杉浦 ひとみの瞳

弁護士杉浦ひとみの視点から、出会った人やできごとについて、感じたままに。

・海上自衛隊の「はなむけ」と角界の「かわいがり」比較

2008-10-13 09:13:50 | いじめ
 08年9月に、海上自衛隊の特殊部隊「特別警備隊」の隊員を養成する第1術科学校(広島県江田島市)の特別警備課程で、同課程を中途でやめ、潜水艦部隊への異動を控えた25才の男性(3等海曹)に対して、ひとりで隊員15人相手の格闘訓練をさせられ、頭を強打して約2週間後に死亡していたことが10月12日に発覚したというニュースを聞きました。

 教官らはこの男性の遺族に「(異動の)はなむけのつもりだった」と説明しているということですが、同課程をやめる隊員に対し、訓練名目での集団暴行が常態化していた疑いがある、という報道になっています。

相撲部屋では「かわいがり」、海上自衛隊では「はなむけ」!

 でも、この角界の事件と本件では大きな違いがあります。
 もともと相撲の世界は、相撲という行為自体が刑法上の「暴行」すなわち人に対する有形力の行使にあたり、刑法204条の「暴行罪にあたる外形を持っているのですが、これが社会通念上認められたスポーツであることからその違法性がなくなり(阻却される)、刑事裁判によって罰されたりはしないわけです。
 「かわいがり」の場合は、もともと相撲の世界自体が、練習においても本番においても、相互の有形力の行使が行われる世界であるために、それが違法に及ぶか相当な範囲での稽古なのかの判別がむずかしいところがあります。まして、歴史のある相撲界という社会の中で、特殊な指導方法が伝統として存在しているとすれば、それはその社会の独自性として尊重をしなければならない可能性があります(部分社会の法理)。
 それでも、この件は社会的に大きな問題になり、今回は刑事裁判になっています。

これに対して、海上自衛隊は、その隊員間で相互に暴行を加えあうということが許されてはいない社会です。したがって、原則としてその中での暴行は刑法違反です。また、合意での暴行行為(たとえばレスリングごっこやジャンケンシッペとか、)も違法にはなりませんが、1人対15人の格闘が合意の上でのこととは到底おもえません。もし、これを被害者がNOといっていなかったとすれば、やはり、このような行為が日常化していたものと考えざるを得ないでしょう。

 今回の事件は、角界でのかわいがり以上に厳重な刑事手続きに乗せられる必要があると思います。「かわいがり事件」も現在裁判中です。「はなむけ事件」も同様に扱われていくべきです。

 ところで、私は、この海上自衛隊の中での暴行の問題は、さらに角界の件とは別の大きな問題があると思います。それは、自衛隊がもともと物理的な力を携えることが法で許容されている集団だからです。そして、その力は隊内部で相互に使われるのではなく、第三者に対して行使されることが想定されているからです。
 力を行使することが法的に認められる立場にある者が、力の使い方についての違法・適法の判断力が養われていない場合、非常に危険なことになります。

 ですから、角界での問題以上に、今回の問題は厳しい社会の批判と、刑事手続きを経る必要があると考えるのです。
「かわいがり」であれほど報道をしたマスコミは、今回の「はなむけ」でも、被害者遺族の話を聞く、過去に同じ被害者がいなかったかどうか調べる、などマスコミの取材力を駆使して、少なくとも「かわいがり事件」同様の報道は国民に提供しなければならないはずです。



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27 コメント

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真に氷山の一角である青年の死 (阿修羅)
2008-10-13 20:43:05
まずはご家族に対して哀悼の意を表します。

