陥れるという、なんとも微妙な役でした。
 真風さんは、大人っぽく、醒めていて、しかし友情には厚い、というけっこうお得な役です。 

 これがあって『フライング サパ』なのか、ってことで、次回、ちゃんと『フライング サパ』について、語りたいと思います。

 が、ともかく、です。ウエクミ先生が本質を突いて、キキちゃんはジャー、愛ちゃんはラスプーチンなんですよ?
 原作よりのモリアーティだったとすれば、愛ちゃんの方が似合います。

 いったいキキちゃんはどうなるのか、明日からの12月には発表があると思うので、待つしかありません。

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宝塚キキ沼に落ちて vol10

2020年11月26日 | 宝塚

宝塚キキ沼に落ちて vol9 - 郎女迷々日録 幕末東西

上の続きです。

宝塚歌劇 宙組「アナスタシア」を観劇してきました

 紫鳳あけのさんが、感想を述べておられます。
「2番手の芹香斗亜さん、お歌がすばらしくて、鳥肌が立ちました」
 と、おっしゃっておられます。
 フィナーレナンバーのことも詳しく語っておられ、見たくてたまらなくなるのですが、母が入院しましたので、動くのは無理なんです。

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宙組 宝塚大劇場公演『アナスタシア』千秋楽 ライブ中継・ライブ配信の実施について(追) | ニュース | 宝塚歌劇公式ホームページ

以下の通り、宙組宝塚大劇場公演『アナスタシア』千秋楽について、ライブ中継・ライブ配信の実施をお知らせいたします。※ライブ中継の上映映画館が決...

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 12月14日の宝塚大劇場千秋楽、ライブ配信が決まりましたので、見る予定でいます。しばらくは初日映像を見て、がまんするしかありません。

宙組公演『アナスタシア』初日舞台映像(ロング)

 

 「フライングサパ」はライブ配信で見まして、いろいろと言いたいこともあったりするのですが、円盤を注文しましたので、再見してから、感想を書こうと思います。

 11月24日、宙組に関して、いろいろな発表がありました。

 トップ娘役・星風まどかちゃんのミュージック・サロン、和希そらさん主演のバウホール公演『夢千鳥』。
 まどかちゃんのミュージック・サロンは、あるいは退団か、という予測もありますが、もしもそうだとすれば、真風さんと添い遂げなのかどうかも、気になるところです。そして、退団だったのだとすれば、退団発表の前にミュージック・サロンの発表、というのもおかしなものなのですが、勝手な憶測をしてみました。
 もしも添い遂げ退団だったとしまして、その退団公演は、大劇場は月組さんの後で7月ころ、東京宝塚劇場は9月ころ、と予想できます。このころには、真風さんのディナーショーかなにかも、あるはずです。

 しかし、ですね。コロナの影響だと思うのですが、花組さん、月組さんの100周年式典を、まだしてないんじゃなかったでしょうか。
 で、そのころには、東京オリンピックも行われているはずで、催し物が多そうです。会場の問題があって、早くになったのではないでしょうか。

 2番手のキキちゃんが、このまま宙でトップになるのかどうか、私としましては、もっとも気にかかるところなのですが、真風さんの演目も発表になりました。

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2021年 公演ラインアップ【東京建物 Brillia HALL公演/梅田芸術劇場メインホール公演】<2021年4月~5月・宙組『Hotel Svizra House ホテル スヴィッツラ ハウス』> | ニュース | 宝塚歌劇公式ホームページ

2021年宝塚歌劇公演ラインアップにつきまして、【東京建物BrilliaHALL公演/梅田芸術劇場メインホール公演】の上演作品が決定しました...

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 「戦時下の情報戦を戦い抜く男たちのドラマ」であるとともに、「20世紀初頭のパリで華開いた“バレエ・リュス”の輝きへのオマージュを散りばめた」なんて、ものすごく魅力的な感じです。

 うーん。ここでキキちゃん主演の公演がないってことは、微妙です。
 まあ、12月になれば、なんらかの発表があると思うので、待つしかありません。

 キキちゃんが出るのか出ないのか、今はまだわかっていない『Hotel Svizra House ホテル スヴィッツラ ハウス』ですが、まどかちゃんはミュージック・サロンですから、真風さんの相手役とはなりません。
 で、ヒロインらしき役は二つ。「バレーダンサーのニーナ」と「艶やかな美女アルマ」です。ニーナ役は潤花ちゃん、アルマ役は遥羽ららちゃんかな、と思うのですが、もしかして、遥羽ららちゃん、この後、花組に行って次期トップ娘役の可能性があるのでは? と、ふと思いました。
 前々回は音くりちゃんかなあ、なんて思いついてみたのですが、花組さんは、ひらめちゃんが抜けて娘役不足。宙組から一人行くのもありかなあ、だったら、ららちゃんトップかなあ、と。
 ららちゃんであれば、相手を選びそうな柚香さんでも似合うかなあ、という気がしただけのことではあるんですけれども。

 ところで、自分の頭の中をまとめたく、少し落ち着きたいとも思いまして、ちょっとロシアのバレエについて、お話ししてみたいと思います。「アナスタシア」、そして『Hotel Svizra House ホテル スヴィッツラ ハウス』と、宙組さん、ロシア・バレエがらみ、ですので。

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バロックの豪奢と明治維新 - 郎女迷々日録 幕末東西

王は踊るアミューズ・ビデオこのアイテムの詳細を見る鹿鳴館と軍楽隊の続き、といいますか、補足かな、という感じです。この「王は踊る」、評判だけは...

バロックの豪奢と明治維新 - 郎女迷々日録 幕末東西

 

 上からの引用です。 

 クラシック音楽の歴史は、通常、カトリックの教会音楽にはじまるといわれます。
 宮廷音楽も、もちろんそうなのです。
 戴冠式にも結婚式にも教会はからみますし、教会音楽もそういった儀式を盛り上げます。やがて祝宴の場をも、宗教行事で育まれた音楽が彩るようになっていくのです。
 戴冠式、支配都市への入城式、君主間の外交である結婚式。
 それらの儀礼にともなうパレードと祝宴は、中世からあったわけなのですが、ルネサンスに至って、何日にも渡る大スペクタクルとなります。
 ショー化された騎士たちの馬上武芸試合や、テーマを定めたきらびやかな飾り付けに仮装、歌やダンスの入った芝居、夜空を彩る花火。そしてもちろん、豪華な食事。

 この祝宴スペクタクルが、もっとも洗練されていたのはイタリアで、それはおそらく、イスラム圏との交易による富の蓄積と文化の流入、カトリックの総本山ローマの存在、小国に別れて活発に行われた外交、といったさまざまな要素によるものでしょう。
 ともかく、ルネサンス美術の中心がイタリアであったように、祝宴スペクタクルの本場もイタリアであり、そこから、オペラ、バレー、ダンスが生まれましたし、また料理、ファッションにおいても、最先端の流行を作り出していたのです。
 そのイタリアの最先端の流行を、フランスにもたらしたのは、フィレンツェからフランス王家に嫁いだカトリーヌ・ド・メディシスであり、マリー・ド・メディシスでした。
 そして、ルイ14世にいたり、ついにフランス宮廷は、はるかにイタリアを凌駕し、ルイ14世の宮廷は、ヨーロッパのすべての宮廷の規範になったのです。

 というようなわけで、17世紀から18世紀にかけて、バレエはフランスにおいて、オペラから離れて舞台芸術として確立するのですが、やがてフランス革命。もともとは宮廷に発したバレエは、しかし19世紀にいたって、ブルジョアジー、市民の娯楽となり、ロマン主義のもと、白いチュチュを着て、つま先立ちで、妖精のように軽やかに舞う、現在のバレエの原型、ロマンティック・バレエが生まれました。現在でも踊られているその代表作は、「ジゼル」です。

 しかし、その後、明治維新の前後ですが、フランスでは、バレー・ダンサーの地位が低かったことも手伝い、ほとんどバレエが上演されなくなります。
 代わって、バレエの本場となったのが、ロシアです。

