迎春 K.E様
札幌を離れてから何年になるのでしょうか。ロンドンで再会してからも早20年が経ちます。お子さんたちが
大きくなられたのも当然ですね。なかなか子育てが難しい時代の中で、お二人ともしっかりとした目的意識を持って
社会人になっているご様子に、さすが、あの山の上の校舎まで欠席することなく自転車通学されていたKさんのお子さん
だと、納得させられると同時に大変嬉しく敬意を表します。でも正直、抱っこをさせていただいた頃のことが今目に浮かんでいます。
僕の方は、日本の暦によれば、昨年が喜寿で77歳、今年は数え年78歳になります。立派な後期高齢者と言うことになります。
20年前、ヨーロッパからの帰国後、取り組んだ地方の農的生活の再建も、予期しなかった娘の他界と美術館の設立・運営とも
重なり、初期の目的を果たせぬまま今日に至っています。この間地方の耕作放棄は、麻績村に限らず全国で広がっています。
一方、少子高齢化、人口減少、財政赤字増大の恒常化などなど、日本の社会基盤そのものが崩れてきています。
そんなこれやで、そろそろ難儀な米作りも止めて―今年いっぱいは続けますがー本業に専心しようかと考えています。札幌時代、
同庁の若い方々と、過疎化、劣化進む北海道の再興に向けて研究・勉強会をした結果、当時の横路知事に『経済を超えて』と題して
大分の答申書を出しました。今思えばそこにはその理念が十分には盛り込まれていませんでした。本業に専心と言ったのは、
その魂ともいうべき源信をはじめ、貝原益軒、安藤昌益、それに良寛ら優れた先人たちの思想と彼らの生き方を、若い人達にもっと知ってもらうことです。
英国で言うならば、ジョーン・ロックをはじめ、バークリー、ヒューム、更には、というより、僕にとって、最も身近な先生的存在
の一人であったバートランド・ラッセルを挙げることができます。
彼らに共通しているのは、「人間とは」「生きるとは」「文明とは」「科学とは」何かについて通俗的な知識ではなく、長い人類の
歴史観を踏まえた真の知性から追究していることです。
僕が座右の銘として、講演会や原稿でしばしば取り上げるフランスの哲学者ベルグソンの言葉があります。
「我々の過去は我々に従い、その途上で現在を拾って絶えず大きくなってゆく、過去がこういうふうに現在の中で生きることがなければ、持続というものはなく、ただ瞬間があるばかりである。」
その意味からも、英国人である二人のお子さんには、ロックやバーランド・ラッセルの著作をお薦めします。
ご家族皆さんのご健康をお祈りするとともに、これからも一層充実した日々を送られるよう願っています。
平成30年1月20日 大寒
須藤 正親
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