大前研一のニュースのポイント

世界的な経営コンサルティング 大前研一氏が日本と世界のニュースを解説します。

たった1枚のグラフが語る、日本経済の実態と新しい経済原論

2009年10月27日 | ニュースの視点
15日、中国商務省は9月の海外から中国への直接投資額が前年同月に比べ18.9%増の78億9900万ドル(約7060億円)になったと発表した。

2カ月連続のプラスで、増加率は8月の7.0%より大幅に拡大。世界経済が底入れしたとの見方が広がり、対中投資が再び活発になり始めている。

また、中国政府が株式相場対策を相次いで打ち出しており、政府系ファンドが中国工商銀行など国有大手商業銀3行の株式を買い増す方針を明らかにした。

中国は国家ファンドによってPKO(プライス・キーピング・オペレーション)を実施しようとしているのだろう。

全体的な兆候として中国投資が戻ってきているのは間違いないと私も思う。

その世界が目を見張るほどの成長を続ける中国、そして米国・日本という3国についてこの十数年間の経済成長の実態を見てみると非常に重要なことに気づかされる。

「日米中のGDPの推移」のグラフを見ると、70年代~80年代日米は共に順調にGDPが成長し続けていたが、94年頃から「日本だけ」がGDPの成長が止まって横ばいになっている。

94年頃というと「バブル崩壊によってお金が失われたのだからしょうがない」と考える人もいるだろうが、それは間違いだ。

なぜなら、バブルが崩壊した当時でも個人金融資産は、1000兆円を超えていた。

GDP成長が止まってからの十数年の間にも、日本の個人金融資産の残高は増加する傾向にあった。だから、決して「お金がなかったから」経済成長が止まったわけではないのだ。

もしこのバブル崩壊後に増加した金額がマーケットに出てきていれば、おそらく米国と足並みを揃えて経済成長を継続できたと私は思う。

では、ある意味では過剰とも言える個人金融資産をマーケットに引っ張り出すにはどうすればいいか?

拙著「心理経済学」でも述べているように、不況や危機において消費者は身構える。だから、景気後退や財政問題等の先行きが暗いことを想起させるのは逆効果だ。

そうではなく、消費者心理をリラックスさせることがポイントだ。

例えば「今、車を購入してくれた人には重量税や取得税を免除する」という対策なら効果的だろう。

逆に言えば、北海道で道路を建設しても沖縄で橋を架けても、「消費心理は刺激されない」ということを政府・役人は理解するべきだ。

どうすれば個人消費を活性化できるのか?という視点を持って対策を打つこと、これが最も重要な命題だ。

さらにもう1つ、この十数年間の日本経済の停滞から学ぶべきことは、旧来の「マクロ経済学」は現代の経済において効果を発揮しないということだ。

現代の先進国においては「金利の上げ下げ」や「マネーサプライの増減」によって景気が回復しないことは、日本が証明したと言っても過言ではないと私は思う。

私に言わせれば、未だに「金利の上げ下げ」や「マネーサプライの増減」によって経済をコントロールしようとするのは、19世紀の時代遅れの経済学者だ。

そして10年遅れで米国が「日本と同じ轍を踏み」始めている。オバマプランで実施しているのは、低金利政策と資金供給量の増加というマクロ経済学の施策だ。

なぜ日本と同じ過ちを犯そうとするのか、私には理解できない。このままでは、米国も日本と同じ「間違った道」を歩んでいくことになるだろう。

そもそも「ゼロ金利政策」は景気刺激につながるどころか、逆に銀行を怠惰にさせる結果しか生まない。

「金利0%」で預かっていれば、利回り1.5%程の国債でも買っておけば儲かるので、銀行は貸し出し先を積極的に探す努力をしなくなるのだ。

実際、この数年間、私は必死になって貸し出し先を探している銀行など見たことがない。

このようなことは、「経済理論を鵜呑み」にせず、実際に起きていることを自分の目で見て分析すれば、すぐに気づけることだ。

残念なことに、政権を担当する立場になった民主党にしても、こうした事実を全く理解していないと私は思う。

経済を活性化させる必要があるのに、さらにまた「増税」や「赤字国債」という発想をしている時点で間違いだ。これでは自民党政権と何ら変わらないではないかと言いたい。

最近、私は欧州の人と話をしていて「日本は20年前に世界地図から自然と消えた」という趣旨のことをよく言われる。これは的を射た表現だと思う。

「日米中のGDPの推移」のグラフから読み取れるように、まさに日本は「自滅」したのだ。

日本復興のシナリオを描くには、「日米中のGDPの推移」から浮かび上がる「日本の実態」を直視し、旧来のマクロ経済学ではなく「新しい経済原論」が機能しているということを理解することが第一歩になると私は考える。

