激しく雨が降っている。そんな中、囲いの牛たちはそれをまったく意に介するふうも見せず、いつものように草を食んでいる。それが彼女たちにとっては生きることであり、仕事でもあり、子を産み、乳を出すのも本能のしからしめるところで、人間のようにそこに物語などは存在しないだろう。
いや、そんなふうに単純に片付けてもよいものか、入牧したばかりのころは同じ農場、牧舎から来た牛たち同士で行動しようとするし、そのうちには群を主導する役を買う牛だって出てくる。
言葉はなくもそれなりに意思の疎通が行われているし、彼女たちにも物語があると考えるべきだろう。
来週になれば天気は良くなるという予報だ。そろそろ囲いと隣の第4牧区を隔てている扉を開けて、あの牛たちをもっと広い放牧地へ出してやることにする。
そうなればしかし、今まで以上に注意や監視、そのための見回りが必要となってくる。第1牧区の和牛のようにいつも1群でいてくれれば世話は楽だが、恐らくホルスはバラけるだろう。
それと、電気牧柵を知らない牛はその衝撃を体験して初めて、細いアルミ線やリボンワイヤーは危険で、触れてはいけないものだということを学習することになる。それも、複数回を要する牛もいて、時に電気柵を切断するのは鹿だけの仕業ではない。
霧が流れている。この白い来訪者は、何かを暗示でもするかのようにゆっくりと語りかけ、また呆気なく去っていってしまう。その気の変わり方の早さ、時には意志を持ったかのように躍動し、時には無気力になって漂い、雨が止んだ今も同じことをずっと繰り返している。(7月9日記)
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本日はこの辺で。