荻野洋一 映画等覚書ブログ

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『下女』 キム・ギヨン

2011-06-03 01:12:34 | 映画
 アテネ・フランセ文化センターにて、キム・ギヨン(金綺泳)の『下女』(1960)をやっと見ることができた。なるほどこれは確かに阿鼻叫喚であり、生ける地獄であり、息づまるドロドロとした心理劇である。なぜ事態がこんなに悪化の一途を辿ってしまうのか、なぜここの人たちはこんな行き過ぎた考え方をしてしまうのか。なんとも看過できない錯誤と錯乱の連続である。
 この沈鬱な韓国映画の舞台となるのは、2セットのみ。工場(何を作っているのかはよくわからない)と、そこの女工たちに課外活動としてコーラスを教えているきまじめな音楽教師の自宅。これだけである。あとはソウル駅のプラットフォームくらいか。世界があまりにも偏在的に過ぎる。
 窮地に陥った主人公が、その窮地から逃れるために唯一おこないうるアクションは、単に、おそるべき性悪な下女(家政婦)の鼻先でピシャリと扉を閉めることのみなのだ。別の部屋では、彼の長女と長男が、この下女の魔の手から無防備な態勢にあるというのに。そして、キッチンの戸棚には、いつも殺鼠剤の小瓶が置いてあって、誰がいつこれを使用してもおかしくはない状況が放置されているというのに。
 見終わったいまも、不快なえぐみが口の奥に残っている感じだ。キム・ギドクの弟子が作って、今年になって日本公開された『ビー・デビル』なんていうのは、こけおどし描写でショックを与えるけれど、『下女』のえぐみにくらべたら、単なるアトラクションに過ぎない。


アテネ・フランセ文化センター(東京・神田駿河台)にて開催中の《映画の授業》内で上映
http://www.athenee.net/culturalcenter/


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5 コメント

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『下女』のリメイク (中洲居士)
2011-09-16 09:18:07
『下女』のリメイクが公開中なのですよね。終わる前に見に行かねば。

主演のチョン・ドヨンという人は、『私にも妻がいたらいいのに』『スキャンダル』『シークレット・サンシャイン』の3本は見ているが、どれもよかった。東京フィルメックスでも『カウントダウン』という最新出演作がコンペティションに入っている。
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玄界灘は知っている (中洲居士)
2011-09-20 23:07:19
きょう、東京国際映画祭の事務局からいただいた告知メールによれば、今年のTIFFでキム・ギヨンの1961年の作品『玄界灘は知っている』が再上映されるそうです。すごい作品ですので、未見の方は都合の許すかぎり見たほうがいいと思います。

拙ブログにおける当該作品の言及
http://blog.goo.ne.jp/oginoyoichi/e/d7f5fc78a76fddba5066ea185c94e2f2#comment-list
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北九州市民映画祭 (中洲居士)
2012-02-21 02:25:21
キム・ギヨン作品の上映が北九州市民映画祭であるようです。『下女』『死んでもいい経験』『玄界灘は知っている』の3本と青山真治監督の『レイクサイド マーダーケース』が上映され、そのあとに青山監督と石坂健治氏、黒田福美氏のとーくしょーがあるとのことです。小倉方面の方は必見です。

■第2回北九州市民映画祭
 ~韓国映画界の怪物 キム・ギヨン監督特集!九州初上映!
【会 期】 2012年3月3日(土)
【会 場】 「小倉昭和館」 北九州市小倉北区魚町4-2-9
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北九州で見ました! (おりおなえ)
2012-03-08 08:46:28
中洲居士さんお勧めの映画祭で、見てきました三本立て!
いや~3本ともスゴいスゴい。あと、まとめて観た効用として、だんだん笑えてきます。
「玄界灘…」のラストシーンは凡百のホラーを凌ぐ圧倒的迫力なので必見です。
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北九州 (中洲居士)
2012-03-09 03:17:32
おりおなえさん、はじめまして。この度はコメントを寄せていただき有難うございます。

北九州はまさに「玄界灘を知っている」土地ですから、なまなましさがありますね。舞台は名古屋でしたが。主人公が焼死体の群れの中からむっくむっくと起き出す衝撃は、カール・ドライヤーの『奇跡』に匹敵するインパクトだと思います。
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