荻野洋一 映画等覚書ブログ

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『はさみ』 光石富士朗

2011-11-17 03:24:25 | 映画
 『大阪ハムレット』の光石富士朗の最新作『はさみ』は、東京・中野の大手専門学校、窪田理容美容専門学校が製作をバックアップした学園ドラマで、中野区からも全面的なロケ協力を受け、濃厚に中野という場所の映画となっている。中野がこれほどたくさん写された例は、まったく思いつかない。題名にその地名が入っている『陸軍中野学校』でさえ、ここまで中野をフィーチャーしていたわけではない。

 本作を見ながらはなはだ不思議だったのは、生徒、学校スタッフ双方があまりにも人間臭く、熱血的なことであり、理容美容専門学校に出入りしたことがない私としては、そのあたりのリアリティの是非がまったく見当のつかぬものだった。生徒たちを苦悩や挫折から立ち直らせようと奔走するヒロインの先生(池脇千鶴)には、あたかも稲垣浩監督『手をつなぐ子等』(1948)における訓導(笠智衆)のごとき慈愛と育成精神で満たされているのである。
 試写会場で光石監督とすこし話すことができたので、この点について問いただしてみると、この窪田という学校が生活指導の手厚い校風をもつところであること、また、語られたエピソードはどれも一見すると過剰にウェットだが、すべて校内で起こった実話を汲み上げたものなのだということを教えられた。
 私は専門学校というと、「職能・技術をすばやく学んで社会に出動するための、徹頭徹尾プラグマティックな空間」というイメージを漠然と抱いてきたため、この脂っこさにはいささか面食らったし、不思議な思いにも囚われた。クライアントからの有形無形の要望ということもあろうが、前作『大阪ハムレット』が、ウェットな土地柄にカメラを向けながら清涼剤のような印象をもたらしたのとは対照的に、今回は真逆のことに挑戦したのかもしれない。


2012年正月第二弾、K's cinema(東京・新宿)にて公開予定


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