このたった一枚のグラフから読み取れることの重要性を、ぜひ感じてもらいたいと思う。

16 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
道州制の練習 (MI5諜報員)
2009-10-28 00:13:50
道州制では、ビジョン、実力を持たない経営者が、
首長となる可能性がある。
その責任は、選んだ住民に帰せられる。
そこで、練習として、新マクロ経済学とやらに、
したがって、有望なる企画をし、
1400兆円の金融資産から、集めてみては、
いかがかな。
政府は、その環境づくりだけであり、財源=税金は、
なしである。

これが、できないのであれば、道州制は、
反対である。

返信する
景気回復は、政府の仕事か? (MI5諜報員)
2009-10-28 00:31:54
景気回復を、政府、政治家に求めるのは、
間違っているのではないかな?

経団連が、やることでは、ないかな。

政府に求めるとは、結局、広く徴収された、
税金を、オレたちだけに、クレクレ
ということでは、ないかな?
返信する
とりあえず一般消費税撤廃 (上石)
2009-10-28 08:02:11
 素人考えと笑われてもいいのだが、一般消費税を撤廃して個別消費税を増やす政策に切り替えた方がいい。
 消費税導入でバブル崩壊し、消費税の増税でデフレが生まれたのだから、撤廃する意味はある。
 基礎年金の国庫負担引き上げで毎年2・3兆円、「子ども手当」や高速道路の無料化などで、22年度で7兆1000億円だけでも、すでに消費税収の10兆円に達している。
 また、概算要求は95兆円超と、17年(2005)の一般会計 821,829(億円)の10兆円越えである。
 民主マニフェストをやらずに、一般消費税撤廃の方が合理的な景気対策になると思うがどうだろう。
返信する
とりあえず批判だけしてみよう (MK)
2009-10-28 14:52:55
>例えば「今、車を購入してくれた人には重量税や取得税を免除する」という対策なら効果的だろう。
この政策は今現在行われていますが、問題点として言われている所謂「消費の先食い」に関してはどのようにお考えなのでしょうか?

>旧来のマクロ経済学ではなく「新しい経済原論」が機能しているということを理解することが第一歩になる
大前氏の言う新しい経済原論とはいかなるものなのか?普段から氏の主張に注目していない人間にもわかるように書いてほしい。書くというより、”明確に宣言”してほしい。
氏の著書をみると、当時私はこうなることを予期していた。といった趣旨の文章をよくみます。当時のことを知らない私からすると、それが本当かどうかがわかりません。

>上石氏
消費税を導入したからバブルが崩壊した、消費税の増税でデフレが生まれた。
これはただの結果です。消費税自体が原因となっているものではないと思います。
返信する
Unknown (国とは?)
2009-10-28 17:31:51
国の最大の仕事は富の確保(経済)と

国民の生命の確保(軍事)だ。

他の事はそれの後でもよい

それがわかってない特殊な国民が日本人

動物の群れから始まり、家族となり国家
となってもその大原則は同じ。
方法論が変わるだけ。
返信する
とりあえず批判だけしてみようを批判してみよう (大学生)
2009-10-28 19:19:27
>大前氏の言う新しい経済原論とはいかなるものなのか?普段から氏の主張に注目していない人間にもわかるように書いてほしい。書くというより、”明確に宣言”してほしい。

