大前研一のニュースのポイント

世界的な経営コンサルティング 大前研一氏が日本と世界のニュースを解説します。

新たな受け皿は、サラ金業者/新しい産業を起こすためには、規制撤廃と失業の山が前提

2013年03月15日 | ニュースの視点

政府・与党は7日、3月末で期限切れとなる中小企業金融円滑化法を
再延長しないことを決めた。

中小企業団体などはさらなる延長を求めていたが、安倍政権は再延長せず、中小企業の経営支援強化に軸足を移す考えとのことだ。

連立を組んでいる公明党は反対だったにも関わらず、自民党が「再延長しない」という決断をしたのは評価できると思う。

しかし残念ながら、本質的な問題は何一つ解決されていない。

数十万社ある中小企業金融円滑化法(モラトリアム法)適用企業
の中で、経営状態が特に危険視されている企業は5万社~6万社あると
言われている。

現在の倒産件数の推移を見ると、40件/月というペースだからだ。モラトリアム法を再延長しない場合、倒産件数は一気に増加することが予想される。

このとき厳しい状況に追い込まれるのは、信用金庫や信用組合だ。

不良債権比率を見ると、1%~2%の都市銀行に対して、
信用金庫や信用組合は5%~8%もある。

おそらく4月以降になると10%を超えてくると思う。

今金融庁が密かに考えていることは、この銀行が抱える不良債権を
別のどこかへ「飛ばして」しまうことだと思う。

まさに住専の時と同じ対応だ。

また、資金繰りに窮した中小企業の消費者金融「サラ金」への需要も高まると言われている。

法律改正によって景気が悪い消費者金融業界が、モラトリアム法の終了後、一気に活性化する見込みだ。

今、関連企業の株価が上昇している理由だ。

モラトリアム法の期限が切れると、参議院選挙前に一気に倒産企業が増加すると言われていたが、これによって「徐々に」倒産企業が増えるという流れになると思う。

このような対応をしたところで、結局のところ100兆円規模のお金を
正常化するためには、住専の対応と同様に最低でも10年近い年月が必要となる。

倒産企業数が5万社~6万社と想定される一方、日本では新しい企業や産業が出てきてないことが、根本的な問題として非常に重要だと私は思う。

政府の産業競争力会議は6日、産業の新陳代謝を促し、成長産業に人材を移す対策の議論を始めた。

民間議員が解雇ルールを法律で明確にするよう求めたのに対し、田村厚生労働相は、日本は解雇が容易な米国と雇用形態が異なるなどとして慎重な姿勢を示したとのことだ。

産業競争力会議は、起業家、経営者、学者などあまりに発想が異なる人が集まっているので意見がまとまるとは考えられない。

そして、自民党や役人の多くは基本的にTPPですら拒否する姿勢を示しているから、本気で「競争力のある産業を作ろう」と固く決意している人はいないのだと思う。

私としては、なぜ三木谷氏や新浪氏が協力しているのかと、疑問に感じてしまう。

政治家や役人が、競争力のある新しい産業を作ろうとしないのは当然なのだ。

というのは、新しい産業を起こすためには「規制撤廃」が必須だからだ。

悩ましいことに「規制撤廃」をすると、それまで規制に守られていた産業は確実に潰れる。

すなわち、新しい産業が生まれる前に、大量の失業が発生する。

その後、10年~15年経って、ようやく新しい産業が根付いてくるのだ。

今でこそ米国レーガン元大統領は偉大な大統領と言われているが、その評価を受けたのは、通信・金融・航空・運輸などの産業において規制撤廃を行い失業の山を生み出した当時から約15年経ってからだった。

日本に目を向けてみて、15年後の将来のために今目の前で失業者が溢れるような施策を、政治家や役人が選択できるだろうか?

産業競争力会議のメンバーに、それほど時間軸に対して許容力のある人はどれほどいるだろうか?

「規制撤廃をするなら、まず先に失業の手当てが必要」などと考えていては、絶対に上手くいかないだろう。

むしろ若者に自由を与えて、取り締まるのを控えるくらいが丁度良いと私は思う。

理想を言えば、そのような状況になって、かつてのスティーブ・ジョブズのような人材が
生まれてくれれば最高だ。

しかし今の日本の状況を見ると、規制撤廃を敢行し新しい産業を生み出すのは、まず不可能だ。

ゆえに以前から私は別の方法で景気を回復することを提唱しているのだ。

それが「心理経済学」だ。

新しい産業を生み出せないなら、今ある1500兆円の個人金融資産が市場に流れてくるような方法を考えるべきだろう。


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