杉浦 ひとみの瞳

弁護士杉浦ひとみの視点から、出会った人やできごとについて、感じたままに。

・「プレカリアート」~不安定な労働をもたらす社会

2007-06-28 08:44:35 | Weblog

昨日、雨宮処凛さん、福島みずほさん、佐高信さんの集会に参加しました。
「ワーキングプアの反撃」出版記念トークセッションです。
その中でも繰り広げられた話でしたので、これまで考えてきたことなどを書いてみます。

最近「プレカリアート」という言葉を耳することがあるのですが、これは「不安定な」という意味のprecariousと「プロレタリアート」の合成語だといわれていて、最初落書きとして現れて、その後使われるようになったということです。
 具体的には
フリーターやパート・アルバイト、派遣社員・契約社員など、非正規労働に従事している人たちや失業者はこれに入りますし、そのほかの不安定な労働者が入りそうです(正規雇用であっても)。

昨今、「新自由主義」と呼ばれる経済の体制が、日本だけでなく、世界的規模で広がっています。
 つまり、技術の進歩からIT化や高度の機械化が進み、労働者が必要なくなってきている、国内で労働力にコストがかかるなら、海外に安い労働力を求めるようになり、労働力・労働者をありがたく思ったり、大切にしたりする必要はなくなってきます。
経営者は労働力を3つに分類し、差別化、分断しています。
(1)一部の正社員、
(2)専門技能を持つ層、
(3)使い捨てのパート・アルバイト
この3番目の分類の人数が莫大なわけです。
私は、同じ社会にすむ人間であるのに、このような構造の中で、その価値に軽重がつけられるような考え方が許せない、特に国民から依頼されて権力の行使に携わる政治家がそう考えることが許せないのです。

このような構造は、弊害を生みます。
今の日本社会では、一度正規雇用の枠から脱落してしまうと、もう元には戻れない、という、切実な不安や恐怖感があるわけですが、この経済的不安定は、精神面に影響を与え、精神疾患を患うかたを生み出してしまう。そして、厖大な数の中高年の自殺者を生み出す背景になっています。

ところで、不思議なことなのですが
例えば近年では、フリーターなど現状の犠牲者であるはずの人たちが、なぜか、現政権を熱狂的に支持するといった現象が目立つようになっているといわれ、例えば、自民党が大勝した2005年9月の総選挙ではフリーターたちが大勢、与党に投票した、とも言われています。

この状態から、何とか脱却しないと国自体がしばらく眠り込んでしまうのではないか、そのことに危機感を感じます。虐げられた状態にあまり居続けると、人間は戦う意欲を失ってしまうという現象は、人間の中に起こることは、たとえばドメスティックバイオレンスの被害者(逃げ出すはずと思われる被害者が逃げない)などを見て現実に感じるところです。

ムシロ旗を掲げて一揆を起こそう!

一揆の起こし方と一揆にたくさんのひとが加わるための作戦、それを捜してみよう、考えてみようと思います。

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9 コメント

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そう単純なものでもない (宇宙戦士バルディオス)
2007-06-28 21:11:32
>つまり、技術の進歩からIT化や高度の機械化が
>進み、労働者が必要なくなってきている、国内で
>労働力にコストがかかるなら、海外に安い労働力
>を求めるようになり、労働力・労働者をありがた
>く思ったり、大切にしたりする必要はなくなって
>きます。

 いわゆるワーキングプアといわれる層が存在するのは否定しませんが、一方で景気回復に伴い正社員の求人が増加しているのも現実です。また、IT技術や看護のようなまだまだ人手不足で、外国人の受け入れを求める声も少なくない。労働力は、不足しているところも少なくないのですよ。
 何故こんなミスマッチが発生しているかというと、人はいても「人材」ではないからですよね。ろくな勉強をしないで、マニュアル一つ読めない、いやそれ以前に挨拶一つ満足にできないフリーターなんか、お呼びじゃないわけです。それは、ワーキングプアを取り上げる番組を作ったNHKが、絶対にワーキングプアを対象とする特別な採用枠を設けないことでも良く分ります。格差社会を攻撃材料にする民主党も、党職員に採用してやろうとは考えないでしょう。
 私の世代は、義務教育を終えれば、例えば英語でも一応の意思疎通ができる程度になりました(嘘ではなく、本当に)。しかし、「ゆとり教育」のお陰で漢字が読めない、計算はできないでは、どんな分野でも「人材」にならないのは当たり前です。文科省、そして子供のことはそっちのけで政治運動に血眼になっていた教師(とその組合)の責任は重大です。
 介護や看護なんか、ある程度待遇が良くなるように行政が努力する必要もあるでしょうが、基本は「天は自ら助くる者を助ける」でいいでしょう。それとも、一揆でボリシェビキ革命を起こしますか?労働市場に命令して、うまく行った例はないのですが。
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プレカリアート側の問題 (杉浦ひとみ)
2007-06-29 09:27:16
宇宙戦士バルディオスさま

「何故こんなミスマッチが発生しているかというと、人はいても「人材」ではないからですよね。ろくな勉強をしないで、マニュアル一つ読めない、いやそれ以前に挨拶一つ満足にできないフリーターなんか、お呼びじゃないわけです。」