 ロシアでは、イタリア、フランスからバレエが伝わり、帝室の保護のもと、バレエ学校や劇場が運営されていました。
 やがて19世紀後半ころから、ロマンティック・バレエが独自の発展を遂げ、クラシック・バレエとなっていきます。
 「眠れる森の美女」、「くるみ割り人形」、「白鳥の湖」という、現代でも踊り継がれている名作は、19世紀末に、ロシアで生まれたものです。
 このように、クラシック・バレエは、ロシア帝室と深いつながりを持っていましたので、皇族の結婚式や戴冠式で上演され、最後の皇帝ニコライ2世の戴冠式にでも、「白鳥の湖」などが上演されました。

 やがてロシアでは、このクラシック・バレエの世界に満足できない表現者が出てきまして、セルゲイ・ディアギレフは、そういった表現意欲を吸収して、アンナ・パヴロワ、ヴァーツラフ・ニジンスキーなどのバレリーナを率い、パリへ進出します。そのまま、常設のバレエ・リュスが結成され、革新的なモダン・バレエ、斬新な舞台芸術を、世界規模で展開していくことともなってゆきます。

 最後に映画のご紹介を。映像がきれいです。

 映画『マチルダ 禁断の恋』予告

 3年前のロシア映画ですが、主人公のマチルダ・クシェシンスカヤは実在の人物をモデルにしています。
 ニコライ2世の愛人だった人物ですが、黒海経由で革命から逃げ延び、長寿を保って自伝を残しました。

 次回は、「フライングサパ」の感想を書きたいな、と思っています。 

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宝塚キキ沼に落ちて vol9

2020年11月20日 | 宝塚

宝塚キキ沼に落ちて vol8 - 郎女迷々日録 幕末東西

 上の続きです。

【宝塚歌劇】宙組「アナスタシア」歌唱フル動画【三井住友カード公式】

 キキちゃんは、ボルシェヴィキの将官・グレブという役で、歌っているのは「The Neva Flows」。

 いったい、なんなんでしょうか。
 私にとってキキちゃんの歌声は、世界の歌姫、ターヤ・トゥルネンやSU-METALと同じ心地よさなんです。
 私、声楽については、まるっきりなにもわかっていませんので、まちがっているかもしれないのですが、ヴィブラートが少なめ、というのは、もしかして、共通項かもしれません。
 SU-METALがノンヴィブラートの奇跡のストレートボイス、とはよく言われますが、ターヤ・トゥルネンはオペラ歌手でしたので、初期のころはヴィブラートが相当強くかかっていたんです。しかし、シンフォニック・メタルのボーカルとなってしばらくして、唱法をかえたみたいで、ストレートに近い、よく通る声で歌うようになりました。
 キキちゃんももちろん、ヴィブラートがかからない、というわけではないんですけれども、少なめ、と思います。

 ところで、ボルシェヴィキの将官・グレブって、どういう役なんだろう、と、少し調べてみました。

ミュージカル『アナスタシア』日本初演公演スペシャルプロモーションビデオ

 そもそも『アナスタシア』は、同名のアニメをもとに、2017年、ブロードウェイでミュージカル化され、今年の春に日本上陸。先に外部公演が行われていたのですが、コロナのために、東京公演が半分も上演できず、大阪公演は全面中止になりました。
 今回の宝塚公演、最後まで無事に上演できますことを、心より祈っています。

Anastasia (1997) - Once upon a December [4K] Sub.

 このアニメ、楽曲が美しく、「once upon a december」にのせて蘇るロマノフ家の舞踏会の場面は、なんとも郷愁をそそります。ミュージカル版も、ほとんどそのまま、舞台に再現しているようです。

Once upon a December (Anastasia)

 アニメとミュージカルの最大のちがいは、アニメでロマノフ家を滅ぼし、アナスタシアを追い詰めたのが、ファンタジーらしく魔法使いラスプーチンの呪いだったのに対し、ミュージカルでは事実によせて、ボルシェヴィキにしていることなんですね。

 ですから、キキちゃん演じるグレブは、ミュージカルのオリジナル・キャラクターで、歌もオリジナル、ということになるんですが、初演のブロードウェイにおいては、このグレブ役を、実力があって人気の高い、ラミン・カリムルーが務めています。「オペラ座の怪人」の主演で、名を売った方なんだそうです。

Anastasia Original Broadway Cast Recording — "The Neva Flows" — Lyrics

 ファンタジー要素をたっぷりと残しながら、悪役のみ悪魔の呪いからボルシェヴィキに変えていて、グレブはその象徴として作られた役ですから、これは、相当に難しいと思うんですね。

 そもそもアニメ版は、映画「追想」にヒントを得てできあがったそうなのですが、「追想」は、かなり事実に即した設定になっています。

ngrid Bergman - Anastasia / イングリッド・バーグマン ‐ 追想 1956

 イングリッドバーグマンのアナスタシアがのぞきこんでいるのは、ペテルスブルグのネヴァ河ではありません。パリのセーヌ河です。
 パリの白系ロシア人コミュニティに属する男たちが、記憶喪失のアンナをアナスタシアに仕立て、革命で惨殺された皇帝がイングランド銀行に預けていた信託金を得ようとします。
 そのためには、デンマークに住むマリア皇太后(マリア・フョードロヴナ)に認めてもらうしかなく、一行はパリからコペンハーゲンへと向かいます。紆余曲折の末、アンナはアナスタシアであると、祖母の皇太后に認めてもらえるのですが、男たちの中心だったボーニン将軍(ユル・ブリンナー)と恋に落ち、皇太后の黙認のもと、二人は姿を消します。
 この最後がなんともあっけなく、補ってアニメができたのは、納得がいきます。

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尼港事件とwikiと『ニコラエフスクの破壊』vol.5 - 郎女迷々日録 幕末東西

尼港事件とwikiと『ニコラエフスクの破壊』vol.4の続きです。尼港事件とwikiと『ニコラエフスクの破壊』vol.3で書きましたけれども...

尼港事件とwikiと『ニコラエフスクの破壊』vol.5 - 郎女迷々日録 幕末東西

 

 上に書いていますが、アレクサンドル3世の皇后で、ニコライ2世の母親でした皇太后マリア・フョードロヴナは、イギリスのアレクサンドラ王太后(エドワード七世妃、ジョージ5世母)の妹で、デンマークの王女です。
 したがいまして、イギリスのジョージ5世とロシアのニコライ2世は、母方の従兄弟で、よく似ていました。

 ロシア革命は、第1次世界大戦の最中に起こりました。
 鉄道網の後進性から、兵士の動員が思うにまかせず、初戦でドイツ・オーストリア軍に大敗し、膨大な死傷者を出し、都市部において、極度の食糧物資不足に見舞われます。
 それこそが革命の主要因だったと、私は思います。

 ニコライ2世退位後、最初に権力を握ったケレンスキーの臨時政府で、ニコライ2世一家のイギリス亡命話が持ち上がるのですが、大使の打診に、イギリス政府の回答は拒否でした。これは、ロイド・ジョージ首相の意向であるとも伝えられていたのですが、実は現在、そっくりの従弟ジョージ5世が拒否したのだと、はっきりわかっております。
 未曾有の総力戦で、イギリス国内にも反王室気運が強くなっていまして、専制君主として、イギリスではあまり評判の芳しくありませんでしたニコライ2世を身内として迎えますことに、ジョージ5世が多大な危惧を持った結果のようです。

 しかし、アレクサンドラ王太后は、妹の救出に必死でした。
 第一次世界大戦の終わりました1919年、ジョージ5世も母の願いを入れて軍艦を派遣し、マリア・フョードロヴナは説得されてロシアを脱出し、最初はイギリス、そして最終的には故国デンマークに亡命することになります。

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尼港事件とwikiと『ニコラエフスクの破壊』vol.7 - 郎女迷々日録 幕末東西

尼港事件とwikiと『ニコラエフスクの破壊』vol.6の続きです。お話を、尼港事件とwikiと『ニコラエフスクの破壊』vol.4で書きました...