息子が亡くなられた方とおそらく同じ海自の幹部候補生の同期です。
息子は大学を中退して、幹部候補生の試験を受け入隊しました。大学を卒業してからでも遅くないと言いましたが、親の説得を聞かずに入隊してしまいました。
教育隊にて6ヶ月の基礎訓練を受け適正試験により選別され専門訓練を受けるために、訓練地に転属なりましたが、その課程の中で虐めに遭い環境障害に陥りました。その後、他所に配属なりましたが、適応出来ず、自宅に戻り心療内科に入院し現在も社会復帰出来ないまま通院しながら自宅療養を続けています。
長期欠勤のため3曹の階級は剥奪されてしまいました。
書記官に労災適用を求めましたが、現在も回答を得る事が出来ずにいます。
彼らの考えはよく分かっています。適用要件である職務拘束性や起因性はあると言うことが分かっていても、虐めに起因すると言うことは認めたくないので、時効の2年が経過するのをおそらく待っているのでしょう。
とにかく自衛隊という組織は隠します。
本当は虐めが日常的に行われているのに。
国家は志を持って入隊した隊員を見殺しにしているのです。
隊員を育成するのではなく、ついて来れないからと言って
精神的に虐めます。
肉体的に虐めます。
本当のことは表に出ていないのです。
もし事件があっても
とにかく訓練中の事故だと言って家族を丸め込みます。
何処まで真実が公開されるかは分かりません。
幕僚が開示すると言っていましたが、まず開示されることはないでしょう。
虐めで自殺する若者が何人もいます。
若者だけではなく、以前には幹部も隊内での虐めで自殺していました。
組織体質は旧日本軍と全く変わりません。
近代的な軍隊(あえてそう表現します)組織とはかけ離れています。
この組織の実態が一度大きな問題として公表されないと、あまりにも国民はその何たるかを知りません。

息子は除隊する意思は告げていますが、通院による治療の日々を送っており、医療費の問題があるためまだ在籍中ですので、部隊名等の固有名詞の表現はあえて控えさせてもらいました。
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阿修羅様へ ()
2008-10-14 00:28:29
前途洋々の息子さんをそのような形でつらい現実におかなければならなくなってしまわれた親御さんのお気持ち、いかばかりかとお察しします。
最近、中からの声が少しずつ挙がってきていますが、このような集団があっていいはずはありません。
ともすると、自衛隊vs護憲派的な構図になりがちですが、自衛隊内部で人権が守られないような状況にあるなら、それ以前の問題です。
急を要することですね。

息子さんの一日も早いご回復をお祈り致します。
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「はなむけ」についての思い出話 (鉄甲機)
2008-10-14 00:44:57
 高校時代、私は柔道部に所属していたんですが、万年補欠で黒帯も全然取れないし、受験のこともあるので二年の秋に退部届を出しました。その時、最後の練習でやったのが部員全員との連続乱取りです。一時間以上、十数人と連続して乱取りをすると最後にはもう体が動かない。手も足も他人のもののようで投げられっぱなし。息も絶え絶えで受け身をするのがやっとの状態でした。
 やっとのことで終わった後に部長先生は、「お前は確かに柔道では強くなれなかったが、この練習を最後までやり遂げた根性があるんだから、自信を持って頑張れ。」と仰ってくださいました。
 以上、まだ根性論華やかし頃のでき事でした。

 今回のこの事件。自衛隊が合法的に暴力行為を行う団体であること、また現実に人を死なせてしまったことから、訓練の過程に問題がなかったのか。また、マスコミが危惧しているような(or国民に刷込もうと思っているような)制裁・見せしめの意味がなかったのか、徹底的に調査してほしいと思います。
 内部調査になるでしょうが、マスコミの期待するような結果は出なかった場合には、いつもの偏見による印象操作ではなく、しっかりした取材による報道を期待したいですね。
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あれは集団暴行以外の何者でもない ()
2008-10-14 20:03:12
空手を高校時代にかじり今も稽古をしております。
私たちも稽古では何人もの相手と続けて自由組み手という格闘稽古をします。

海自の徒手格闘訓練なるものを一昨日のNHKニュースでチラッと見せてくれましたが、あのフルコンタクトの訓練を15人もの相手を一人ずつ50秒ずつやったとはそれ自体馬鹿げており、あれで死なないほうがおかしいでしょう。リンチ以外の何者でもありません。

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第1術課特殊部隊のおかしさ (阿修羅)
2008-10-14 23:40:56
お気遣い頂き恐縮いたします。

亡くなられた青年のご両親は、今のところ沈黙を守っておられますが、
どれほどか悔しい思いをしておられるかと思うと複雑な気持ちになります。彼も除隊意思を示していた故のあの仕打ちだったのですから・・。
幹部候補生ですから、その大半は大卒なのです。
大学を卒業し、採用試験の難関を通過して入隊した結果、実態を見て絶望し除隊を決意したのでしょう。
一人の若者の将来を狂わせた海自の実態を私は憎みます。

