杉浦 ひとみの瞳

弁護士杉浦ひとみの視点から、出会った人やできごとについて、感じたままに。

・緊急事態条項(国家緊急権)は危険であり必要ない

2016-05-05 09:56:54 | 憲法問題
緊急事態条項については、これがなければ困るのではないか、という思いは自然のことなので、
必要がないどころか、危険だということを伝えたいと思います。



この3月18日(2016.3.18)に、報道ステーションで『緊急事態条項って何?
憲法改正の焦点はここ~ワイマール憲法でなぜ独裁が生まれたか』というテーマが取り上げられていました。

安倍自民党が、憲法改正を明言し、まず最初に国家緊急権を憲法に盛り込むことを話題にしているからだと思います。

この番組では、緊急事態条項(国家緊急権)というものが、どれほど危険性を持つものかということを、ドイツの経験に照らして示しています。
以下は、その番組を見てのメモです。


ワイマール憲法下での、ヒトラーのやり方について

経済で人心を掌握したのち、1933年1月30日にヒトラーが首相に就任。

翌2月4日には第1回目の国家緊急権を発動し、言論の自由は封殺された、とのこと。

身内が被害を受けた方たちのインタビュー
 ・「社会党大会に出た父は連れ去られ、二度と帰ってこなかった。メディアは思っていることを何も言えなくなった。
ナチはそこを最も重視していました。ナチ批判など誰にも出来なかった」

 ・「共産党党首の祖父が逮捕され、母は拷問され、祖母も逮捕されてしまった。
民主的に選ばれた政権であっても、憲法の条文によって独裁者に変わる可能性があるのです。歴史を繰り返してはなりません。」


国家緊急権がどれくらい使われたかはほかの資料の通りだが

「ヒトラーは国家緊急権で自由を廃止し、野党の息の根を止めた。
この憲法でまさか独裁者が誕生するなど思いもしなかった。でも実際に誕生した。それは想像を超える世界でした。」
全権委任法とは「国会の審議を経ず政府が憲法改正まで含めて全ての法律を制定出来る」もの。


これによって、ユダヤ人の強制収容、大量虐殺が行われた、と解剖台や、焼却炉、骨と皮の収容者の映像が映し出され、改めてナチスの行いの残虐さを痛感した。


番組では
自民党憲法改正草案にある事態条項について、ワイマール憲法に詳しい学者に、これをどう思うか聞いていた

ミハエル・ドライヤー教授は
「これはワイマールの『国家緊急権』を思い起こさせる。内閣の一人の人間に利用される危険性があり、とても問題です。」
「一見無害に見えるし、他国のものと似ているようですが、議会や憲法裁判所からのチェックが不十分に見える。
悪用の危険がある。何故、一人の人間、首相に権力を集中させねばならないのか。」

・「首相が、立法や首長への指示など、直接介入できる。更に、首相自身が一定の財政支出までできる。
民主主義の基本は法の支配であって人の支配ではない。人の支配は性善説が前提だが、良い人ばかりではない。」

・「民主主義の創設者たちは、人に懐疑的です。常に権力の悪用に不安を抱いているのです。
権力者はいつの時代も常に更なる権力を求めるものです。日本はあのような災害にも対処しており、なぜ今この緊急事態条項を入れる必要があるのでしょうか」
と話していた。


日本の学者である長谷部恭男教授【国会で「安保法制は違憲」と明言して、同法案についての流れを変えた著名な学者さんです】にもインタビューをしていた。
・「他国の同種の法に比べて、要件が甘い。首相の主観に依るのは危険。」
「内閣が法律と同格の政令を出せる、となると令状無しで拘束することも不可能でなくなる。」
・「発動要件が甘く、裁判所のコントロールが利かなくなればダメだ。
テロがあったフランスにも大統領による緊急事態条項はあるが、アルジェリア危機に対応するために使われたのみ。
日本にもそれなりの法律は既にある。必要な法律を整えれば良い。それぞれの国の事情で考えること。」

と結んでいました。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  メモは以上


緊急事態条項とか国家緊急権といわれるものについて、今私たちが考えるべきことは、
まさに、今この国において問題となっている自民党憲法改正草案98条、99条に盛り込まれている国家緊急権です。
この条項が危険だということは、番組の中でもいわれているとおりです。

では、こういった条項がないと本当に困るのでしょうか?

これについては、
結論としては「国家緊急権を憲法に入れることは危険であるし、その必要性もない。
必要性があるとされる災害緊急時と海外からの攻撃に対する有事の2つについて、現時点では法整備が整っている。
前者は災害対策基本法であり、後者は有事法制であるから、必要ない」といえます。

ただし、有事法制については憲法9条との関係で問題があり、積極的に肯定するわけではないのですが、
現在の国家緊急権の議論に当たっては、現在の法制を前提に考えることが有益だと思います。


自民党改正草案にある国家緊急権を容れることの危険性をまず知るべきだと思うのです。

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