尼港事件とwikiと『ニコラエフスクの破壊』vol.7 - 郎女迷々日録 幕末東西

 

 ロシア革命の亡命者は、全部あわせますと百万をはるかに超えます。

 「尼港事件とwikiと『ニコラエフスクの破壊』vol.5で」書きました皇太后マリア・フョードロヴナのように黒海経由、ペテルスブルグ生まれの日本学者セルゲイ・エリセーエフがたどったフィンランド経由が、主なヨーロッパ・ルートでして、この場合は、大方、最終目的地がフランスです。
 なにしろ、貴族やインテリ層のロシア人は、フランス語が自国語のように話せました。

 とはいいますものの、子供のころ、一家で黒海経由、パリに亡命し、フランスの小説家となりましたアンリ・トロワイヤの祖母はコーカサス生まれで、チェルケス語を母語とし、フランス語どころかロシア語もろくに話さなかったのだそうです。

 「ドクトル・ジバゴ」のラーラは、コマロフスキーと極東へ行き、極東共和国の終焉とともにコマロフスキーはモンゴルへ逃れ、映画では、ラーラは幼い娘(ユーリの子)とモンゴルではぐれたことになっています。
 モンゴルというのは、現在の内モンゴル、中東鉄路(東清鉄道)が通っています満州里なども含みますし、シベリアの農民やコサック、ブリヤートなどが、村ごと集団で亡命したケースが多かったでしょう。ボルシェビキはあらゆる宗教を弾圧しましたから、信仰のためにそうしたケースもけっこうあります。

 個人ルートとしましては、コルチャーク政権の崩壊前後、そして、日本軍がシベリアから撤退し、極東共和国が崩壊しました1922年を中心としまして、主には、シベリア鉄道から中東鉄路を乗り継ぎ、鉄道付属地で、ロシア人の自治が行われていましたハルビンへ行くか、そこからさらに、天津や上海など中華民国の租界へ行くケースと、ウラジオストク経由船便、あるいは鉄道で朝鮮や日本の港に渡り、さらに上海やアメリカに渡るケースが多かったのではないでしょうか。

 ボルシェヴィキの冷酷な圧政の中、多くのロシア人が祖国を離れ、他国でコミュニティを築きました。

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尼港事件とwikiと『ニコラエフスクの破壊』vol.2 - 郎女迷々日録 幕末東西

尼港事件とwikiと『ニコラエフスクの破壊』vol.1の続きです。メイエルの娘、エラ・リューリ・ウイスエル(Ella.Lury.Wiswel...

尼港事件とwikiと『ニコラエフスクの破壊』vol.2 - 郎女迷々日録 幕末東西

 

 革命前夜のロシアには、産業の拡大により、サッバ・モロゾフ、サッバ・マンモートフなどの大富豪が生まれておりましたが、ロシア帝国は彼らを、体制側に取り込むことができないでおりました。

 サッバ・モロゾフの祖父は農奴で、自分と家族の自由を買い取った上で、事業の基礎を築き、次の代で繊維、工作機械、製造業などの連合企業体経営で億万長者となり、サッバはそれを受け継ぎました。
 一方、サッバ・マンモートフは父親が徴税代理人で、鉄道事業を手がけて富を築き、息子のサッバがそれを拡張しました。
 そのモロゾフもマンモートフも、ボリシェビキやメンシェビキ、社会革命党など、反政府勢力に莫大な資金援助をして、その活動をささえていたんです。彼らはまた、多数の芸術家たちのパトロンでもあり、マンモートフはモスクワ芸術座の財政を賄ったことで有名です。
 
 新興ブルジョワジーの富は、変革への期待を育み、新しいロシアの文化を大きく花開かせたわけです。チェーホフやゴーリキーの脚本による演劇。リムスキー=コルサコフなどの音楽。ニジンスキーなどのバレエ。

 またこの当時、ベルエポックの華やかなパリとペテルブルクは、豪華寝台車で結ばれ、富裕な人々や芸術家たちは、気軽に行き来してもおりました。
 アメリカのダンサー、イサドラ・ダンカンは、ヨーロッパ公演の一環でロシアを訪れ、血の日曜日事件で虐殺された人々の葬儀を目撃しています。
 そして、血の日曜日事件のよく年からは、ディアギレフを中心として、ロシア美術や音楽、そしてバレエのパリ進出が実現し、世界的に認められることともなりました。

 あまり知られていませんが、ロシアやその周辺国からの亡命芸術家たちの中には、日本や、日本の支配下になった満州に住み着いた人々もいました。
 バレリーナのエリアナ・パブロバ、ヴァイオリニストの小野アンナ、指揮者のエマヌエル・メッテルなど、彼、彼女たちが、日本の西洋音楽やバレエの発展に果たした役割は、はかりしれません。

 まあ、ですね。
 結局のところ、ありえないことなのですけれども、ペトログラードの宮殿がボルシェヴィキに襲われ、アナスタシアは逃げ延び、皇太后はパリにいて、ロシアのクラシックバレーの美しい幻影がロシアとパリを結びつける、といった、ミュージカルのファンタジー性は、ちゃんとリアリティを持った幻影となっている気がします。

 で、革命の象徴としてのグレブ、ですよね。
 悪魔は悪魔かもしれませんけれども、ボルシェヴィキの中の人も人間ですから、それがこの役の難しいところかなあと、思ったりします。

 ところが、です。
 この難しい役を真剣に演じながら、キキちゃんは一方で、日替わりアドリブを入れて笑いをとろうとしているとか、信じられません!
 本日(11月19日)は、望海さん、真彩ちゃん、彩風さんをはじめ、雪組さんが観劇なさったそうで、キキちゃんは、片手で顔半分を隠し、「ファントム」のYou are musicをやっていたとか……。
 見たかった!!! 

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宝塚キキ沼に落ちて vol8

2020年11月17日 | 宝塚

宝塚キキ沼に落ちて vol7 - 郎女迷々日録 幕末東西

上の続きです。

 いったいいつ、どうして、私はキキ沼に落ちたのか、実のところ、はっきり覚えてはないんです。
 キキちゃんが宙組に移って初の大劇場公演、「天は赤い河のほとり」のラムセス役が好評だったことは、ネットでいろいろと見て、知っていました。しかし私、原作マンガの作者・篠原千絵さんの絵が苦手でして、連載誌「少女コミック」は何回も見たことがあったんですが、読んでいませんでした。
 行ってみたいなあ、と心が動いたのは、去年の「オーシャンズ11」だったんですが、直後に明日海さんの退団公演があって、どうしても見ておきたい、と思っていたものですから、私のスケジュール的に無理でした。
 結局、決定的にはまったのは、今年の一月末です。

TAKARAZUKA CAFE BREAK ★芹香斗亜の謎は明かされないの巻 20200117

  YouTubeのカフェブレイクで、ショーの「アクアヴィーテ!!」が取り上げられていて、そのラスト近くで、トップカップルのデュエダンのときに、キキちゃんが「男が女を愛する時」(When a Man Loves a Woman)を歌っていたんです。
 あまりにそれがよくって、カフェブレイクのほんの一瞬を、なんどもなんども巻き戻して見ていたんですが、1月3日にNHKで「アクアヴィーテ!!」が放送されていたことを知らなくて、悔しい思いをしました。

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【テレビ】「宝塚歌劇宙組公演」(舞台中継) | ニュース | 宝塚歌劇公式ホームページ

NHKBSプレミアム●11月23日(月・祝)24時45分~宙組『ElJapón(エルハポン)-イスパニアのサムライ-』『アクアヴィーテ(aq...