それにしても第一術課で訓練を受けていた特殊部隊ですが、他国の不審船等の侵略に備える特殊部隊とニュースでは説明されていましたが、実際には海自は対応出来ません。
現在対応するのは海上保安庁なのです。
北朝の工作船が進入してきた時、海自の船が追跡していましたか?
していませんでしたよね。
海自は内閣の命令がなければ動けないのです。
なのにどうして軍事訓練をしているのでしょう。
しかも、彼らは潜水艦に搭乗する特殊部隊なのです。
今海域を制するのは原子力潜水艦と言われています。
原子力潜水艦は敵に察知されずに敵国に侵入する事が可能です。その艦に搭乗する特殊部隊とは何なのでしょう。他国の不審船等の侵略に備えるのが目的とは到底思えません。敵国侵入と特殊工作が目的で、自衛のための部隊とは思えません。

それよりも我が国を守るべき自衛隊という組織の実態について、私達はあまりにも無関心で来たために知らされずにいます。
自衛隊の中で隊員が洗面器を買わされますが、その洗面器が2千円もします。
隊員の日常品まで独占販売です。
意外に知られていない業者との癒着構造は、他にもいっぱいあります。おおよそコンプライアンスとはほど遠い組織です。

国防を本当に考えるなら、今の自衛隊がどの様な組織か真剣に考えるべきです。
もっと国防に対しても、その自衛組織であるべき自衛隊という組織についても目を向けないと暴走してしまってからでは遅いと感じています。

しかし、今の自衛隊では、おそらくこの国は守れないでしょう。
その隊員の資質と組織そのものに問題があるからです。

追記させて頂きます。
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現場を知り、自衛隊を知ること ()
2008-10-15 08:51:48
拳さん、阿修羅さん、現場のお話しを聴かせてくださり本当にありがとうございます。
内部のことが分からない市民としては、先入観と鵜呑みと発表当局の(都合のよい?)報道とで、まったく真実に肉薄することができずに、結局、若い命や人生がを無念の思いでうち捨てられていくことに向き合うことができません。

でも、自分が、自分の家族がそのような事態に直面すれば、社会全体を呪いたいほどの思いですごさなければなりません。

また、阿修羅さんのおっしゃるとおり、自衛隊の中の問題は、市民個人の問題にとどまりません。
もっといろんなことを知らなければならないと思います。

真実を知ることから始まります。
どうぞ、今後も実情を教えてください
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マスメディアは踏ん張りどころです (news-workerⅡ)
2008-10-17 02:17:46
こんばんは。ブログ「ニュース・ワーカーⅡ」管理人の美浦と申します。杉浦さんの論考を拙ブログで紹介させていただきました。
「マスコミの取材力を駆使して、少なくとも『かわいがり事件』同様の報道は国民に提供しなければならないはず」とのご指摘は、まさにその通りだと感じています。
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おかしいですね (宇宙戦士バルディオス)
2008-10-17 20:49:21
>息子が亡くなられた方とおそらく同じ海自の幹部候補生の同期です。
>息子は大学を中退して、幹部候補生の試験を受け入隊しました。
>教育隊にて6ヶ月の基礎訓練を受け適正試験により選別され専門訓練を受けるために、訓練地に転属なりましたが、
>長期欠勤のため3曹の階級は剥奪されてしまいました。

http://www.mod.go.jp/pco/ehime/ctg_info/01_kanbukouhosei.htm
 リンク先とご主張を並べると、おかしなことだらけです。
 幹部候補生としての入隊であれば、入るのは教育隊ではなく、幹部候補生学校です。ここでの教育期間は6か月ではなく、1年間です。修了して部隊に行くと、階級は3曹ではなく、3尉です。
 あなた、嘘ついていませんか?

 それに、息子さんは病気療養で休暇を、何日使えました?
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Unknown (阿修羅)
2008-10-18 09:34:19
宇宙戦士バルディオスさんへ
大変失礼な書込に対して腹立たしさを感じて読ませてもらいました。
あなたこそ人を批判する前にもっと調べられた方がいいと思います。
息子は曹候補生として入隊しました。6ヶ月間教育隊の所属になりますが、その後専門課程を経て1年2ヶ月で3曹となる予定でした。自衛隊の省庁への昇格に伴い組織改編で、20年度募集から曹候補生制度は無くなりました。
幹部候補生と書いたことが誤解を生んだのかも知れませんが、あなたは自衛隊関係者の方なのですか。
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Unknown (阿修羅)
2008-10-18 10:49:39
先の記載に間違いがありました。
1年との記載は2年の間違いです。
半年教育隊にいて後半年は専門課程で後1年は隊で勤務し再び教育隊に戻り、三曹に任命されるそうです。
曹候はほとんど皆が約2年で三曹に昇進できるシステムです。今はなくなっています。
それにしても宇宙戦士バルディオスと言う人に嘘をついていると言われたことに腹が立って仕方がありません。
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