たしかに働く側の能力や努力の問題を、まったく否定するつもりはありません。
ただ、このような問題があるときにどこから考えるかのヒントとして、私は、子どものいじめの問題を考えます。

・いじめの問題を考えるときに、第1段階として
いじめに対して
「いじめられる側にも落ち度があった」という取り組み方はしません。

それは、どういう原因にしてもいじめはいけない、ということからはじめないと、苛めという陰湿な非人間的な行為を許す結果になりかねないからです。

これとパラレルに考えることができるのではないかと思っているのです。

働く側に努力など至らないことがあるかも知れないが、だからといって派遣をいろんな業種に認めたり、働く者を不安定な立場に置くことを認めている法制にまず、問題がある。

そのあとで、ただし働く側も努力する余地はある、という展開をするのが順序ではないかと思います。

原因は、突き詰めれば先の見えない労働環境の中で、やる気を失う、という言い分もあると思われ、それは卵と鶏の関係になります。

まずは、制度を改めることではないか、とそう思っています。

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そう単純なものでもない (通りすがりの若者)
2007-06-29 13:31:54
宇宙戦士バルディオスさんに応答したいと思った、通りすがり若者です。

>いわゆるワーキングプアといわれる層が
>存在するのは否定しませんが、
>一方で景気回復に伴い正社員の求人が
>増加しているのも現実です。

たしかにいわゆる「景気回復」によって正社員の求人は増加しています。しかしまさに、その正社員こそ、長時間・低賃金労働、サービス残業、休日出勤など、まさに「ワーキングプア」と化しているのが現実です。
いくらがんばっても「幸せ」になれない、こんな社会じゃ希望は持てません。


>ろくな勉強をしないで、マニュアル一つ読めない、
>いやそれ以前に挨拶一つ満足にできない
>フリーターなんか、お呼びじゃないわけです。

今、フリーターの多くは、サービス産業に従事しています。電話対応のカスタマーセンターやファーストフード店など、マニュアルを徹底的に読まされ、過剰なまでに挨拶しています。
それもすべて「顧客満足」のためです。マニュアルを読みまくり、挨拶をしまくってくれるフリーターは、いろんなサービス産業でお呼びがかかっています。お呼びはかかりますが、もちろん低賃金労働で使い捨ての労働者です。
特に30歳前後の団塊ジュニア世代(就職氷河期世代)には、いわゆる高学歴で、英語もしゃべれて、漢字も読めて、計算もできるフリーターが、ごろごろたくさんいます。

かつてのように、英語ができても、漢字が読めても、計算ができても、それだけでは「人材」になれない、それが今の現実です。
いくらがんばっても「人材」になれない、こんな社会じゃ希望は持てません。

>文科省、そして子供のことは
>そっちのけで政治運動に血眼に
>なっていた教師(とその組合)の
>責任は重大です。

イマドキの若者はだらしがない、学力が低下している、それは教師や組合の責任である、というよく耳にする単純な若者=教師=組合悪玉論だと思います。
教師や組合の責任が重大だとは思いません。むしろここ数年の「構造改革」によって、「格差」が極端になり、若者が希望をなくし、やる気をなくしてしまったのが原因だと思います。


>基本は
>「天は自ら助くる者を助ける」でいいでしょう。

「自助努力」(自己責任)という価値観がはたして日本に適しているのか。アメリカのように低負担・低福祉の国で誰にでも上昇のチャンスがある(と国民に思われている)国であれば、「自助努力」でいいのかもしれません。しかし今の日本のように、高負担・低福祉の国、社会のセーフティネットが破壊されている状況で「自助努力」を押し付けることは、更なる「格差」が生み、生きる希望がまったくもてない国になると思います。

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わたしの見聞と (宇宙戦士バルディオス)
2007-06-29 20:56:38
 かなり異なっております。
 本日、職場で読んだ日経ビジネスでは、派遣だらけになってプロがいなくなってしまった現状に、企業側が危機感を抱き、正社員の増加と社員教育のやり直しを始めたという記事が掲載されておりました。私も、少しは経営論、組織論を学んだ者として、被用者のモチベーションを度外視して、コストだけで捉えることはできないことを承知しております。そういう企業は、最終的に必ずしっぺ返しを喰らいます。
 で、
>長時間・低賃金労働、サービス残業、休日出勤など、まさに「ワーキングプア」と化しているのが現実です。

 まさに上記のような仕事を、私の父親は長年耐え忍んできました。で、正社員にそれが増えているという具体的な資料があるのでしょうか?昔に比べて増えているという資料が。
 私も学生時代は人並みにサービス産業でアルバイトしましたが、ろくにマニュアルを読まされた記憶はありません。殆どOJTでした。(命を預かる職場で、よくあんなことができたもんだ。)

