入笠牧場その日その時

入笠牧場の花.星.動物

       ’16年「冬」 (36)

2016年02月22日 | 牧場その日その時


  今回は、どういう経路で行くか大分迷った。車でも、少し無理をすれば、牧場の管理棟まで行けそうな気がしたからだ。ともかく車を走らせた。そして諏訪神社の見える分岐点で、一瞬の迷いを振り切り右折して、法華道を行くことに決めた。やはり冬は、この古道を行くのが正しいと自分に言い聞かせた。8時45分出発。
 前回、「今度来たらはユックリ歩く」と書いたが、山をそんなふうに歩くということは、言うほどやさしいことではない。ある程度の緊張の中で、登行意欲を維持しながら登るから、おのずとその速度というものは決まってくる。客が来るのは翌日だから、急ぐ必要など全くなかったが、さりとて故意に歩行速度を落とし歩くこともできない。単独だから、自分の身体・調子に任せて行く。
 井上靖の「氷壁」の中で、山を歩いているときは何を考えているのかと主人公が、彼に想いを寄せる女性に問われる場面がある。それを読んだ後、山を歩いていてそのことを時々自問してみた。しかし、かなり深刻なことを考えようとしている時でも、断片的で、あやふやで、思念の焦点を絞れないまま考えようとする対象が擦過してしまう。考えているようで考えていない、考えていないようで考えている、そんな状態の中で歩いているのが登山だと知った。
 1週間前よりさらに雪は少なく、「脛巾当(はばきあて)」まで1時間で来てしまった。法華道にはそこまででも「万灯」、「竜立場(りゅうたつば)」、「門祉屋敷」、「爺婆の岩」、「厩(うまや)の平」と、古い名前が付いている。北原のお師匠はそれらの地名を後代に残さんと、各所に道標(みちしるべ)を立てた。弟子は師とまだお目文字する前のことで、きっと誰の助けも得られぬままの、孤独な作業だったろう。


 
 その先、尾根が山腹に消える辺りに「山椒小屋跡」があって、さらにしばらく落葉松の林を行くと古道は林道と合流する。後はひたすらこのウネウネと続く林道を歩けば、迷うことはない。途中、「御所が池」へ行く道が右手に落ちていき、さらに曲がりくねった林道を行くとやっと、御所平の標識と出会う。左手には落葉松の林を透かして牧場の一部も見えるはずだ。ここまで来れば「本家・御所平峠」までは、雪の状態にもよるが後一息だろう。森の中の峠には、これまた師が背負い上げたいう地蔵と石の標識が待っていてくれる。
 前回は4時間をかけた。この所要時間でも速いくらいだ。ところが今回は、「脛巾当」で15分も休み、決して時間など意識してなかったにもかかわらず、到着時間は10時50分。ナント!実質所要時間は2時間を切っていた。いくらなんでもおかしいと、携帯を調べてみても同じ結果が出ている、ムー。(つづく)

 
 



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