大前研一のニュースのポイント

世界的な経営コンサルティング 大前研一氏が日本と世界のニュースを解説します。

農業対策費に税金を投じるなら、成果を見せるべき/米国車が売れないのは、非関税障壁が理由ではない

2013年03月29日 | ニュースの視点

日経新聞は、24日「ウルグアイ・ラウンドではコメ部分開放、対策費6兆円超」と、題する記事を掲載した。1986~94年の関税貿易一般協定・多角的貿易交渉(ガット・ウルグアイ・ラウンド)の際、農業対策費では8年間に6兆円を超える予算が投じられたものの、農業の大幅な競争力強化にはつながらなかったと指摘。今回のTPP交渉参加に向けた対策について、自民党幹部は「具体的な事業の積み上げ方式を徹底し、バラマキを抑える」と強調していると紹介している。

私に言わせれば、農業・コメへの影響について日本は騒ぎ過ぎだと思う。発効1周年を迎えた米韓自由貿易協定(FTA)だが、韓国では関税引き下げの恩恵を受けた工業品の対米輸出が伸びる一方、懸念された輸入急増による国内農業への打撃は限定的だったとする統計を公表している。

韓国でも日本と似たような懸念が強くあったが、結局、国内農業への影響は大きくなかったのだ。日本でも、かつて市場開放されたピーナッツ、さくらんぼ、牛肉、オレンジなどを見ると全く同じだと分かる。千葉県のピーナッツ、山形県のさくらんぼなどは、米国から輸入品が入ってきて、むしろ値段が高くなったほどだ。

またコメについては、再びミニマム・アクセスを適用する可能性が高いだろうが、これは全く無駄なことだ。コメの国内生産量と消費量の推移を見ると、この50年間で日本人の消費量は約半分に減少している。高い関税を課して、見返りに食べもしないコメを輸入するとは馬鹿げていると思う。コメも市場開放してしまえば良いのだ。質の良いコメを求めて日本人は国内のコメを買い続けると思う。もちろん、そうではない部分には外国産のコメが入ってくると思うが、それはしょうがないことだ。

かつて農業対策費で6兆円も投じたのに、全く効果は見られなかった。私に言わせれば、お金が欲しいがゆえに騒ぎ立てていると感じる。今回、政府はTPPではバラマキを実施しないと言っているが、まず信用できない。今騒ぎ立てている人たちを黙らせるには、お金という解決策が最も簡単な手段だと自民党は考えていると思う。

一般国民からすると、税金を使うなと声を大にして主張したいところだ。税金を使うのなら、その資金によってどのくらい競争力が増したのか証明するべきだ。ウルグアイ・ラウンド以降、多額の資金がつぎ込まれたのに、日本の農業の生産性は高くなっていないし、競争力も増していない。

きちんとした成果を出していないのだから、税金を使うべきではない、というのは真っ当な主張だと思う。この点をあいまいにしたまま、再び自民党がバラマキをするのなら、結局のところ「騒いだ者勝ち」ということだ。一般国民からすると、踏んだり蹴ったりといった状況だろう。

政府が自動車の安全や環境性能の認証基準を欧州連合(EU)などと統一する方向で検討に入ったことが分かった。日本とEUは25日に東京で首脳会談を開き、経済連携協定(EPA)交渉の開始で正式合意するが、日本側は焦点の自動車分野で市場開放に取り組み、EUに関税撤廃を求める方針だ。

これは日本にとっても大きなメリットがあると思う。自動車について言えば、米国とはこれほど話がスムーズに進まないだろうから、まず欧州から始めるのは賛成だ。

日本の自動車産業について米国は、「市場が公平ではない」「軽自動車が優遇されている」など、色々と批判をしている。しかし、本音ではもし25%(ピックアップトラック)の関税が完全に撤廃されてしまったら、米国の自動車産業の首を絞めることになると理解している。だから、TPP交渉でも自動車については、米国からハードルを設けたいという希望が出てくるはずだ。

未だに「非関税障壁のせいで米国車が日本で売れない」と主張する米国人もいるが、これは全くの見当違いだ。米国車に競争力がないから、日本で売れないのだ。その証拠に、欧州車は日本でも売れている。非関税障壁が理由であるなら、米国車と同様に欧州車も売れないはずだ。結局、米国車が日本人にウケていないのだ。これからTPP交渉が始まるわけだが、交渉官にはこのような事実についても米国側にはっきりと伝えてほしいと思う。


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