大前研一のニュースのポイント

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東京で標準時間を2時間早めるのは、物理的に難しい

2013年05月31日 | ニュースの視点

東京都の猪瀬直樹知事は「日本の標準時間を2時間早める」という構想を発表した。22日の産業競争力会議で、無駄にしていた日照時間を有効活用でき、消費電力が抑制できること、明るい時間に仕事が終わり、アフターファイブ需要が生じるなどと利点を強調したとのことだ。

都知事として産業競争力会議で何かしらの提言をしようと試みた、という点では評価できるが、現実的には難しいと言わざるを得ない。

私は以前、北海道にサマータイムを導入することを提案したことがある。北海道の場合には、朝3時半くらいから明るくなってくるから、夏に限れば2時間ずれても問題はない。そして、その結果としてロシアと同じ時刻になるという大きなメリットを狙ったものだった。これは、シンガポールの狙いと同じだ。シンガポールが今の標準時を採用したのは、中国と合わせることで経済活動をスムーズに行いやすくするという意図があった。

また猪瀬都知事の提案するように東京で2時間標準時間を変更しても、金融機関が東京に集まってくるという保証はない。市場が成り立てばいいだけなので、必ずしも東京に金融機関が集まる必要はないからだ。そして、現実的に難しいのは「物理的な」理由も大きく影響する。冬の東京では、夕方6時にはすでにかなり暗くなっている。これが2時間ずれると夕方4時になるわけだ。朝は真っ暗闇の中通勤することになるだろう。こういうことを考えると、おそらく相当の反発が予想される。

猪瀬都知事の提案とは全く関係なく、私は1時間ほど標準時をずらす意味があると思っている。帰宅してもまだ明るいうちに2時間~3時間あれば、何かやりたいことをする時間にもなるだろう。また、かつて私が試算したときには、サマータイムを導入することで消費電力が15%程度少なくできると見積もりが出た。

しかし大きな反発があることを、私は身を持って体験しているので分かる。明るい時間帯でサラリーマンが家に帰るとなると、いわゆる夜の街で働く人たちから反対を受けた。また戦後の米軍が駐留している時にサマータイムを経験している年配の方からは、サマータイムは嫌だという感情的な反対も受けた。

猪瀬都知事の意気込みは感じるが、この問題は一筋縄ではいかないものだ。現実的に今回の提案が実現することは難しいだろう。

政府が地域を限って大胆な規制緩和や税制優遇を検討する新特区「国家戦略特区」に関する東京都の構想案が21日明らかになった。誘致した外国企業の法人実効税率を20%まで引き下げる目標を掲げ、海外の名門大学の誘致などで外国人向け教育や医療を充実させる狙いとのことだ。

法人税率を20%にすることで世界から日本へ誘致したいと言っても、世界にはアイルランド(12.5%)やシンガポール(17%)があるので、それほど効果はないと私は思う。もし本当に誘致を狙うのであれば、さらに法人税率を下げる必要があるだろう。

根本的な点を指摘すると、私はそもそも「外国企業」のみに適用するのではなく、「日本企業」にも適用するべきだと思っている。というのは、こんなことをしたら日本企業が本社を海外に移してしまうからだ。

ロシアは今回の「国家戦略特区」と同様に「外国企業」に対してのみ法人税の優遇がある。結果、ロシアはどうなったか?と言うと、キプロスに資金を持ちだして、キプロス経由で外国名義でロシアに投資をするようになりました。ロシアへの投資額が一番大きいのはキプロスだが、これはキプロス人ではなく、ロシア人がキプロス経由で投資しているのだ。

日本の場合に想定されるのは、シンガポールに会社を移して、シンガポール経由で「特区」の恩恵を受ける企業が続出することだ。せっかく特区などを作っても、結果としては日本企業の本社が外国に出て行くだけでおわりだ。これがグローバル企業の動きであり、今回の提案はこのような動きを全く知らない人が作ったとしか思えない。

 


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