宝塚歌劇公式ホームページ

 

 11月23日、「イスパニアのサムライ」とともに、放送されるそうですので、まだご覧になってない方は、ぜひ。

 YouTubeで検索して、原曲やカバー、いろいろ聞いてみたのですが、私にとりまして、キキちゃんにまさる歌唱はなく、円盤は、発売されてすぐに買いました。
 しかし、もっともっとずっと聞いていたい、と思い悩んでいましたところ、iTunesで、宝塚の楽曲が一曲ごとにDLできるようになっていると知り、AirPods Proを新調し、準備万端でDLしました。残念なことに、ごく短くて、リピートして聞いているんですが、あきません。
 結局、キキちゃんの曲は片っ端からDLして、プレイリストを作って、いま、幸せにつつまれています。

 音楽でいいますと、数年前、BABY METALにはまって以来のはまりっぷりなんですが、その前はGO!GO!7188、それと重なってナイトウィッシュ、ですから私は、歌唱力があってきれいな女性ボーカルのロック、メタルバンドが好きみたいですね。
 ああ、忘れてました(^0^;) キキちゃんも、女性でした!!! 歌唱力があってきれいな女性ボーカルで、まちがいないです!!!
 今年、BABY METALが紅白に出るそうで、あの退屈な紅白を見ることになりそうです。

 ところで、つい先日まで、東京宝塚劇場でやっておりました花組さんの「はいからさんが通る」と、現在、宝塚大劇場で上演しております「アナスタシア」と、ほぼ時代が同じだということを、ご存じでしょうか?

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花組公演 『はいからさんが通る』 | 宝塚歌劇公式ホームページ

花組公演 『はいからさんが通る』の情報をご紹介します。

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 関係ありませんが、華優希さん、来年退団が発表されました。同期引き継ぎはない、とか言われますけれども、個人的には、音くり寿ちゃんが次期トップだったら収まりがいいんじゃないかなあ、と感じます。(華ちゃんも音ちゃんも同じ100期です)
 偶然なんでしょうか、カフェブレイクのゲストに、ひらめちゃん、音くりちゃんと初出場の娘役さんが出ましたが、雪、花、次期トップ娘役を出場させた、というわけでも、ないんですかしらねえ。

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宙組公演 『アナスタシア』 | 宝塚歌劇公式ホームページ

宙組公演 『アナスタシア』の情報をご紹介します。

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 話をもとにもどしまして、要するに、ロシア革命とその後、ですから、同じ時代なんです。
 私、「はいからさんが通る」は、大昔に原作マンガは読んでいまして、当時はまだ子供でしたから、ろくに歴史を知らず、けっこう面白がっていたような記憶があるんですが、確か、「伝説の金日成将軍」シリーズを書いたころ、読み返して、あまりの脳天気にあきれました。

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伝説の金日成将軍と故国山川 vol4 - 郎女迷々日録 幕末東西

伝説の金日成将軍と故国山川vol3の続きです。大正8年(1919年)、休暇をとって東京を離れた金光瑞は、ひとまず、ソウル仁旺山の麓にある家に...

伝説の金日成将軍と故国山川 vol4 - 郎女迷々日録 幕末東西

 

 三・一独立運動当時、満州はといえば、明治44年(1911年)の辛亥革命以降、一応は中華民国の領土となっていたわけなのですが、北京政府の威令は行き渡らず、軍閥割拠状態の中、馬賊上がりの張作霖が実権を握っていました。
 また、ロシアの東清鉄道(辛亥革命によって中東鉄路と名が変わります)と、明治38年(1905年)以来、日本のものとなった満州鉄道と、その付属地が点在していますから、線路と付属地に関しては、ロシア、日本の警備、行政下にあったわけです。
 沿海州はロシア領ですから、大正6年(1917年)に勃発したロシア革命の混乱のただ中です。満州の中東鉄路とその付属地にも、革命は押し寄せていました。

 当時の満州については、上に引用した通りだったんですが、シベリア出兵に関しては、「尼港事件とwikiと『ニコラエフスクの破壊』」シリーズで、けっこう克明に調べております。

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尼港事件とwikiと『ニコラエフスクの破壊』vol.6 - 郎女迷々日録 幕末東西

尼港事件とwikiと『ニコラエフスクの破壊』vol.5の続きです。日本におきまして、ロシア革命の本はけっこう多いのですけれども、ロシア内戦の...

尼港事件とwikiと『ニコラエフスクの破壊』vol.6 - 郎女迷々日録 幕末東西

 

(ニコライ2世)一家が、監禁されておりましたエカテリンブルクにおいて、1918年7月17日、ボルシェビキのチェーカー(秘密警察)指揮で惨殺されましたことも、チェコ軍団の蜂起と関係がなくはありません。
 なにしろ近くのチェリャビンスクで、チェコ軍団によってソビエトが倒され、白軍が勢いを得ていましたので、元皇帝一家が白軍に奪われ、反ボルシェビキ運動にさらなる拍車がかかることを、ボルシェビキは、怖れずにいられなかったわけなのです。

 つまるところ、「はいからさん」の少尉が戦死したことにされておりましたシベリア出兵と、アナスタシアの虐殺は、密接に結びついた話だったりします。

 「はいからさん」は、書かれた当時、日本では主流でした左翼史観のおかげで、現在の私には、うんざりするしかないものになっていまして、ちょっと見る気がしなかったのですが、華ちゃんが退団することを思えば、ライブを見ておけばよかったなあ、と思います。

 で、「アナスタシア」、ですが、こちらは、アメリカのロシア浪漫とでもいったもののおかげで、すばらしく歴史離れをしております。そもそも、ファンタジーだと思ってくれ、という話ですし。
 そうですよねえ、つい先年、アナスタシアの遺骸はDNA鑑定で確定されました。

 しかしアメリカには、多くの白系ロシア人が亡命しておりましたし、帝政ロシアへの憧憬と郷愁は根強く、魅力的な音楽とともに、なんとも美しい舞台になっているようです。

 続きます。

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宝塚キキ沼に落ちて vol7

2020年11月14日 | 宝塚

宝塚キキ沼に落ちて vol6 - 郎女迷々日録 幕末東西

上の続きです。

 さる11月7日、山崎育三郎の武道館コンサートに行ってまいりました。
 明日海さんがゲストだというので、どうせ当たらないだろうと思って申し込んだら、当たりました。
 
 ほんとうに久しぶりのコンサートだったんですが、育三郎さんのコンサートにしては、ちょっと音響に不満がつのりました。
 私は、若いころはロックコンサートによく行っていて、大音量には慣れているんですが、アップテンポの曲で、あそこまでボーカルの声が割れていたのは初めてです。
 武道館は初めてでおられるそうなので、PAも慣れてなかったのかなあ、と思うんですけれども。

 「香水」、「世界の王」(ロミオとジュリエット)、「闇が広がる」(エリザベート)は育三郎さんと明日海さんの共演。
 「闇が広がる」はどちらがルドルフでどちらがトート? と予想できないでいたら、両方、交代で歌われました。
 驚いたのは、明日海さんがソロで、「ポーの一族」から「哀しみのバンパネラ」を歌われたことです。

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ミュージカル・ゴシック『ポーの一族』|梅田芸術劇場

ミュージカル・ゴシック『ポーの一族』の公式サイトです。公演スケジュール・チケット情報などはこちらから。大阪:2021年1月 梅田芸術劇場メイ...

 

 

 来年の一月早々から、外部での「ポーの一族」が始まります。
 まだ早いとは思うのですが、練習をはじめられたのでしょうか?
 「哀しみのバンパネラ」が、ものすごく、よかったんです!

