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荻野洋一 映画等覚書ブログ

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ソーントン・ワイルダー作『わが町』

2011-02-13 01:55:04 | 演劇
 すこし前のこととなるが、新国立劇場芸術監督に就任した宮田慶子の演出を、再び見る機会を得た。作品はソーントン・ワイルダーの戯曲『わが町』(1938)。これは、初演から2年後の1940年に、サム・ウッドがウィリアム・ホールデン、マーサ・スコット主演で映画化しているけれど、残念ながら私は未見。川島雄三のは関係ない。さらにその翌々年、ソーントン・ワイルダーはヒッチコックの『疑惑の影』の脚本を共同で担当している。俗に「オスカーはワイルドだが、ソーントンはもっとワイルド(Wilder)だ」と言われるが、どう反応してよいものやら見当もつかない。

 今回の上演は、喜劇的な第1幕が低調で、3時間半近くも集中力が続くかどうか心配になったが、若いカップルが挙式するまでを描く祝祭劇的な第2幕あたりからは、場を盛り上げるソームズ夫人(増子倭文江)が素晴らしく、高揚感に包まれて幕間となった。
 第2幕から6年後、一転して、死と静寂の闇につつまれたレクイエムのような第3幕では、登場人物たちの半数は、墓場に入ってしまっている。喜怒哀楽を奪われたまま、蒼白な顔で墓地に穿たれた1つ1つの穴に胸まで浸かる、屍となった町民たち。この装飾演出、配置の妙は、今回の上演のもっとも優れた部分だ。第1幕、第2幕ではあれほど明朗、気丈だったギブス夫人(斉藤由貴)が、墓穴に身を沈めて、死を甘受できない若いヒロイン(佃井皆美)を気だるそうに諫める場面には、本当に心が痛んだ。

 宮田慶子は、芸術監督就任第1作のヘンリック・イプセン作『ヘッダ・ガーブレル』(アルノー・デプレシャンの『エスター・カーン』内で上演されていたアレですね…)もなかなか魅せてくれたし、低評価に苦悩した鵜山仁監督時代にくらべると、それなりに上々の出だしなのではないか。宮田の演出は非常によく練られていて、いい意味でセンチメンタルである。また、大地真央、七瀬なつみ、斉藤由貴といったベテラン女優たちを光らせる術も心得ている。
 テネシー・ウィリアムズ、ヘンリック・イプセン、ソーントン・ワイルダー、それから鄭義信(チョン・ウィシン)の『焼肉ドラゴン』(これは、非常なる傑作!)の再演と、芸術監督就任後のレパートリーは王道的、復古的に過ぎる気もするが、さしあたってこれも1つの堅固な企図であると思う。


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