荻野洋一 映画等覚書ブログ

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『孤独な天使たち』 ベルナルド・ベルトルッチ

2013-05-10 02:38:57 | 映画
 先日シアター・イメージフォーラムで『パートナー(ベルトルッチの分身)』(1968)をイタリア文化会館以来25年ぶりくらいに見たが、これがじつに素晴らしい。これぞベルトルッチという、やんちゃで青臭く、ワンシーンごとに観客を困惑させてやりたくてしかたがないという悪戯心がぴかぴかに光っていて、ピエール・クレマンティの長い長い影、洗濯石鹸の箱に囲まれたその顔、ティナ・オーモンの上瞼に描きこまれた目玉、洗面室での泡だらけになっての抱擁など、まざまざと鮮烈なイメージが甦った。
 ベルトルッチが映画の最前線から脱落してどれくらいの歳月が流れたのだろうか? すでに大作『リトル・ブッダ』(1994)の時点で後退の色が濃かった。近年の彼は重病にかかって車椅子生活となってしまったそうだが、めでたく9年ぶりとなる新作『孤独な天使たち』が日本公開されている。
 iPodの音楽と推理小説を友だちとして一人遊びに興じることの大好きな14歳の主人公(ヤコポ・オルモ・アンティノーリ)。学校のスキー合宿と偽って、アパート地下の物置で一週間の秘密アジト生活と決めこむ。そんな至福の時間は、ドラッグ依存症の異母姉(テア・ファルコ)の闖入によってもろくも崩れるのだが、このふたりのやり取りが紡ぎ出す時間には、じわじわと愛おしさが押し寄せてくる。主人公のニキビだらけでうぶ毛の髭を生やしたブサイクな顔つきが、たまらなくいい。よくこんな顔の少年を見つけてきたものだ。
 かつてのような力強い演出はすでに見られず、枯渇した映画作家による晩年の戯作につき合っているという感覚は正直なところぬぐい去れないが、デヴィッド・ボウイーの初期曲「スペイス・オディティ」(1969)の思い入れたっぷりの使用が、すべてをかっさらって見せる(イタリア語版なんて存在したのか)。そして、最後の夜が明けた早朝に撮られたあまりにも美しいラストカット。ベルトルッチがこれから何本の作品を作ることができるのかは見当もつかないが、ベルトルッチのこの〈地下室の手記〉的フィルムの存在が、彼の映画人生の過疎的時間をしずかに照らし出している。キャリアを救済する地下室の薄明である。


シネスイッチ銀座(東京・銀座和光裏)ほか全国で順次上映
http://kodoku-tenshi.com


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2 コメント

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Unknown (じょーたろ)
2013-08-23 00:20:17
お久し振りです。

キネカ大森で『暗殺の森』と観ましたが、こちらもかなり面白く観ました。
長いブランクを経て、変化したコッポラを思い出しつつ、自分にとってリアルタイムのベルトルッチの本作は今年の上位となりそうです。
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じょーたろさんへ (中洲居士)
2013-08-23 03:14:09
久しぶりですね。訪ねてきていただいてうれしいです。

一度は第一線から退いたとされた映画作家が、低予算で、自由闊達で、悲しみも喜びも声低くこめてこめて描いたこんな作品。こういうものが、とてつもなく愛おしく感じられる。
映画っていいなあと思わされる作品ですよね。
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