 アレンジが変わったかなあ、とも思ってみたのですが、明日海さんの声ののびがよく、歌われるテンポが、胸にしみる感じなんですね。いままで私、けっしていい歌だとは、思っていなかったんですけれども。

 実は、ですね。一昨年、ホテル宿泊付きSS席で、かなりの額をかけ、宝塚大劇場へ出かけ、念願の「ポーの一族」を見たのですが、私、途中で寝ちまったんです!!!
 どこで寝たかは覚えています。
 隣の席の中村さまが、起きてください! エドガーとアランがゴンドラに乗ってますよ! ほら!と揺り起こして、くださいました。
 逆算してみますと、どうも、柚香アランの独唱あたりから、寝ちまっちゃったんじゃないんでしょうか。
 最近、オンデマンドで見返してみたんですが、柚香さんの独唱、歌詞が聞きとれませんでした。
 いや、ビジュアルは十二分に美しくて、明日海さんとの並びもよかったんですけれども。

花組公演『ポーの一族』初日舞台映像(ロング)

 開幕して、少女のころに夢見た「ポーの一族」の美しい世界が、目の前の舞台に出現し、最初は、ただそれだけで感激していたんです。
 明日海さんはエドガーそのものでしたし、華優希さんのメリーベルも、はまり役でした。
 しかし、なぜか退屈だったんです。
 明日海さんが歌い上げる「哀しみのバンパネラ」も、今回聞いてみたら、けっこういい歌だったんですが、心に届きませんでした。

 なぜだったんだろう?と、つらつら考えてみたのですが、要するに、原作マンガに対する思い入れが、強すぎたのでは、なかったでしょうか。

 原作には、二つの視点があります。
 ひとつは、エドガーを中心とするポーの一族、哀しみのバンパネラからの視点です。
 もう一つは、彼らと接触し、夢を見た、あるいは怖れた、普通の人々からの視点です。
 時をとめられたエドガーの哀しみは、対局に、限りある命を生きる普通の人々の哀感があってこそ、浮き彫りにされます。
 明日海さんが主役なのですから当然なのですが、宝塚の舞台は、エドガーの視点に終始しすぎまして、原作にあった余韻と感慨が、私には、まったく感じられなかったんです。

 思い起こしてみれば、違和感は、冒頭からありました。
冒頭、ドイツの空港に4人の人物が現れます。この場面は、「ランプトンは語る」(「ポーの一族」4巻)に出てきますドン・マーシャル(和海しょう)とマルグリット・ヘッセン(華雅りりか)、マルグリットの甥のルイス(綺城 ひか理)の出会いをモチーフにしているようですが、そこに水美舞斗演じるバイク四世という、原作には出てこない人物が加わります。彼の曾祖父バイク・ブラウンは、「消えた男爵一家」という著書を残している、というんですね。

 「ポーの一族」は短編の積み重ねで大きな流れを描いていて、複雑な作品なんですが、中心になりますのはやはり、第一巻の「ポーの一族」です。ここでエドガーは、ポーツネル男爵(瀬戸かずや)、その妻のシーラ(仙名彩世)、そして実の妹のメリーベルと、ポーの一族の家族をすべて失い、寂しさからアランを仲間に加えます。そして、窓から風に乗って、二人で旅立つのですが、これが舞台では、ゴンドラの場面になっていたんです。クライマックスで寝ちまう私って、すごい……。

 原作において、バイク・ブラウンは出てくるにはくるんですが、ほとんど目立たない、脇の脇の脇、くらいの役で、「消えた男爵一家」という本を書いたりはしません。マイティ(水美舞斗)の一人二役で、役柄を大きくし、曾孫の四世を登場させる必要が、はたしてあったんでしょうか。私には、そうは思えないんです。

 原作において、マルグリット・ヘッセンは、初対面のドン・マーシャルに語ります。
「この古い日記を手に、グレンスミスのふしぎなポーの村の話をしてくれたのは祖母でした。小さかった私は、すっかりそれを信じました。でもやがておとなになる代価に、……魔法や夢を支払った……。ものをかくのはだからです。その時だけ、わたしはこどもにもどれます。奇跡や魔法が使えます。あなたも夢を見るでしょう?」

 マルグリッドの祖母の話は、第一巻の「グレンスミスの日記」に出てきます。
 三人が消滅するお話しは、1880年ころ、ですから、明治13年、西南戦争の直後くらい、です。

 それより15年前、日本で言えば幕末も押し詰まったころになりますが、20歳のイギリス貴族・グレンスミスは、ポーの一族の村に迷い込み、メリーベルとエドガーに出会います。
 グレンスミスはそのことを日記に書き残し、1899年に世を去ります。

 マルグリッドの祖母・エリザベスは、グレンスミスの末娘で、日記を受け継ぎ、家族の反対を押し切って、ドイツ人の音楽家と結婚します。
 ベルリンの小さなアパートで、三人の娘が生まれ、エリザベスは幸せに暮らしていましたが、ほどなく第1次世界大戦。
 夫は徴用に駆り出されて殉職し、敗戦の中、食べるものにも困る極貧の生活の中で、次女のユーリエが17歳で世を去ります。
 働きながら、病気の母の面倒を見ていたユーリエは、死ぬ前に、母のベッドのそばでつぶやきます。
 「わたし、おじいさまがこの日記にかいたこと、ほんとうだと思うわ。もうずっと一生、そんなバラの咲く村で暮らせたら、どんなにいいでしょうね」
 疲れたとも苦しいともひとことも言わず、ユーリエは、バラの咲き乱れるポーの村を夢見て、逝ったんです。

 やがて少しずつ、ドイツは貧しさからぬけ出て、長女ジュリエッタ、三女アンナは恋をして、結婚します。
 しかし、幸せを留めておくことはできないで、第2次世界大戦。
 エリザベスはアンナの家族と暮らしていて、孫が四人。末っ子がマルグリットでした。
 長男のピエールは戦場へ行き、疎開騒ぎの中で、10歳のマルグリットが、古いグレンスミスの日記を見つけます。
 エリザベスは孫に、不死の一族が住むポーの村の話をして、最後につぶやくんです。
「生きていくってことは、とてもむずかしいから、ただ日をおえばいいのだけれども、ときにはとてもつらいから、弱い人たちは、とくに弱い人たちは、かなうことのない夢を見るんですよ」

 17年の後、祖母エリザベス、母アンナは逝き、兄ピエールは戦場から帰らず、マルグリットは父と二人暮らしです。
 近くに住む甥のルイスが遊びに来て、マルグリットはせがまれて、グレンスミスの日記のことを書いた原稿を、ルイスに見せます。
「はは、おもしろいな! ここにでてくるバンパネラにそっくりの子が、ぼくの学校にいるよ。こんな青い目にまき毛で。それにおなじ名まえなんだよ! エドガーってさ!」
 ここから、第三巻の「小鳥の巣」へと話は続きます。

 私は、少女のころに読んでから長く、「グレンスミスの日記」を胸の奥深くに抱いていました。
 エドガーが時をとめて生きている間に、人の世は移り変わり、グレンスミスの娘のエリザベスは、自分ではどうしようもない運命に翻弄され、この世のどこかに、ひっそりとバラの咲くポーの村があるのだと信じ、それを、生きる力にしていました。
 「ポーの一族」の最大の魅力は、エドガーと同時に、エリザベスが描かれていることにあると、今もそう思っています。

 宝塚の劇は、「小鳥の巣」の直前で幕切れしますが、「小鳥の巣」は悲劇なんです。少年が一人、消失します。
 原作の「ランプトンは語る」では、ルイスが、その悲劇の目撃者を伴っています。
 そして、「ランプトンは語る」には、バイク4世のかわりに、第2巻「メリーベルと銀のばら」に出てきます、エドガーとメリーベルの異母兄・オズワルド・オー・エヴァンズ伯爵の子孫、ヘンリーとシャーロッテが出てきます。
 エドガーの正体をあぶり出そうと試みられた会合で、エドガーはみなが集まった館に火を放ち、アランは助けようとしたのですが、シャーロッテが死にます。これも悲劇です。
 バイク・ブラウンも男爵一家が消えるのを目撃すると同時に、ちなつさん(鳳月杏)演じるジャン・クリフォードが、エドガーに殺されたことも知っています。

 劇の冒頭に登場したドン・マーシャル、マルグリット、ルイス、バイク四世は、案内役のように、時々現れ、説明を加えるのですが、これが、まったくの他人事のような感じなんです。最後も、みんながにこやかにエドガーとアランのことを語り、ルイスは「(二人にあったのは)5年前のことです。二人は一番の親友であり兄弟のようでもありましたね」と、なんでもないことのように言うのですが、原作では人一人が消えているんですよね。
 おまけに、ラストシーンでは、「小鳥の巣」の舞台となったギムナジウムの生徒たち(ルイスも含まれます)が集団で、「哀しみのバンパネラ」を歌うんですが、ポール・アンカが流行っていた時代に合わせて、アップテンポのポップ調で、そこに、エドガーとアランがたたずんでいるのが、冗談のようでした。

