大前研一のニュースのポイント

世界的な経営コンサルティング 大前研一氏が日本と世界のニュースを解説します。

米国の早期景気回復は幻/ボルガー・ルールから学べること

2010年08月03日 | ニュースの視点
FRBのバーナンキ議長は米国上院の公聴会で証言し、「米国経済の見通しは非常に不確実な状況になっている」と述べ、強い懸念を表明した。住宅市場の不振と雇用情勢の改善の遅れなどが主な理由ということで、追加の金融緩和策を検討する可能性も示唆した。

正直に言って今回のバーナンキ議長の発表は、とても見ていられないものだった。結論は「2番底」に陥ったということだが、それでは「米国の景気は明るい」という類のつい最近までの発言は一体何だったのか?

こうした状況を受けて、米国民の63%は「国が良い方向には向かっていない」と思っていて、国の将来性やオバマ大統領の方向性に対して疑問を感じているとのこと。そして今、米国が最も恐れていることは日本型の長期低迷に陥ることだ。リーマン・ショックからの想像以上に早い回復を思わせた米国だが、現実はそれほど甘くはなかった、というその実態が明らかになってきた。

そして今の米国経済にとって、もう1つの懸念材料は「中国依存」の体質だ。リーマン・ショック以降、様々な分野で中国への輸出が米国の経済を牽引してきた。中国バブルがはじけ中国経済に陰りが見え始めたとき、米国は大きな影響を受け、雇用はさらに悪化するだろう。今米国は何かと中国の頭を叩いているが、忘れてはならないのは「米国にとって一番良いお客さん」は中国だということだ。

FRBタルーロ理事は米国議会で21日に成立した金融規制改革法について、「多くの国が採用することはないだろう」と語り、この法に盛り込んだボルガー・ルールが米国特有の規制になることを示唆した。

ここには2つの問題点があると私は思う。まず1つには、米国のグローバルな投資銀行が規制を逃れるために欧州に本社を移してしまう、あるいは欧州に別会社を作ってしまうという可能性だ。国外でリスクテイキングできるとなれば、実質的にボルガー・ルールは「ザル法」になってしまう。

もう1つには、米国の金融機関が規制で身動きがとれないとなれば、欧州勢が攻勢に出る可能性があること。そうなれば米国側も黙ってはいないだろうから、お互いに非難し合う形になるだろう。

また今回のルールを見ていて、特徴的だと感じたのは「個人レベル」のことについても、クレジットカードの発行や使用法などについて、「消費者保護」の方向で相当に細かい事項が今度定められていくだろう。タルーロ理事は「他国が採用することはないだろう」という見解を示しているが、採用するかどうかは別として、少なくとも「研究」する価値は大いにあると思う。

かつて1929年の世界恐慌の後、米国ではグラス・スティーガル法が定められ、銀行と証券の分離が規定された。日本でもこれに倣い、1948年に証券取引法65条が定められた。

しかし規制は段階的に緩和されてしまい、現在では無効化されている。そして今回のような金融危機を再び招く事態になってしまった。リーマン・ショックの反省を活かすためには、「ボルガー・ルール+消費者保護・借り手保護」という考え方を世界の共通認識として持ち合わせるべきだと私は思う。


【今週の問題解決視点のポイント】

指数や指標をこの「流れ」を読み解き、本質をつかめ。「数字」に踊らされることなかれ。

1 コメント

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次の時代 (ライセンス)
2010-08-03 12:37:26
大前先生は規制緩和論者だと思っていましたが、金融には規制強化ですか。

新たなテクノロジーが生まれると、そこには必ず、バブルが発生します。

ITの発達に伴う、ITバブル。

金融工学の発達に伴う、金融バブル。

次の人類のイノベーションは?

環境、エネルギーでしょうか。

人類が今まで経験した事のないテクノロジーが生まれると、規制も何も無い状態ですから、行き着くところまで行ってしまいますよね。

そして、行き着くところまで行ってから、規制の度合いを、考えるというやり方。

途中で、(このあたりで止めておくか?)なんて言っても、誰も聞かないですからね。

環境バブルも必ず起こりますよ。

で、その後、規制強化。

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