大前研一のニュースのポイント

世界的な経営コンサルティング 大前研一氏が日本と世界のニュースを解説します。

経済学者は10年~20年時代遅れ/中小企業金融円滑化法は延長すべきではない

2013年01月11日 | ニュースの視点

 安倍首相は1日付で13年の年頭所感を発表した。

 安倍内閣は「経済再生」「復興」「危機管理」に全力で
 取り組むとし、直近の課題としてはデフレと円高からの
 脱却による経済の再生と強調。

 国民一丸となって「強い日本を取り戻していこう」と呼びかけた。

 日本経済の低迷が始まったのはバブル崩壊の1989年である。

 この22年間の低迷期間のうち、自民党政権で9割を担っていたので、
 そもそも自民党が「強い日本を取り戻そう」などと言うことに
 私は違和感を持つ。

 また経済再生という点で言うと、日本の経済学者の言う通りに
 していても絶対に上手くいかないということを改めて認識するべきだ
 と思う。

 これまでに何度も経済学者が提唱するように、景気刺激策として
 マネーサプライを増やし金利を調整してきたが、
 全く効果はなかった。

 学者というのは過去の学説を元にして今の経済を解説する人で
 あって、今の経済を肌で感じるという感覚が鈍いのだと
 私は思う。

 経済を観察し、それが理論化され学説となるまでの期間を考えると、
 10年~20年は遅れる。

 また日本の経済学者を見ていると、米国からの輸入学者が
 多いのも特徴である。

 経済原則そのものが変わってしまった時代において、
 時代遅れの学説に従っていても問題は解決できない。

 そんな学説に縛られるのではなく、例えば「自分の身の回りにいる
 70代の人はなぜ貯蓄ばかりしてお金を使わないのだろう?」
 という発想を持つことが大切だと思います。

 庶民の暮らしをよく観察し、どうやったらその人たちがお金を使って
 満足する人生を歩んでいけるのか?ということを出発点として、
 経済政策を考えるべきだ。

 ところが未だに、政府は公的資金を注入して公共事業をやれば良い
 という、古い考え方から抜け出せていない。

 例えば、政府は電機メーカーなどの競争力を強化するため、
 公的資金を活用する方針を固めたとのことである。

 リース会社と官民共同出資会社をつくり、企業から工場や設備を
 買い入れるというものだ。

 この新制度は新政権が制定をめざす「産業競争力強化法」(仮称)
 の柱となると言うことですが、もはや開いた口がふさがらない
 レベルである。

 またこのような昔のやり方に固執してしまうのかと残念に思う。


 麻生副総理兼財務・金融相は先月28日、来年3月末に期限が切れる
 中小企業の債務返済を猶予する中小企業金融円滑化法について
 「再延長するつもりはない」との立場を改めて強調した。

 直近の経済問題という点では、最大級に重要な問題だと思う。

 麻生副総裁の発言とは違って、大臣の中には「再延長」を
 呼びかけている人もいる。

 特に、創価学会を支持基盤とする公明党は再延長を希望している
 そうだが、「国務大臣」として正しい判断をして欲しいと私は思う。

 国の政策を全体から考えるべき「国務大臣」なのか?

 それとも単なる「公明党の大臣」なのか?それが問われている。

 金融庁はこの問題を先送りするために、銀行の株式保有の上限を
 定めた「5%ルール」を変えようとしているが、モラルハザード
 の最たるものだと思う。

 ここ数年、主要銀行の不良債権比率は1%台とそれほど高く
 ないが、地域銀行、信用金庫、信用組合になるつれ
 不良債権比率は高くなり、3%~9%台に達する。

 すでに40万社を対象に100兆円近い金額に膨れ上がっていますから、
 再延長をしないとなると、地獄を見ることになると思います。

 それでも、このまま問題を先送りにしても意味はないから、
 もう引き伸ばしてはいけないと私は思う。

 一方、景気の好材料として見られているのが、
 安倍政権発足以来の株価高だ。

 株価とは「企業の将来価値」である。

 安倍政権の「政策」によって企業の業績向上が見込める
 のであれば、株価が上がるのは正しいことだが、
 私が見るところ今の状況は違う。

 また為替については、「円安」への期待感が強いように感じる。

 確かに円安は一部の製造業にとってはプラス材料だが、
 産業界全体でみれば円安でも円高でも、
 それぞれの効果は半々だ。

 この数年、円高のために輸出産業が苦しんできたのは事実だが、
 逆に言うと円高によるマイナス部分は消化済みなので、ここで
 円安になるとまた苦労する企業が出てきてしまうとも言える。

 円安が進むと本当に日本全体で企業業績は上がるのでしょうか?
 私は大いに疑問の余地があると思う。

 問題は山積みだ。

 安倍政権がどのようにして経済再生への道を見せてくれるのか、
 期待したいところだ。

 


1 コメント

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生活の視点から見た需給バランス (HM)
2013-02-18 12:42:54
子育てや介護には、膨大な需要と「対価を支払う意志」があるのに、多くの規制によってサービスがなかなか受けられない。待機児童もなかなか減らない。一方で、もっと快適な車、もっと薄いテレビをなぜ人々は買わなくなったのか、おかしいといわれる。やはり需給のミスマッチが、経済不振の元凶ではないか?マッチさせるには、徹底した構造改革が必要で、スクラップされる産業、新興する産業があってしかるべきではないか。経済が再生するためだけでなく、大きな資産を持たない普通の市民が、精神的ゆとりを取り戻し、楽しみのある生活を送るためにも、供給側の再構成が必要なのでは。
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