荻野洋一 映画等覚書ブログ

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デヴィッド・マメット 作『グレンギャリー・グレン・ロス』(演出 青山真治)

2011-06-14 02:47:35 | 演劇
 アメリカ映画への忠誠と畏怖を語る日本の映画作家は掃いて捨てるほどおり、その様相は免罪符のごとしであるが、実作の場でその葛藤と面と向かって相対してきた本当に数少ない映画作家のひとりが、青山真治だろう。彼のこれまでのすべての活動が〈ロスト・イン・ハリウッド〉そのものだったと言って過言ではない。
 青山の初舞台演出作『グレンギャリー・グレン・ロス』は、デヴィッド・マメットの1984年の戯曲。ジェームズ・フォーリーが監督した1992年の映画版(邦題『摩天楼を夢みて』)は、邦題が示すようにニューヨークを舞台としていたが(私は未見)、今回の上演では、マメットの本拠地シカゴの不動産会社が舞台となっている。古びたレンガ造りの雑居ビル、高架鉄道のけたたましい通過音など、シカゴの雰囲気を盛り上げる。青山のキャリアで最もストレートに、アメリカ映画に倣った作品ではないだろうか。

 前半の中国料理店での3場、それから後半は翌朝の不動産事務所。登場人物たちのことごとくは過大なストレスを抱え、爆発寸前だ。あたかも、鬱屈した都市のストレスを描き続けた1950年代の映画作家たち(ニコラス・レイ、エイブラハム・ポロンスキー、ロバート・アルドリッチ……枚挙に暇がない)が乗り移ったかのような、にがくにがく果てしないディスコミュニケーションの2日間。
 だから最後まで人物たちの視線はまともに交わらないし、言葉はだれにも十全に受け取られることはない。そしてあの、火刑台への階段にも似た中二階のしつらえが、強烈な不快さを生み出している。


P.S.
中国料理店の場面は、芝居のおよそ半分を占めるほど長いけれども、登場人物たちは、タランティーノ映画のごとく言い争ってばかりで、ほとんど料理らしい料理を食べていない。これが私に異様な渇望感を募らせた。ただし品川区というところは、食に関しては不毛の地であることは、くわしく知っている。まともなものにありつくには、五反田もしくは芝あたりにまで出なければならない。結局、日本橋に戻ってからゆっくりと旨い中国料理をたらふく食べ、溜飲を下げた。


天王洲 銀河劇場(東京・東品川)で6/19まで上演中
http://www.gingeki.jp/


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2 コメント

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Unknown (無名)
2011-06-17 00:16:18
久しぶりにレスさせていただきます。

『グレンギャリー・グレン・ロス』は、自分は今週の土曜日に見に行きます。『摩天楼を夢みて』はビデオで観ましたが、狭い空間での場面転換と全編を覆い尽くす雨に圧倒される映画でした。

この芝居を見た後で近所のシネコンに移動して『東京公園』を観る予定ですが、劇場周辺の中華料理情報など参考になりました。ありがとうございます。
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青山デー (中洲居士)
2011-06-18 21:57:00
青山デーとされたわけですね! 堪能されましたか?
当方、現在、旅行中につきレスが遅れました。すみません。
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