杉浦 ひとみの瞳

弁護士杉浦ひとみの視点から、出会った人やできごとについて、感じたままに。

・除斥を適用しない初の判例~ 足立区教諭殺人事件

2008-02-01 20:26:35 | Weblog
東京都足立区立小学校で1978年、女性教諭(当時29)を殺害して遺体を自宅に26年間隠し、殺人罪の時効成立後に自首した同小の元警備員の男(71)は、刑事事件では時効によって刑責を問われませんでした。

でも、民事裁判(損害賠償を求める裁判)では、東京高裁が除斥(一定期間の経過により責任を問えなくなる法理)を認めず、犯人の元警備員に対して、損害賠償を認める判決を出しました。

理由は
「加害者が賠償義務を免れる結果になるのは著しく正義、公平の理念に反する」というものでした。国民感情に合致する裁判だという気がします。

この事件は、はじめてニュースになったときにも、とてもひどい事件で、これで何の責任も問われなくなるなんて許せない、巧妙に隠せば隠すほど、つまり悪性が高く狡猾になるほど罰されないということが許せない、と思いました。
他方被害者の遺族はこれまで為すすべがなかったのに、真実がわかった落胆と共に法的な責任は問えません、タイムアップです、というのはあまりに非情なことだと感じました。納得のできないところでした。

でも、この正義に反するという理由で除斥を排除するという解決方法をは、裁判所は(国は、と読み替えてしまうのは裁判所不信の現れでしょうか・・・)とらないだろうと思ってきました。
なぜなら、このような解釈をすれば、これまで戦前の被害を受けた人たちが、その悲惨さは裁判所に認められながらも、「除斥」で国の責任を認めてこない考え方を変えなければならないからです。

この高裁の判断は英断ですが、その波及効果は大きなもので、今後このことの影響がどのようにでてくるのか、あるいは、上告して、あっさりこの正義は覆されるのか。法的には大きな問題です。

<西日本新聞から>
 東京都足立区立小学校で1978年、教諭石川千佳子さん=当時(29)=を殺害して遺体を自宅に26年間隠し、殺人罪の時効成立後に自首した同小の元警備員の男(71)=千葉県在住=に遺族が約1億8000万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決で、東京高裁は31日、330万円の支払いを命じた一審判決を変更、約4200万円の賠償を命じた。

 賠償請求権が20年の除斥期間(権利の存続期間)の経過で消滅したかどうかが争点で、青柳馨裁判長は「加害者が賠償義務を免れる結果になるのは著しく正義、公平の理念に反する」と指摘。除斥期間の適用を認めなかった。

 遺族側弁護士によると、犯罪被害者らが加害者側に賠償を求めた訴訟で、除斥期間を適用しない判決は初めて。被害救済を求める同種訴訟に影響を与えそうだ。

 判決は殺害日からの利息支払いも命じており、実質的な支払額は計1億円を超えるという。

 判決によると、男は78年8月、学校内で石川さんを殺害し、遺体を足立区内の自宅床下に埋め、住み続けた。区画整理事業で立ち退きを迫られたため、2004年8月に自首したが、公訴時効(15年)の成立で起訴されなかった。

 青柳裁判長は、男の遺体隠しによって遺族が石川さんの死亡を知らず、賠償を請求できなかった事情を重視。「財産相続で相続人を確定できない場合、相続人保護の観点から賠償請求権は消滅しない」という民法の考え方を挙げ、男に賠償責任があると結論付けた。

 東京地裁判決は、殺害行為に対する賠償請求を退ける一方、故人を弔う権利が奪われた遺族への慰謝料支払いを命じたが、高裁は逆にこの慰謝料支払いを認めなかった。

=2008/02/01付 西日本新聞朝刊=
2008年02月01日12時32分



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1 コメント

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知らないうちに時効では (ken)
2008-02-02 10:22:25
 被害について知らないとか、訴えられないうちに時効が成立、とする方がおかしな話なので、わかった時点を時効の起算点にするのは当然だと思います。
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