杉浦 ひとみの瞳

弁護士杉浦ひとみの視点から、出会った人やできごとについて、感じたままに。

・実家においた住民票で学生に選挙権なし~大人の不手際が18.19才の選挙権を奪った憲法違反

2016-07-10 11:32:05 | 憲法問題
7月10日投開票の参院選で、住民票を実家に置いたまま、進学などのため他の自治体で暮らす大学生、高校生らの一部が、選挙権を行使できなくなっているという北海道新聞の報道に驚きました。
 道内の複数の自治体選管が「住所地に生活実態がない」として学生らを選挙人名簿に登録しなかったというのです。北海道新聞のまとめでは、道内で参院選の投票ができない選挙人名簿未登録の18、19歳は少なくとも10町の計283人に上るとのことです。
 公職選挙法は、選挙人名簿に登録される人について「当該市町村の区域内に住所を有する日本国民」と定めていますが、この場合の「住所」とは生活の本拠を指し、最高裁は1954年、帰省先でなく下宿などを住所と判示しました。
 総務省は今年4月、選挙権年齢の引き下げを受けて、都道府県選管に対し、選挙人名簿登録について適切に調査するよう通知したとのことで、この通知に従い、道内では複数の自治体が住民票などに基づき生活実態を調査し、実家の住所地に住民票を置いて他の自治体に移っていた学生らを登録しなかったというのです。
 
 しかしながら、生活実態の把握はプライバシーなど難しい面があり、調査をせず住民票の有無で選挙人名簿に登録する自治体も多く、住んでいる自治体によって対応が異なったために、結果として選挙権が「ある」と「ない」ほどの大きな違いが生じてしまったわけです。選挙権という主権者として最も重要な権利がこのような行政の扱いで奪われる結果になることは非常に大きな問題だといわざるを得ません。

しかも、総務省の(生活実態の調査を含む登録のための調査についての)通知が4月になって行われたことにも問題がある。なぜなら、公選法では、3カ月以上の居住期間がなければ転居先で選挙権を行使できないために、実態に合わせて住民票を移す必要があるなら、この3ヶ月期間を確保できるよう、もっと早い時期に通知されるべきだったわけです。生年月日は変動するものではないから、それは実現可能なことでした。

 今回のこの不平等な選挙権剥奪については、投票できなくなった18才の青年が、選挙権を得られるよう直接要望したが、同選管は応じなかったということです。
 総務相と中央選挙管理会委員長宛てにも「高校生は大学生とは違って生活の基盤は実家にある」と主張し、住所は生活の本拠である下宿とした1954年の最高裁判例に当てはまらない、自治体によって選挙人名簿登録の判断が分かれている状況を批判し「その差を無くして新しく基準を定めてほしい」との要望が送られているということです。
 おもうに、1954年の頃は交通手段も情報流通のシステムも今とは格段に違い、たしかに生活実態のない場所のことは知ることが非常に困難だったわけです。ところが、今日では、居ながらにして遠くの事情もわかるようになりました。生活実態で選挙権を奪うほどの不都合はないはずで、判例変更が必要なのではないでしょうか。

 ところで、このことは、同じように地元から離れて暮らしながら、政治家の1票は認められ、若者は認められないという不平等も生じています。一年の多くを東京で暮らす地方選出の国会議員は地元で投票ができているのです。
 学生は、親元下欄経済的支援を受けており、かなり密接に実家のある場所に生活実態があると言えます.また学生は生活歴が短い分、多くの場合子ども時代を過ごした故郷には、友だちなどとの結びつきも強く、むしろ、政治家などよりも生活実態はあると言えるのではないでしょうか。
いずれにせよ、大人の不手際で若者の新しく獲得した選挙権を奪った過失は非常に大きな者があり、憲法問題にもなりかねないと思います。
 


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