 こういった歌の使い方も、余韻や感慨を失わせてしまう一因であったように思います。
 明日海さんも仙名さんも、歌がお上手です。それは十分にわかっているのですが、普通のセリフも歌い上げる本格的なミュージカル風にする必要が、果たしてあったんでしょうか。
 あげく、けっして歌がお上手ではない柚香さんや瀬戸さんにまで、けっこう歌わせることになってしまっているのが、とても残念でした。
 もう少し全体に歌の量を減らして、影コーラスを使うなどした方が、雰囲気が出たのではなかったでしょうか。
 ともかく、私にとりましては、絢爛豪華な絵巻を、ぱらぱらとめくって見ました、というだけの観劇となりました。

 宝塚大劇場で、多人数でやるには、いろいろと難しい劇化の条件があったのかもしれないですし、小池氏も、どこかにやり残した感がおありで、明日海さんが卒業なさった今、外部再演となったのではないかなあ、と思ってみたりしています。
 明日海さんも卒業なさって、肩の力が抜けられた感じで「哀しみのバンパネラ」を歌っておられましたので、案外、いい公演になるかも、という気が、しないでもありません。
 とはいうものの、そもそもとんでもなくチケット難みたいですし、見に行くつもりは、まったくありません。

 ひとつには、この落とし前は、明日海さんの退団公演『A Fairy Tale -青い薔薇の精-』でついたのではないか、という思いが、私にはあります。

花組公演『A Fairy Tale -青い薔薇の精-』『シャルム!』初日舞台映像(ロング)

 以前に書きましたが、宝塚ホテル宿泊とセットのSS席は、手に入りませんでした。いい席ではなかったのですが、今度は寝ませんでした!!!(笑)

 おもしろかったかといわれると、微妙です。作・演出は「ハンナのお花屋さん」の植田景子氏。
 「ハンナのお花屋さん」もそうだったんですが、明日海さんが演じる部分に納得がいくか、というと、ちょっと首をかしげるんです。
 明日海さんですから、青い薔薇の精は、立っているだけで超美しくて、説得力があります。
 しかし、「人間の少女に忘却の粉をふりかけなかったことが、薔薇の精にとっては自然の掟に背く背徳」といわれても、どうにも釈然としません。

 舞台は19世紀半ば、ヴィクトリア朝のロンドン。
 大英帝国の繁栄の一方で、自然破壊が起こり、妖精たちが潜む自然が狭められていた状況を劇にしたそうなんですが、だったら忘却の粉をふりかけない方がいいんじゃないの? とか、つい思ってしまいます。
 しかし、華優希さん演じる少女の側、つまり、人間の側の話が、とても魅力的でした。
 大人になって、薔薇の咲き乱れる妖精の庭とは別れざるをえず、不幸な結婚をして、事故にあって歩けなくなり、年老いて行く中で、少女のころの妖精の思い出こそが、彼女の生きる力となって、絵本作家となるんですね。
 つまり、私はここで、「グレンスミスの日記」のエリザベスとマルグリットに出会ったわけです!!!

 私の生観劇はここまでですし、12月にはなんとか、生キキちゃんを見に宝塚大劇場へ!!! と思っていたのですが、もろもろ、家庭の事情で夢となりました。
 しかし次回は、現在上演中の宙組「アナスタシア」について、語ってみたいと思います。
 キキちゃん、毎日アドリブを入れているそうでして、今日(11月14日)のアドリブは、NiziU の『Make you happy』だったんだそうです。

NiziU 『Make you happy』 M/V

 YouTuveで検索して、NiziUとはなにか、初めて知りましたわ(^0^;)

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宝塚キキ沼に落ちて vol6

2020年11月11日 | 宝塚

宝塚キキ沼に落ちて vol5 - 郎女迷々日録 幕末東西

上の続きです。

 なかなか「ポーの一族」まで話がいきつかないのですが、続く花組公演「邪馬台国の風」は、中村さまが、たまたま行ける日に切符が取れたそうで、観劇されました。だからうらやましいことに、中村さまは生でキキちゃんを、見ておられるんです!!!
 しかし、劇そのものはとてもつまらなかったという話で、ネットで評判を読んでもそうでした。

花組公演『邪馬台国の風』『Santé!!』初日舞台映像(ロング)

 とはいうものの、半端なくキキちゃんはステキだったみたいですし、ショー『Santé!!』はオンデマンドで見たのですが、すばらしいですし、円盤を買う予定でいます。

 そして、キキちゃん花組最後の作品「ハンナのお花屋さん」です。

 この作品は、評価が二つに分かれるようですが、なにしろ私は、キキちゃんにはまってから円盤を買いましたので、大満足です。

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花組公演 『ハンナのお花屋さん —Hanna’s Florist—』 | 宝塚歌劇公式ホームページ

花組公演 『ハンナのお花屋さん —Hanna’s Florist—』の情報をご紹介します。

宝塚歌劇公式ホームページ

 

 明日海さんの役は、デンマーク人で、オックスフォードを出たフラワーアーティスト、クリス・ヨハンソンです。
 クリスは、ロンドンの高級住宅地ハムステッドで、“Hanna's Florist(ハンナのお花屋さん)を開いていますが、ハンナとは、彼の亡き母の名前です。
 父親のアベルは生きてデンマークにいます。しかし、クリスは父親と関係をこじらせていて、もう長く会っていません。

 明日海さんにお花屋さんが似合うかといいますと、そりゃあ、似合わなくはないんです。なにしろ明日海さんは芸達者ですから、たいていの役はこなされます。
  おまけに、花屋さんといいましても、クリスはデンマークの貴族の家の出で、オックスフォード主席卒業。34歳独身、人のいいイケメン店長、というのですから、似合います。

 物語は夢で始まります。クリスが幼い頃に暮らした、デンマークの森の夢です。
 小鳥がさえずり、花が咲き、妖精が舞う。やさしい父がいて、笑顔の母がいて、自分がいる。
 おとぎ話のような懐かしい夢が覚めると、クリスはロンドンの自分の店にいて、花屋の仲間たちが、34歳の誕生日を祝ってくれます。
 そこから、フラワーアーティストとして成功したクリスが、店をどう展開していくか、そして、クロアチアからの移民・ミア・ペルコヴィッチとの出会いへと話はすすんでいくのですが、正直、ちょっと山のない展開になっているのではないかなあ、と思います。

 わけても、弟を地雷の爆発で失い、心に傷を追ったミアと、クリスがいかに心を通わせていくかは、肝心な部分がネットでのやりとりになっていて、iphoneやMacBookAirが小道具として使われているのは、それなりに楽しいのですが、ちょっと、あまりにも、直にお互いを確かめ、ぬくもりを伝える部分が少なすぎる気がします。

 結局、この物語の核は、お花屋さんとは次元のちがう過去で、キキちゃん演じるアベル、舞空瞳さん演じるハンナ、二人の愛にあります。父とのこじれを解消し、父母の愛を確信することで、クリスの指針は定まり、自身の愛にも積極的になれる、というわけなのですから。
 時間は短いのですが、アベルとハンナの物語こそが、ロマンティックで、いかにも宝塚的(と、キキちゃん本人が言っていました)な一目惚れにはじまり、深く愛しあいながら、悲劇に見舞われ、ある意味古風な定番かもしれないのですが、キキちゃんと瞳ちゃんの渾身の演技で、生の舞台でもないのに思わず泣いてしまうほど、心に刺さります。

 淡いベージュのジレを着て、貴公子然としたキキちゃんの姿は、クリスの夢に登場した瞬間から、目を奪います。そして、誠実さゆえに、義務と愛に引き裂かれるアベル。
 「ハンナのお花屋さん」のアルバムには、キキちゃんの歌は、聞くだけで涙腺がゆるむ「消えない罪」しか収録されていません。

  ♪〜憎しみゆえの悲劇、背負う十字架に、心は血を流し、
  愛は消え、世界は闇 失われた愛、失われた命、永久に

 しかし、最近、キキちゃんのスペシャルアルバムが発売されまして、こちらには、「 Miracle-Falling in Love-(奇跡-恋に落ちて-) 」「Listen to your Voice(心の声に耳をすませて)」の2曲も収録されました。「Listen to your Voice」の方は、この劇の主題歌とも言えて、何度も繰り返し歌われるのですが、最後に、短く、アベルとハンナ、クリスとミアの4人が歌います。これが、どこにも収録されていなくて、ちょっと残念です。