>英語ができても、漢字が読めても、計算ができても、それだけでは「人材」になれない、それが今の現実です。

 要求される程度が違うということです。ファミレスのマニュアルくらい、私もバイトで読んだことがありますが、プロとして要求されるレベルではないですね。あれは、素人でも務まる内容しか書かれていません。
 以前、一流大学の英語教員から聞いた話ですが、今時の受験生は疑問文もろくに作れないと嘆いておりました。六大学の学生にして、疑問符を付ける事を忘れるとのことです。私の時代は、中学生でもあり得なかったことです。 
 団塊の世代の大量退職で、質量ともに人材不足に陥っている企業が多いとのことですが、何故仕事にあぶれたワーキングプアがそこにシフトしないのでしょうか。答えは明らかですよね。何故、高度な技術を身につけることのできるだけの学力・忍耐力が、彼らに欠けているからであり、学校で付けられなかったです。学校は学力だけではなく、嫌なことを我慢することを学ぶ場でもあるのです。

 格差は昔からありました。高度経済成長時代、貯蓄額ゼロの世帯の比率は、今日と同程度でした。昭和の頃、バイト先には今日のワーキングプアと殆ど変わらない人を少なからず見かけております。
 現在の日本が、高負担・低福祉と断じる理由はどこにあるでしょうか。数字でお示し願います。ヨーロッパの高い消費税率に比べれば、我が国は十分低負担でしょう。それに、元手の要らない社会保障はあり得ない以上、高福祉は必然的に勤労者の負担増につながり、決して良い結果を招きません。
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雇用する側から (中年男性)
2007-07-01 01:13:28
フリーターって、定職につかず、アルバイトをして収入を得ている人達ですよね?
雇用する側から言わせてもらうと、若く技術の習得の容易い時期をフリーターで安易に過ごして、妙に世間にすれたフリーターを雇用しろって言われても・・・それならフレッシュな新卒をとります。会社は慈善団体ではありません。
新卒者を採用することは、新卒者+従業員の運命を背負って決断する事なんです。
一度雇用されて、数ヶ月で止めていく若者も多数経験しましたが、止められる側も、それなりに痛いのです。
へらへらと笑いながら、「あそこ給料安いから辞めてやったお!」なんて言われると、正直な処「殴ってやりたい」気持ちになります。
確かに、人間関係で悩み、仕方なく離職していく若者もいました、これは集団生活する上で仕方のない事です。どうしても避けられないと考えます。

フリーターの問題、ぜひ雇用する側、される側の両面から考察してもらえると、大変うれしいです。
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手短に (まーく)
2007-07-01 01:16:38
バルディオスさんの意見は、社会を偏ってみた人に見られるステレオタイプな意見だと思いました。
本人は自分の意見だと思っていても、それは社会常識といわれる意見を言っているだけです。しかし、社会常識はあくまで社会常識であって現実とはギャップがあります。闇から闇に葬られている部分、社会常識にとって都合の悪い部分はすべてゆがめられていると思います。そして、そのゆがめられた部分は、誠実にあるがままに見る人格をもってのみ見ることができるものです。教師がすべて悪だとかいう社会常識は、教職員を敵視する思想傾向をもった集団から生み出されたものだということは、少しでも社会を誠実に見てきた人間なら誰でもわかることだと思いますが・・バルディオスさんは勧善懲悪のような見方をしていますね。
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中年男性様 (杉浦ひとみ)
2007-07-01 03:05:16
雇用の側からも見てほしい、というご意見よく分かります。
問題にしているのは、どちらも極端な例で
・一生懸命にやっているのに安く使われる労働者
・ちゃんと雇いたいのに無責任な労働者

少なくとも、どちらかの問題に絞って論じていかないとかみ合わないですね。

どこかで、一度エントリーを立てて論点を絞って考えないと、このままではもったいないですね。

どなたかのブログではじめてご案内いただくか、私のブログに「この問題提起で載せて」といってくだされば、00さん問題提起の論点として検討できますね。
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努力が報われる社会 (ken)
2007-07-01 10:36:21
 「努力が報われる社会」というのが、格差拡大容認派のスローガンです。これ自体は正しいのですが、現実は、ごく一部の人だけが報われて、大部分の人は収入を削られて一部の報われる人に回されてしまうのです。
 低賃金で頑張っている人たちは、「努力が報われていない」と感じているため、このスローガンに引かれてしまい、自分たちに利益をもたらさない政治家に投票して、結果的にますます低賃金が固定してしまう結果になってしまうのです。
 働いた分の給料がもらえる、というのがきちんと実現する社会であって欲しいです。どんな仕事も社会に必要があって存在しているのでしょう。同じような苦労をしても仕事や立場によって給料差別があるのはおかしいです。
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景気回復に伴って (宇宙戦士バルディオス)
2007-07-01 19:09:16
 製造業では技術系正社員の求人難が問題になっているようですね。しかし、いくら沢山いても、ワーキングプアやフリーターでは埋めることはできないでしょう。
 公教育を建て直し、私立でなくても高い教育を受けられるようにするという安倍政権の指針は、遠回りですが間違ってはおりません。

 大学院行政の失敗から、高学歴(博士)のニート、フリーターも量産されているそうですが、彼らに学者の道を諦めさせて、企業に入らせるようなフォローも、当面は必要だと思いますが。(文系は、余り使えないかも知れないが。私自身、文系の修士なので、ビジネスで使えないことは良く分っている)
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