ちかさんの元気日記

辛いことを乗り越えて元気に生きている私“ちかさん”の
涙と怒りと笑いの介護記録。

ミヨの復活祭

2014-08-27 00:32:45 | 日記
ミヨ(仮称)はほとんど寝たきりの老婆だった。

風呂嫌いゆえに白髪頭はいつも雨にぬれたマントヒヒのようだが
若かりしころの美貌を今も残し
認知症がひどくなっても
礼儀正しさと美しい言葉遣いが育ちのよさを感じさせる。

しかしほとんど寝たきりで
たまに車椅子に座ってテレビを見ては「ふふふ」と笑うくらいの毎日。
もう92歳だ、このまま静かにお迎えを迎えるのだろうと
誰もが思っていた。

ところが、ミヨに何かが起こった。

この夏、彼女は猛烈な勢いで空腹を訴えはじめ
車椅子に乗っても自走する力などなかったはずが
自力で居室内の冷蔵庫まで行き
身内の方があふれんばかりに入れておいてくれる好物のスイーツを
1日に3個以上食べるのだ。

最初はなぜ冷蔵庫のスイーツがなくなるのか
みんなで首をかしげていた。
どうして?
自分で冷蔵庫を開けて食べてる? 
まっさかね。

しかしある日その現場を目撃した職員の証言により
奇怪な真相が明るみになったのだった。

なんだかミヨが元気だ。どうしちゃったんだ!?
そんな話で持ちきりのところへ
今日の事件である。

同僚と二人で廊下を歩いていたとき
ゆるゆると、ミヨの居室の玄関が開いた。
なに? 立ち止まり、顔を合わせる私たち。

ゆっくりと扉の下方から車椅子の車輪が現れ
続いてそれを自走するミヨが現れた。

う、うそだ!?

立ち尽くす私たちに気づいて、ミヨが言う。
「誰かが私を閉じ込めたの。
でも私、ちゃんと自分でドアを開けられるのよ。ふふふ」

びっくりしたなんてものではない。
自走していることも驚きだが
なんといったって
ミヨは人と触れ合うのが嫌で
入居から今日までの9ヶ月間
散歩も、食堂で食事することも拒んで
一歩ありとも居室から出たことがなかったのだから。

ど、どうなさったの、ミヨさん。
「ふふふ、ちょっとお出かけ」
ならば行きましょ、行きましょ!
驚きながらもこの快挙に喜んだ私たちは
車椅子を押して館内を、そして勢いに乗って屋外へ
ミヨを連れ出す。

「風が気持ちいいわ」
「ああ、このお花、なんてかわいいんでしょう?」

ミヨから発せられる言葉一つ一つが
私たちにとっては大感動である。
奇跡や~~~!!!

92歳の復活か?
はたまた最期の打ち上げ花火か?

なんだか狐につままれたような思いである。