 ハンナ役の瞳ちゃん、現在、星組トップ娘役ですが、このとき、まだ入団して2年目だったそうなんですね。
 リトアニアからの移民(第2次大戦後のソ連侵攻から逃れて)の娘でありながら、森の妖精のように現実離れしていて、下手をするとまるっきりリアリティがなくなる役を、見事に演じていました。キキちゃんとの並びも、主役カップル(クリスとミア)をくってしまうほどに美しく、ヒロイン力抜群の娘役さんです。

 そして、なんといっても、明日海さんです。ほんとうに、驚くべき芸達者で、あまり宝塚らしくない現代的な役を、きっちりと、情感を持って演じておられました。
 おかげをもちまして、この作品は、キキちゃん花組時代の代表作になったと思います。

 「ハンナのお花屋さん」の作・演出は、植田景子氏。宝塚初の女性演出家です。
  代表作は、この2年後、明日海さんの退団公演に書いた『A Fairy Tale —青い薔薇の精—』じゃないでしょうか。

 実は先日、山崎育三郎の武道館コンサートで、ひさしぶりに生明日海さんを見てまいりました。
 「ポーの一族」から「哀しみのバンパネラ」を歌われたのですが、これが、実によかったんです!

 私にとっての「ポーの一族」は、少女時代の一番お気に入りの漫画でして、小池修一郎氏が、「これを舞台化したくて宝塚に入った」というようなことをおっしゃっていたのには、大きく頷けて、確かに、エドガーは明日海さんにしかできない!と、「桜華に舞え」以来の生宝塚を実現するべく、またも中村さまをお誘いし、宝塚ホテルとセットのSS席を手に入れました。

 ただ、私が最初に「ポーの一族」舞台化の話を聞いたときには、確かまだ、キキちゃん宙組転出の話は出ていなくて、「金色の砂漠」をなにかで見た後でしたので、「ジャーのビジュアルってアランにぴったり!」と思ったりしていました。柚香さんはちょっと、アラン役にはきつすぎる気がしまして。
 しかしまあ、身長を考えますと、「もしキキちゃんが花組にいたら、ポーツネル男爵の方があってたかも」と、今では思っています。

 キキちゃんと明日海さんと漫画といえば、実のところ私は、山岸涼子さんの「日出処の天子」を見てみたかったんです!

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日出処の天子 - 郎女迷々日録 幕末東西

日出処の天子(第1巻)(白泉社文庫)山岸凉子白泉社このアイテムの詳細を見る風邪が治りません。パソに向かい合うのもかったるく、えー、私のパソは...

日出処の天子 - 郎女迷々日録 幕末東西

 

 この「人ではない」聖徳太子ができるのって、明日海さんしかいません!!!
 キキちゃんの身長の高さも、蘇我蝦夷の役ならぴったり! と花組時代の役柄を見ていて、思ってたんですね。
 夢に終わりましたけれども。

 宙組公演「アナスタシア」のことも書きたいのですが、またもや私は家庭の事情で動けない状態となりまして、ライブ配信で見るつもりでおります。
 とりあえず次回は、やっと、「ポーの一族」です。 

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宝塚キキ沼に落ちて vol5

2020年11月02日 | 宝塚

宝塚キキ沼に落ちて vol4 - 郎女迷々日録 幕末東西 

 上の続きです。

 私、望海風斗さんがいらしたので、雪組については、演目など、多少は気にかけていました。しかし、望海さんがトップになられたとき、二番手さんがだれなのかは、うかつにして存じませんでした。

 今年の春のことです。地元のテレビ局が、宝塚雪組全国ツアーのチケット販売を告知してたんですね。調べてみましたら、二番手の彩風咲奈さん主演でした。
 去年の夏に明日海さんの引退公演「青い薔薇の精」を見ましてから、なんやかやと動けない事情が重なり、ようやく、年明けて春からは動けそうでしたので、望海さん東京公演の切符を手に入れたところでした。
 どうしようかなあ、と思ったのですが、地元松山の公演なんてめったにないですし、見ることにしたんです。

 驚いたことに、彩風さんは大洲の出身でおられるとか。
 大洲って、松山から車で一時間もかからない小さな町で、習い事などは、松山まで来られる方が多いのですが、彩風さんも、宝塚受験前には松山のバレー教室まで通われていたと、知り合いの知り合いくらいからですが、話が伝わってきました。

 コロナのおかげで、公演は中止払い戻し。
 しかし、私の関心は強くなりまして、松山公演のヒロイン予定で、次期トップ彩風さんのお相手かと思われていた潤花さんの宙組移動には、仰天しました。宙で次期トップといわれているキキちゃんの嫁、とかいわれて、ありえないから!と、一人憤慨。
 私、キキちゃんの嫁には、ぜひお歌の上手な方を!と、切望しています。

 彩風さんの嫁さんが、朝月希和さんに決まったことにも、また仰天。
 なにしろ、朝月さんの経歴をWikiで見ましたところ、「『MY HERO』クロエ・スペンサー 東上Wヒロイン」と書いてあるんです。
 Wヒロインって、えええっ??? ヒロインは音くり寿ちゃん一人じゃなかったの!?
 あのクロエちゃんが、雪次期娘一とは! でした。

 「金色の砂漠」の後、明日海さんは「仮面のロマネスク」全国ツアー。そして、キキちゃんは、東上公演初主演となる「MY HERO」でした。それがなんと、戦隊ものだっていうんですね。
 うーん。宝塚初心者の私などからしましたら、やはり宝塚は華やかじゃなくっちゃ! みたいなのがあります。ああ、別に「ベルサイユのばら」風でなくともいいんですが、「金色の砂漠」にしろ「月雲の皇子」にしろ、時代物はそれぞれに華やかです。
 

 戦隊ものってどうなん? と、円盤を買うのも、長くためらっていました。
 といいますのも、もうひとつ、戦隊ものは子供と一緒に若いお母さんたちが見るものですから、かなり以前から、イケメン俳優を出演させて人気上昇を狙う、というようなことが言われていました。私の年代では、『仮面ライダークウガ』のオダギリジョーが有名でしたが、現在でも、戦隊もの出身の俳優さんって、松坂桃李、横浜流星、千葉雄大と、けっこうな活躍ぶりです。
 ねらいがあざとくない?という、懸念を持ってしまったんですね。

 ところが、ですね。キキちゃんにはまって買ってみましたら、これが、予想に反して、けっこういい作品なんです。
 作・演出は、齋藤吉正氏。なんと、「桜華に舞え」の作者です。

 全体の雰囲気は、ちょっとレトロなアメリカン・コミック。
 キキちゃん演じるノア・テーラーは、人気のアクション・スターです。
 幕開けは、「子供たちも大好きな憧れのヒーロー・マスクJ」の映画製作発表記者会見。
 キキちゃんが、さわやかにインタビューに答えると同時に、心のうちの陰の声が流れます。
 「子供だましの特撮映画でえらい騒ぎだな」
 にっこやかにほほえんで、「この作品のテーマである勇気とやさしさを、子供たちに届けたいです」
 吐き捨てるように陰の声で、「おれ、子供大嫌い!」 
 チャラい感じのキキちゃんは、派手なスーツもシュッと着こなして、同時に両面を見せる芸当を軽々と演じています。

 そして、独白。
 「ブルース・リーにジャッキー・チェン。子供のころ、ぼくはアクション映画に夢中だった。話はきまっていっしょ。必ず悪者は退治され、主人公と囚われの女の子は、めでたくハッピーエンド。そんな定番のストーリーが大好きだった。そう、ぼくもそんなヒーローに憧れていたんだ」
 続く楽しいプロローグで、しっかり、物語世界に誘い込まれます。

 けっこう、凝った作りではないかと思うんですが、冒頭に、定番ストーリーを裏切る主人公が登場し、ところがいつの間にか、はちゃめちゃなコメディ人情劇となって、笑いと涙をまじえつつ、ハッピーエンドのステキな定番ストーリーに着地するんです。

