杉浦 ひとみの瞳

弁護士杉浦ひとみの視点から、出会った人やできごとについて、感じたままに。

・子どもは脳死後も生きている ~ 子どもの脳死臓器移植法案は慎重に!

2007-10-13 08:41:02 | Weblog
脳死状態と診断された後に、1ヶ月以上心停止に至らない「長期脳死」の子どもが全国に少なくとも60人いることが、全国約500病院を対象都市アーク毎日新聞の調査で分かった、ということです。

以前に
  脳死臓器移植法案~6歳でも親の同意でOK?
http://blog.goo.ne.jp/okunagairi_2007/e/00731f2d6851e011badcca198de83087
というエントリーでも書いたのですが
子どもの臓器移植の需要に応じるために、国内でも子どもの脳死による臓器移植を認めようという動きがあり、国会には法案が提出されています。

脳死が臓器移植を認める関係では人の死と認められることになっています。
つまり、私たち(脳死患者側に当たる者)には、「脳死だから死亡も同じ」というニュアンスで医師から説明されるわけです。
でも、脳死は死亡とは違う、と考えた方がいいのではないか、というのがこの記事の主旨です。

この前提がもし違えば、脳死に至った子どもの親の判断は全然違うでしょう。

脳死と診断されて7年、脳死後も心停止状態に至っていない男児を持つ母親が「元に戻るとは思わない。でも、この子は死んでなんかいない。」と語っています。

自分の子が、臓器移植を受ければ助かるというときに、藁にもすがりたい親の気持ちも分かります
でも、自分の子を本当に絶命させるかどうかの判断に最も重要なこの「脳死」の扱いには、もっと慎重になってほしいです。
「あのとき、脳死だからといわれ臓器移植を了承していなければ子どもはもっと生きられたのに」と親が悔やみきれない思いを持つことにならないように、この分野は、もういちど、医学界から検討し直してほしいです。

そして、子どもの脳死による臓器移植を進める方向での法案の成立は、くれぐれも焦ることのないようにしてほしいです。



<毎日新聞10月12日>

長期脳死児:診断後1カ月以上60人 全国病院調査
 脳死状態と診断された後、1カ月以上心停止に至らない「長期脳死」の子どもが全国に少なくとも60人いることが、全国約500病院を対象にした毎日新聞の調査で分かった。長期脳死児がこれほど多数に上ることが明らかになるのは初めて。臓器移植法は15歳未満の子どもからの臓器提供を認めていないが、年齢制限を撤廃する法改正案も国会に提出されており、議論を呼びそうだ。

 調査は今年8~10月、日本小児科学会が専門医研修施設に指定する計522施設を対象に実施。医師が脳死状態と診断後、医療やケアを提供中の長期脳死児(診断時満15歳未満)の有無などを尋ね、272施設(52.1%)から回答を得た。

 その結果、診断から1カ月以上経過しても心停止に至らない患者は39病院の60人で、うち14人は在宅療養中だった。年齢は2カ月~15歳7カ月で、診断後の期間の最長は10年5カ月だった。

 このうち、25病院の31人は、法的脳死判定基準か、旧厚生省研究班が00年にまとめた小児脳死判定基準の無呼吸テストを除く全項目を満たしていた。臓器提供をしない場合は必要ないため、他の患者は全項目の判定はしていないが、主治医が脳死とみられると判断した患者だった。

 臓器提供を前提に、小児脳死判定基準が妥当だと思うかとの問いには、回答した医師270人のうち42%が「分からない」とした。理由は「長期脳死児を『死者』として受け入れることは、家族だけでなく医療者側も難しい。移植の道を閉ざすことはできないが、一定の配慮が必要」など。「妥当でない」は17%、「妥当」は12%だった。

 法的基準を作った際の調査では、子どもの場合、脳死から10日程度で心停止に至るとされた。だが、小児の基準を検討した旧厚生省研究班の調査は、87年4月からの12年間に長期脳死児が25例いたことを報告。日本小児科学会の04年の調査でも18例が報告された。子どもの脳は障害に強いとされるが、原因の究明などは進んでいない。

 法改正に関しては(1)脳死を一律に人の死とし、提供年齢制限を撤廃、家族同意のみで提供可能にする(2)提供可能年齢を12歳以上に引き下げる--の2案が出されている。

 同学会の調査を担当した小児神経科医の杉本健郎・びわこ学園医療福祉センター統括施設長は「これまでの調査よりかなり多い結果だ。臓器提供を否定はしないが、脳死診断後も長く心停止に至らない子どもが多数いることを厳粛に受け止め、単なる『死』と片付けずにオープンな議論をすべきだ」と話している。【臓器移植取材班】

 【ことば】◇脳死◇ 脳の全機能が失われ、二度と回復しな状態。臓器移植法は臓器提供をする場合に限り、脳死を「人の死」とする。法的脳死判定基準(対象6歳以上)は、(1)深い昏睡(こんすい)(2)瞳孔が開いたまま(3)脳幹反射の消失(4)平坦(へいたん)脳波(5)自発呼吸の消失--の5項目について、6時間以上の間隔で2回判定することを求める。6歳未満については旧厚生省研究班が00年、2回の判定間隔を24時間以上とする基準をまとめている。


毎日新聞 2007年10月12日 3時00分


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4 コメント

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移植以外の治療法開発も (ken)
2007-10-13 10:17:57
 臓器移植法ができても、脳死者が不足して、助かるのは該当者のごく一部だけだとか。移植以外の治療法の研究に力を入れた方が、多くの人が助かるようになるのではないでしょうか。
 条件の合う誰かが不慮の死を遂げないとあなたは助からない、と告げられた患者は、複雑な気持ちだろうなと思います。

 開業医の子どもなど、金持ちしか医者にはなれない、と言われています。医学部の学費を安くしたり、研修医の負担を軽くしたりなど、意欲を持つ優秀な人を、お金がなくても医者になれるような制度にすべきです。
 医者の研究職は収入が低くて、開業医との格差が大きいという話も聞きます。こうしたことの改善も必要です。
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経済格差は命にまで・・・ (杉浦ひとみ)
2007-10-13 13:12:46
kenさんのおっしゃるとおりですね。
子どもが移植さえできれば生きられる、と聞いたときの親の気持ちは何とも切ないです。
また、暖かい体の子どもといるだけでもいい、という親の気持ちもいたいほど分かります。

この判断の一線が、邪な医学判断に左右されないこと、ましてや、それがお金のあるなしで動かされることのないように、私たちは気をつけていきたいです。

移植以外の方法は何とか研究してほしいですね。

ちなみに司法試験は、制度が変わり、お金のある子どもたちが資格を取るに明らかに有利になりました。苦学して、自分の努力だけで合格することはできなくなりました。
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臓器は部品ですか (志村建世)
2007-10-13 14:05:30
臓器移植ということに、どうも素直になれません。人間は各種臓器の集合体なのでしょうか。中古車の「共食い修理」のように、使える部品を寄せ集めれば、新しい人間が作れるのでしょうか。
 さまざまな便利な補助具を使うのはわかりますが、生体の臓器の移植は、技術として可能であっても、邪道のような気がしてなりません。
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大学は無料に (ken)
2007-10-13 23:08:59
 お金を貯めておいて、老後は法科大学院に行って司法試験に挑戦しようかな、なんて半分本気で考えていますが、、、、 そんなんではしょうがないですね。
 入学試験はしっかりした上で、法科大学院は無料にすべきだと思います。医学部も無料にして、優秀な人材を集めるべきです。
 国の根幹をになう医者や法曹が、金持ちの子弟しかなれないなんておかしいです。
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