荻野洋一 映画等覚書ブログ

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森田芳光と、それにまつわる幾つかについての覚書

2011-12-22 00:10:00 | 映画
 死去した森田芳光のフィルモグラフィを、改めてウェブ上で眺めてみた。1990年代後半ぐらいから未見作品がぽつぽつ出ている。たとえば『39 刑法三十九条』『海猫』『サウスバウンド』あたりが未見となった。
 『(ハル)』(1996)以前のものは、自主映画時代をのぞけば全部見ているはずである。『の・ようなもの』(1981)は『家族ゲーム』(1983)の公開後に、後追いで見た。非常に刺激を受けたが、徐々にこの人の作品への関心を失いはじめ、やがて鬱陶しく感じさえした。なぜなのか、そのことを深く考えたことがない。考える時が来るだろうか?
 10代のころは樋口可南子の大ファンだったから、『ときめきに死す』(1984)は初日に見に行ったと思う。池袋東急だったか。矢作俊彦の日活アクションへのオマージュ映画『AGAIN』と併映だった。沢田研二と樋口可南子が、家具のない空漠たる部屋で、キャンディの入った透明なガラス瓶をごろごろと転がし合うカットが大好きで、脳裏で長く反芻したものだ。樋口可南子がすごく綺麗だった。そういえば、この作品で無意識下のメフィストフェレスのような役を演じたのが、今年亡くなった杉浦直樹である。

 わが祖父が宮仕えを退官後、新宿戸山町の家を引き払い、西武線・田無の平凡な住宅街でたばこ屋兼菓子店を始めたのは、私が小学校1年生ぐらいの時だったか。そのころはもう、新宿で騒乱らしい騒乱も起きなくなっていたし、交番が焼き討ちに遭うということもなくなっていた。新宿の騒ぎは、幼き身にも心ときめくものがあったが、どっちにしろ田無ではもう、そういうものとは無縁となる。目の前に栗畑の広がる田無で、菓子店のケースの上に乗ったキャンディ入りのガラス瓶が、まぶしくもあり、と同時になにやら寂寥たる気配も抱いたものだ。それから十余年後、透徹した作品『ときめきに死す』を見ながら、私は祖父の店のガラス瓶を思い出していた。いや、思い出すというのは正確ではない。その時にはまだ、そのたばこ屋兼菓子店は営業されていた。
 それから数年経った1990年代の初頭、そのころ知り合った篠原哲雄氏と飲んでいた際、「『ときめきに死す』で衝撃を受けたのが、映画界に入ったきっかけなんだ」と語るのを聞いて、嫌な気持ちがした。その後は大活躍することになる篠原監督には悪かったけれど、自分の中で何かがすうっと冷めていくのを、止めることができなかった。それからまた数年経った1995年の秋、祖父は死んだ。


P.S.
 森田芳光監督は日大芸術学部出身であるが、私の出身サークルである「早大シネマ研究会」に、早川光らと共に所属していたと、キネ旬の旧・監督事典に書いてある。山川直人、室井滋、石井めぐみ等によって当研究会が勃興するよりも以前のことだから、誰に聞いてもそのころのことは「わからない」と言っていた。どなたか、そのような太古の物語を教えてほしいものである。イメージフォーラムの池田裕之氏あたりに聞けば、ご存じなのだろうか?


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2 コメント

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Unknown (無名)
2011-12-24 05:08:17
レス失礼します。

早川光と森田芳光では年齢的に10歳くらい年の差があると思いますがどうなんでしょう。
まあでも個人的な話で恐縮ですが、1980年に手塚真の『MOMENT』を手伝っていた頃は、自分らの世代とその前の長崎俊一なんかの世代がゴチャゴチャになっていたので、自主映画の世代を年齢やサークル在籍時期で分けるのは無意味なのかも知れません。自分の中で前世代と呼べるのは大林宣彦から森田芳光まで、長崎俊一から手塚、今関あきよし、犬童一心あたりまではその次の世代で一括りに出来るのではないかと思っているのですけれど。
森田芳光はとにかく『ライブイン茅ヶ崎』で登場した時の、発生形態というのか、指向というのか、そういうものからして他の自主映画とは一線を画していたので、自主映画世代としての近さはあまり感じられなかったです。
あまりお役に立てない話で失礼しました。
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森田芳光の時代 (中洲居士)
2011-12-26 02:21:57
無名さん、コメントを寄せていただき有難うございます 遅レス失礼いたしました。1970年代自主製作映画の見取り図をわかりやすく説明いただき、助かります

くだんの早川光が、有名な寿司評論家と同一人物だとしたら確かにだいぶ年の差があるはずですが、ひょっとすると森田芳光と同世代の自主映画作家がいたのではないでしょうか? おそらくこの早川光氏は草月アートセンターに出入りしつつ森田と知り合ったのではないかと推測していますが、保証の限りではありません
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