ちかさんの元気日記

辛いことを乗り越えて元気に生きている私“ちかさん”の
涙と怒りと笑いの介護記録。

右手

2016-01-19 01:03:16 | 日記
きょうは三人の名物オババたちから
すがるように手を握られた。

まずは、「トイレ、トイレ」と
出もしない尿意を1日中訴えるわがまま老婆・カヨコ。
便秘でお腹が硬くなっていた彼女の元へ
訪問看護師がやってきた。
いざ、浣腸! しかし「やだよ、やだよ!」とカヨコは拒む。

看護師に呼ばれて私が顔を出すと
カヨコは泣き顔で両手を差し出してきた。
「ね、この人、嫌なことをするんだよ。助けてよ」

それは大変だ、じゃ、私がずっとそばにいてあげるからね。

私の右手を両手で握り締めると
だまされたように、彼女は浣腸により便を出し続けた。
小さな身体のどこにこれほど溜まっていたのか?と驚くほど
大量の便だった。

次はクレイジー・ミヨ。
廊下を歩いていると、彼女の部屋から狂ったようなわめき声が聴こえてきた。
鍵を開けて入ってみると
ミヨが天井に向かって「お母さ~ん、お兄さ~ん」と叫んでいる。

ベッドサイドに近寄り手をつかむと
その手をぎゅっと握り返して涙ぐむミヨ。

「ねえ、私、生きてるの?」

生きてるよ、生きてるよお、ミヨさん。
ほら、手を強く握るよ。感じるでしょ?
あなた、生きてるんだよ。

寝たきりにさせまいと食事だけは車椅子で食堂に連れてきているが
それ以外はずっとベッドに横たわり
天井を見るだけしかないミヨの暮らし。
生きている実感がないのだろうと、切なくなる。

そして最後は、私をオンタイと呼ぶマリコ。
「こわいです」「さびしいです」といった夜間のコールが多すぎて
時に憎しみすら覚える彼女であるが
今日オムツ交換で部屋を訪ねると
「ああ、オンタイ」と私の右手を握り締めてきた。

な、なに?

「オンタイ、きのうは大活躍でしたね」
なんのこと?
「ほら、ケンカ騒ぎのことですよ」
「あの中で、オンタイが一番光っていました。ありがとう」

なんのこっちゃ!?
どうやら夢を見ていたらしい。

ま、ここで彼女の夢に水をさすこともなかろう。
「いえいえ、たいしたことでは…」と穏やかな笑みを彼女に向ける
実にいい加減な私であった。

さてと・・・

老婆たちからぎゅうっと握り締められた私の右手。
それは専ら箸を握るしか能がないと思っていたが
もしかしたら
人の手を握るという行為だけでも少しは役に立っているのかも。

明日からもっと頑張っちゃおう!
単純な私は
我が右手を改めて見つめつつ、そう心に誓うしだいである。