荻野洋一 映画等覚書ブログ

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『生きてるものはいないのか』 石井聰亙(現・石井岳龍)

2011-12-19 01:43:11 | 映画
 石井聰亙(改名後は石井岳龍)10年ぶりの劇場用長編新作は、五反田団の演劇作品『生きてるものはいないのか』の映画化で、前田司郎による集団死のパニックを描いたこの人を喰った戯曲は、石井が遊び場とするにはとても適している。石井はじつに愉快そうに人間どもの死を、人類の破局を順繰りにカメラに収め、アソビとスサビのあいだを往還するだけ往還し尽くしていく。軽快な風刺コメディにも見えるし、重厚な神話劇にも見える。石井作品のカミソリのようなシャープネスは健在。
 五反田団にはもうひとつ、同じ状況を扱った『生きてるものか』という後発作品があって、私は両方の舞台とも見ているが、引き続き『生きてるものか』も映画化されるとおもしろいと思う。
 2000年代はハリウッドで、人類の破滅を扱った近未来SFが数多く製作されたし、またそれらの作品についての感想を拙ブログにはたくさん書いてきた。しかし、『生きてるものはいないのか』の無自覚かつ軽薄なる破滅ぶりは、大震災を経験した観客にとっては、より新たなリアリティをもって迫ってくるだろう。ぶしつけなまでに悪い冗談のような映画ではあるけれど、しかしそのぶしつけさはそれ自身によって、今年1年間に政界・財界・大手マスコミで演じられた原子力をめぐる最低の茶番劇すべてを照射しているのだ。


2012年2月18日(土)から、ユーロスペースほかで公開予定
http://ikiteru.jp/


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