 ノアのお父さんハル(綺城ひか理)は、マスクJの中の人、つまり戦隊もののスーツアクターで、小さなノアは正義の味方のハルが大好きでした。
 ところが、お母さんが亡くなり、ハルは小さなノアのために、家政婦のメイベル(芽吹幸奈)と再婚するんですね。しかしノアは、突然できた新しいお母さんになじめず、ハルとの関係をこじらせます。こじらせたまま、ハルは、撮影現場の事故で死亡。
 このときハルは、子役の女の子・マイラ(音くり寿)の命を助け、マイラは事故のショックで足が立たなくなりますが、命の恩人ハルのことは、MyHeroとして、強く胸に刻んでいました。

 清く正しい表の顔とは裏腹に、女をとっかえひっかえ遊んでいたノアは、スキャンダルを暴かれ、事務所を首になって、転落していきます。その過程で、「男と金にだらしがなく」借金取りに追われる女クロエ(朝月希和)と知り合い、彼女をマネージャにして、リベンジに挑戦。
 ここで、ですね。クロエが嘘泣きをしつつ「私、借金取りに脅かされて住むところもない」みたいなことを言うと、キキちゃんは、退職金代わりに事務所からもらった50万ドルをクロエに手渡し「これでおれのマネージャをしろ」とか、言うんですね。ちょっとありえない人の良さですが、そこが演技のうまさといいますか、にじみ出る品の良さといいますか、クロエを感激させると同時に、「まっ、いろいろあっても、ノアっていい人よね」と観客を納得させます。

 ノアの映画で、中の人、スーツアクターをやる予定だったテリー・ベネット(鳳月杏)は、子供の頃からハルに憧れていて、仕事に誇りを持っていました。難病で、妹さんが医学生で、稼ぐ必要があるところに、ノアのスキャンダルで映画が中止。ところが、テリーは実はイケメンで、ノアの代わりに主演が決まり、歌手としてもスターダムに。
 行く先々でノアはテリーと出会い、最初はバカにしていたのに、やがて立場が逆転。思い上がっていた自分を知らされていくのですが、友情が芽生え、話しているうちに、ハルを見直す契機ともなります。

 ノアは嫌っていたスーツアクターを経験し、ハルが命を助けたマイラと出会い、悪者たち(中心は天真みちるさん! 好演です)の陰謀も暴かれ、最後はマイラをお姫様だっこして大団円。義理のお母さんだったメイベルとも再会して、こじらせたまま逝ってしまったハルへ、暖かい思いをよみがえらせます。
 結局のところ、この物語の核は父子関係で、泣かせてくれます。
 といいますか、キキちゃんうまい!

 いえ、キキちゃんだけではなく、ひらめちゃん(朝月希和)も、ちなつさん(鳳月杏)も、音くりちゃんも、そして、芽吹幸奈さんも綺城ひか理さんも、みんな好演でした。
 綺城さんは、現在星組に移っていますが、97期ですから、キキちゃんよりだいぶん年下なんですね。にもかかららず、176センチの長身ゆえでしょうか、見事なお父さんぶり。直前の「金色の砂漠」新人公演で、主役ギィを演じて好評だったそうです。明日海さんの役ですから、歌も多く、それを破綻無くこなしたわけですから、歌唱力、演技力は相当です。星組での活躍を期待しています。

 キキちゃん主演なので、でしょうか、全体に歌が多く、デュエットも多数なんですが、明日海さん・仙名さんはじめ、主力が「仮面のロマネスク」再演全国ツアーにぬけているなかで、これだけの歌唱力の持ち主がそろうなんて、当時の花組は、すごいです! 
 ああ、音くりちゃんはいまも花組にいて、歌唱力では組の大黒柱になっているようですけども。
 そして、いまや伝説ともなったキキちゃんの音くりちゃんお姫様だっこ!!!
 えらく長い時間やってて、ど、どこに、そんな力がっ???!!!と、びっくりします。
 いや、嘘か本当か知りませんが、「キキちゃんは、実はちなつさんをお姫様だっこしたがっていた」という話も(笑)

 そしていったい、いつからキキちゃんは、これほどの歌上手になってたんでしょうか?
 普段は2番手さんですから、歌は少ないんですが、主演してたっぷり歌うので、これはもうルドルフの時とは大違い!と、はっきり気づきます。
 なにかで、「明日海さんのトートとルドルフを演じたとき、圧倒されて歌えなくて、必死になって練習した」というようなことを、キキちゃん本人が言っていました。

 男役さんの声は、作るものなんだそうです。明日海さんでさえも、月組の最初のころは、それほど歌がお上手ではなかった、という話もありまして、2008年の「ホフマン物語」主演では、「歌唱力はいまひとつ」ともいわれたようです。
 いまにして聞き返してみれば、「新源氏物語」の「恋の曼荼羅」、「雪華抄」の「逢瀬の星」と、この前からキキちゃんは相当に上手く、だから初の東上公演で、これだけ歌う作品をもらえたんですね。

 そして、ひらめちゃん。演技力満点で、ちょっとずうずうしくて、調子がよくて、しかし根は人がよくて暖かい、ヒロインというよりは相棒を演じて、キキちゃんの繰り出すアドリブにも、ちゃんと対処してたんだそうです。
 歌唱力はいまひとつ、と言われるひらめちゃんですが、「金色の砂漠」のカゲソロ、そして、この「MY HERO」のキキちゃんとのデュエット「ここから始めよう」は、悪くありませんでした。
 いえね、バッグの中からビールビンを取り出すような役でしたから「Wヒロイン」という言葉にちょっとびっくりしたのですが、ひらめちゃん、なんと、「金色の砂漠」で卒業なさった花乃まりあさんと同期です。その「金色の砂漠」の新人公演で、ひらめちゃんはビルマーヤ姫でして、あらためて花乃さん、まだ新公年齢だったんですねえ。若いのに、よく重圧に耐えてたんだなあ、と、いまさら感心しました。
  そして、これからトップ娘役、というひらめちゃんは、娘役さんとしては、相当年がいっていることになります。

 「ファントム」は、望海風斗さんと真彩希帆さんの作品で、見ることができなくてとても残念だったものですが、雪組へ移ったひらめちゃんが、けっこう重要な役で出ているというので、円盤を買うことにしました。

 望海さんが雪組トップになられるとき、花組でいっしょだった真彩希帆さんが相手役に呼ばれ、絶賛されている、というのは、確か中村さまからお聞きした情報でした。
 以前にお話ししましたように、『誠の群像-新選組流亡記-』高松公演のチケットは手にしていたのですが、骨折して見られなくなり、その後も、なんだかんだと動けなくていたころに、「ファントム」の評判を聞きました。

 ただ、「ファントム」に関しては、多少の懸念はありました。

OGPイメージ

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 上に書いていますように、私は、映画「オペラ座の怪人」に、けっこうはまっていたんです。
 といいますか、あのロック調の主題歌が大好きでした。

オペラ座の怪人(The Phantom of the Opera)

 この歌、絶対、キキちゃんの声質にあうと思うんですよねえ。版権の問題もあるでしょうけれども、ぜひ歌って欲しい!

 まあ、懸念はあたりまして、望海さんと真彩さん、二人の歌声は驚くほどすばらしかったんですが、どうしても、お話になじめませんでした。
 ひらめちゃんは、冒頭、ファントムのお母さんの影のダンスが、すばらしい出来で、望海さんの歌声とともに、深く印象に刻まれます。
 歌は、ねえ。ファントムが亡き母の歌声を慕っていて、真彩ちゃん演じる歌姫・クリスティーヌの声がそれに似ていたという設定なので、お母さんとクリスティーヌは、一人二役が多いそうなんですよ。お母さん役のひらめちゃんも歌えてなくはないんですが、どうしても真彩ちゃんとくらべてしまいますから、ちょっと、ですね。

 花娘らしく、美しい裾捌きで、ダンスが素晴らしく上手いひらめちゃん。雪トップ娘役、おめでとうございます。

 ここからはじめよう、昔の荷物は置いてゆこう。
 一歩ずつ急がずに 踏み出そう。
 明日へ、ここからはじめよう。〜♪

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