杉浦 ひとみの瞳

弁護士杉浦ひとみの視点から、出会った人やできごとについて、感じたままに。

・非行少年の更生のための「ブートキャンプ」の成果について

2007-10-11 02:18:46 | Weblog
先回、
10月7日夕方のNHKニュースで、アメリカカリフォルニアで、非行少年の更生のために、軍隊式トレーニング(ブートキャンプ)を取り入れているという報道のあったことを記事にしました。

これについて、以下のような現地での状況や研究成果を知ることができましたので報告しておきます。


まず、この報道について、ある刑事法の研究者の方から
「少年に対するブートキャンプは、10年以上前にアメリカのニュージャージー(と記憶しています)で見学をしたことがあります。少年院処遇の変わりに、規律や処遇が厳しいブートキャンプを自分の意思で選択をすると、社会復帰が早まるというものでした。宿舎は拘禁施設ではなく、開放施設ですが人里はなれたところにあり、車がなければ逃げ出すことなどできない森の中にありました。

食堂でもまったく機械的な動作で食堂に入ってきて、食事の皿やトレイを受け取り、食事をして、終わったら返却をしていました。日本の少年院や刑務所でも軍隊式が横行していますが、ブートキャンプはそれに輪をかけたものでした。
ブートキャンプは、もともと新兵の訓練キャンプを意味するようです。大人についても、行われています。処遇の性格としては、3S主義(ショック、シャープ、ショート)に依拠するもので、ドイツの「少年拘禁」と類似しますが、ブートキャンプでは少年の選択にかかる点がちがうところです。」
という紹介と
「社会に復帰すると、きっとリバウンドで、叩き込まれた規律も融解してしまうのではないでしょうか。」
というコメントをいただきました。


これに対して、私が
「やはり、気持から身についてないものは抑止効果にはならないのではないかと考えてしまいますが、でも、10年以上前のプログラムが、現在また紹介されているということは、成果があるというデータがあるのでしょうか。」
と疑問を投げかけましたところ


「ブートキャンプに関しては英語の文献はたくさん出ています。
効果に関しては議論が分かれるところですが、最近は問題視されるようになっていて、カリフォルニアの例はなんだか時代錯誤的です。
州によってはあまりに問題が多発するので(死亡して少年院が訴えられたりもしている)廃止しているところも出てきています。
ただ、厳罰傾向の強いアメリカでは90年代にbootcamp型の施設が広がってしまったのでその余波が残っていることは確かです。
 先日もフロリダのブートキャンプで14歳の少年が死に、7人の教官とナースが殺人罪に問われており、裁判のまっただなかでした。
http://www.iamforkids.org/newsdata/view_ind/3925
こういったケースが後をたたず、子どもの権利擁護・福祉団体の多くが、ブートキャンプに反対しています。

米国からの断片的かつ偏った情報のみを受け売りしている場合もありますので、
日本での情報には気をつけてください。」
という、刑事法やメディアにも明るい研究者の方からのコメントをいただきました。


さらに、別の研究者の方から
「一昨年(2005年)の国際犯罪学会議で、キャンベル共同計画(社会科学における実証的研究の評価を行なう国際的プロジェクト)の報告の中で、再犯防止という観点からは、「処遇効果がない(信頼できる実証研究によって有意差は証明できなかった。)」との報告がなされていました。
ショック療法では、少年院の子どもたちに終身刑受刑者が「オレのようになってはいけない」とお説教をするプログラムが紹介されたことがありますが、当初は評判がよかったのですが、長期的にはむしろ有害であるという報告がなされています。「脅かす」や「仕込む」という強硬路線は、短期的には効果があるように見えますが、「怯え」や「恐怖」の体験は、トラウマにはなっても、犯罪抑止にはつながらない、というのが共通した認識ではないでしょうか。スパルタではなく、デモクラシーと自己決定を重んじる処遇が、生き残ってきた理由もそこにあるのかもしれません。」
という研究結果についての情報とともに

「ブート・キャンプは、退役軍人の雇用対策としては有効かもしれません。」
という軽口も添えられていました。


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