大前研一のニュースのポイント

世界的な経営コンサルティング 大前研一氏が日本と世界のニュースを解説します。

サブプライムローン問題への対応は、場当たり的なものばかり

2008年02月05日 | ニュースの視点
金融庁は国内の金融機関を対象に、証券化商品の保有額や評価損益などの調査に着手した。

米国の信用力の低い個人向け住宅融資(サブプライムローン)問題の影響を把握する狙いとのことだ。

基本的な姿勢として、金融庁がサブプライムローンの把握に乗り出したことには反対ではないが、その実効性には疑問を感じざるを得ない。

なぜなら、サブプライムローン問題のリスクを正当に評価することは、世界の格付け機関ですら、未だにきちんと実行できておらず、日本の役人が一朝一夕で出来るものとは思えないからだ。

このような物言いをすると、金融危機に対して、日本の対応力だけが著しく低いという印象を与えてしまうかもしれないが、今回のサブプライムローン問題について言えば、特に日本だけがこの問題に対する対応力が低いというわけではない。

先日、米連邦準備理事会(FRB)は、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を緊急に0.75%引き下げることを決定した。

実施は即日という緊急対応の背景には、サブプライムローン問題を発端とする米景気の悪化や世界同時株安に歯止めをかけるためだと言われている。

しかし、実は、今回の世界同時株安の原因を作っていたのは、サブプライムローン問題ではないのではないかも知れないという可能性が浮上してきた。

それは、このニュースだ。

仏大手銀行ソシエテ・ジェネラルが49億ユーロ(約7600億円)にのぼる損害を計上した問題で仏警察当局は、同行の元トレーダーであるジェローム・ケルビエル氏を拘束し事情聴取をした。

同氏は2000年から同行に勤務し、ヨーロッパの株価指数先物などデリバティブ関連の取引に携わり、去年から今年のはじめにかけて不正取引を行った疑いがもたれている。

実は、今回の世界同時株安は、サブプライムローン問題ではなく、このデリバティブ取引に端を発しているのではないかという可能性も出てきたのだ。

それは、今回の世界同時株安に至った経緯を時系列で追ってみると非常によく分かる。

1月18日:ソシエテ・ジェネラル銀行内のリスク管理部門が株価指数先物に関連した不正な取引を発見

1月19日:ジェローム・ケルビエル氏が不正取引を行っていたことを認める。15億ユーロの損失が判明。

ソシエテは仏中銀へ事態を報告

1月21日:ソシエテが株式の持ち高を解消するために株の売却を開始。アジア・欧州株全面安。米は休場

1月22日:FRB、0.75%の緊急利下げを実施

1月23日:仏中銀、FRBに事態を報告

1月24日:ソシエテ、49億ユーロの損失計上。55億ユーロの増資決定

ここでのポイントは、1月22日にFRBが0.75%の緊急利下げを行った時点では、未だ仏中銀からの報告はなく、FRBはこのデリバティブ取引の不正事実を知らなかったということだ。

21日に行われたソシエテ・ジェネラル銀行による株式の大量売却により発生したアジア・欧州市場の下落という構図が見えていれば、FRBは今回のような緊急利下げは行わなかったのではないかと私は思う。

現状においては、政府であろうが、金融機関であろうが、サブプライムローン問題に関して、誰も正しく問題を把握することすらできていないと私は感じる。

それゆえ、解決手段を講じることができないのは当たり前だ。

このような現状を踏まえ、次回は、あらためてサブプライムローン問題の基本的な構造からその本質を紐解き、問題解決のためにはどのような手段をとるべきか、ということについて考えてみたい。

1 コメント

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Unknown (高3)
2008-02-09 09:39:32
続きが気になります
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