日本もアメリカが頼ってきたこれまでの経済学(マクロ経済学)ではうまくいってないので、これまでとは違う経済原論を「新しくすること」が必要だよね、それがGDP推移のグラフを考察すれば読み取れるよね、というのがこのコラムにおける大前氏の主張であると思われます。
つまり、経済原論を「新しくすること」の必要性がGDPのグラフから考察できること、について述べているのであって、大前氏が経済論を提案しているわけではないのです。
タイトルを見てもわかるように、「新しい経済原論」の内容をここで述べることは、このコラムの目的ではないはずです。
したがって大前氏の考える「新しい経済原論」の詳細が述べられていないことは、不自然ではないと思われますが?
返信する
結果論ではない (上石)
2009-10-28 22:52:22
 たばこ税は個別消費税だが、健康に害があるために増税しようとしている。つまり、税金には抑制効果がある、ということだ。誰でも分かるはず。
 バブル崩壊以前はなぜ好景気だったのか?
 所得税は一定の額で収めていたため、消費するほど減税効果があったから。しかし、大前氏の「バブルが崩壊した当時でも個人金融資産は、1000兆円を超えていた」は、そこにローンなどの負債が含まれていたことを忘れてはならない。
 消費税は消費に対する率で取られるため消費を抑制する効果がある。消費税のデフレ効果である。消費税導入でバブル崩壊、その後、消費税増税でデフレ、は根拠のない話でも、結果論でもない。
 高齢社会になるほど消費の優先順位が医療へと傾くのは、人の心理を現しており仕方のないことだ。

 古代エルサレムのソロモン王朝も、高額税制が原因で崩壊した。聖書にもちゃんと書いてある。
 古今東西、税は国家の課題である。

 ちなみに、都民税と所得税を消費に対して計算し、消費税と足してみると17.4%という税率になってしまう。すごい数字だと思いませんか? とにかく都税が8.5%とダントツに高い。高すぎる。
 自分は月にいくら消費していて、どのくらい税金を取られているかは分かるはず。計算してみるといい。個人によってばらつきが出るが、だいたいこのようになるはず。
返信する
もう一度批判してみよう (MK)
2009-10-29 06:53:02
こういった場でも、違う意見の方がいるとおもしろいですね。勉強になります。

よし、批判の批判を批判してみよう。

>「新しい経済原論」の話
大学生さんの意見は確かに的を得ています。私も若干勘違いをしていたというか、自分の意見をうまく表現できていなかったところがあります。
私が言いたかったことは、
「米中のGDPがうまいこといってる」=「そこには我々が気づいていない経済理論が存在する」
これは少し強引な気がします。自国よりGDPが高い国には必ず何かしらの経済原論がある、というわけではないですよね
同じことをやったとしても、必ずしもうまくいくとは限らない。
先決的な内生要因や外部からの影響があります。
今回のコラムのように断定的な言い方をするなら、大前氏はこの理論に対して何かあたりをつけているんじゃないのか?逆に何も思い当たらないのに、とりあえずわかんないから何か経済原論があるんだろう、なんて安易な話ではないと思う。
では、新しい経済原論って何だろう?思うところがあるなら教えてほしい!って考えたわけです。ん~まとめきれないなぁごめんなさい


>上石氏
では、逆に聞きたい。消費税による効果がなかったらバブルは崩壊せずにそのまま膨らんで
いったのでしょうか?
聖書の話を現在にそのまま適用することは如何なものかと思う。補足になっていない。

返信する
小さな波紋 (上石)
2009-10-30 02:50:44
 消費税導入がされなかったら、当然、状況は変わってました。「バブルは崩壊せずにそのまま膨らんでいったのでしょうか?」は極端ですが……。
 多くは遠因だと言ってますが、引き金を引いた、ぐらいのことはあったでしょう。
 消費税導入の理由が、バブル崩壊の説明になるからです。
 それは分かってますよね? 消費税導入のいきさつや理由を? 知らないでコメントは出来ませんもんね。
 まあ、経済を論じるときの「もしも」や、「だったら」は、あまり意味が無いので、デフレ脱却の新しい方法でも考えたらどうでしょう。その方が建設的かと思います。
 消費税撤廃よりも良い方法がありますか? 聞かせてください。
返信する
 ()
2009-10-30 19:39:42

日本の経済は1000兆円以上ある個人資産を少しずつ使いながらなだらかな下り坂をくだっていくのだと思います。


家電と車がエコポイントの導入や税制優遇策によってよく売れています。
消費を刺激し、内需拡大に効果のある策として残るは家でしょう。

新築、増改築にかかわる人、金、物は多岐にわたります。

大胆な規制緩和や税制優遇策を。



返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。