ちかさんの元気日記

辛いことを乗り越えて元気に生きている私“ちかさん”の
涙と怒りと笑いの介護記録。

愛おしい人たち

2016-02-23 19:38:43 | 日記
脊椎損傷のH(本日より改め、ハルオ)から
コールがあった。
耳が遠いため大声でがなるので
何を言っているのかさっぱりわからない。

部屋に行くと
ベッドに横たわったハルオは自分の耳を指差して言った。

「補聴器、全然聴こえねーんだよ。
壊れちゃったのかなあ」

去年新しくしたばかりの補聴器は片耳20万円。
紛失したら大変だから
車椅子で食事をするとき以外は
外してテーブルの上のケースにしまうことになっている。

ハルオさん、補聴器ならここよ、と
ケースを開いて見せた。

きょとんとするハルオ。
そして耳たぶをつまんで言った。

「じゃあ、これはナンなんだ!?」
「あ・・・耳か」

そのあとの彼の気まずそうな顔がかわいかった。

そしてもう一つ。

「トイレはまだ?」「食事はいつ?」と
ひどいときには分刻みでコールを鳴らしてくる
わがまま老女・カヨコ。

お陰で夜勤も休みが取れないのだが
きのうはこんなコールがかかってきた。

「突然ですが、私、人を殺すことになりました」

なんのこっちゃ!?

しかしその答えが得られぬままコールは続く。

「お忙しいところ申し訳ありませんが
私、人を殺すことになりました」

問答しても仕方がないので、とりあえず
「わかりました。のちほどゆっくりお話を伺います」
そう答えてコールを切った。

やれやれ、と、仕事の切りのいいところで訪室してみると
カヨコはコールボタンを握り締めたまま爆睡している。

ヘンな夢でも見たのだろう。

寝惚けてコールしてくんじゃねーよ!
と苛立ちながら
義歯を外した穢れない寝顔を見ていると
憤怒を忘れて抱きしめたくなる。

高齢者を慈しむ心なんぞ持ち合わせちゃいない私
の、はずが
なぜだろう、あいつらが愛おしい。






H わがまま老婆・カヨコ

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