荻野洋一 映画等覚書ブログ

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『アイアンマン3』 シェーン・ブラック

2013-05-13 07:13:21 | 映画
 このところヒーロー物のシリーズは、主人公の自宅炎上が大流行である。本作『アイアンマン3』も『ダークナイト ライジング』も主人公が自宅を襲撃されることで物語が始動し、『007 スカイフォール』に至っては自宅炎上がメインテーマだったと言っても過言ではない。そこから抽出されるのはやはり、世のヒーローたちが抱え込んできた幼少期のトラウマまたは子宮回帰願望からの解放、さらにはその湮滅への強迫観念ということになるだろう。
 『アイアンマン』のシリーズは、アルコール依存症で傍若無人、金だけはたんまり持っている傲岸不遜なダーティ・ヒーローの存在誇示で成立するシリーズで、愛されていないと思い込んでいた亡父から愛の証拠を受け取るというメロドラマがこれに接ぎ木されていた。そしてこのダーティ・ヒーローを、ロバート・ダウニーJr.が彼自身のアルコール依存などの自伝的辛苦を観客の意識に浮上させながらうまく演じきってきた。
 その伝で言うなら、今回の『アイアンマン3』はシリーズ中もっとも保守的な作品だ。これまで彼は世界を救助しながらも、同時に世界に中指を立ててきた。ところが今作の彼は、きまじめに救世主をみずからに任じ、誘拐された婚約者や大統領を救助するラストミニッツ・レスキューの古典性に閉じこもって自足しようとしている。家庭への、国家への、秩序への帰順と忠孝に彼は満足しつつあるようだ。そして、過去に邪険に扱われたという私怨だけを抱えて復讐に燃える悪玉のリーダー(ガイ・ピアース)。これは『007 スカイフォール』のハビエル・バルデムも同様だったが、主人公の防衛戦を軽いものにしてしまう。この悪玉が「アルドリッチ」なる名を持つのが片腹痛い。


TOHOシネマズ日劇(東京・有楽町マリオン)ほか全国で上映中
http://www.marvel-japan.com/movies/ironman3/


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2 コメント

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享楽の代償 (Unknown)
2013-06-02 00:42:14
監督の交代にさしたる期待をもたなかったためか、思いの外楽しんでしまった後に、この記事を目にして思いを巡らせました。アメコミ通ではないものの多くのアメコミファンの求める「動画化」のある種の理想系であるがために、アメリカへの対象化が薄まったことが「保守」なのかなと思いました。パート2におけるミニチュアの世界が壊される冷えたカタルシスに迫るのは難しいですね。
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Unknown (中洲居士)
2013-06-02 13:51:31
そうですね。アメリカ映画というのはたしかに、アメリカへの対象化が薄まるといっきに緊張を失って退屈なものになりますね。1と2はちゃんと対象化がなされていたと思いましたけれども。
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