アルツハイマー病に関する薬の作用は、疾患の重症度に依存するかもしれない
マウスでアルツハイマー病(AD)に対して見込みを示したガン治療薬のベキサロテンは早期の臨床試験を開始したものの、ADの新しいマウスモデルでは混乱させる結果を生じた。
新しいモデルマウスは、他のいかなるモデルよりも厳密にヒトの疾患の遺伝的性質と病理を模倣する。
ベキサロテンは実験マウスの後期アルツハイマー病で神経毒性タンパク質・アミロイド-ベータのレベルを低下させるが、疾患の早期のステージの間はレベルを上昇させることが判明した。
この発見はコペンハーゲンで開催されている国際アルツハイマー病学会でイリノイ大学シカゴ校医学部のMary Jo LaDuによって報告された。LaDuは2012年、ヒトの疾患の動物モデルとして最善と考えられる遺伝子導入マウスを開発した研究者である。
その実験的なマウスは、ADを発病する15倍の高い危険をもたらすヒト遺伝子を持つ。この遺伝子は疾患にとって最も重要な既知の遺伝的危険因子である。
ADの特質の1つは、アミロイド-ベータのかたまりから成る脳の密集したプラークの出現である。
しかし最近の研究によれば、固形のプラークよりも、むしろ可溶性で小さい形態のアミロイド-ベータの方が認知低下につながる神経細胞死の原因となることを示す。
ヒトはアポリポ蛋白Eというタンパク質をコードする遺伝子を持っている。アポリポ蛋白Eは、アミロイド-ベータに結合してそれを壊すことによって脳から取り除くのを助ける。
LaDuのマウスはヒトで最も不利な異型のAPOE4か、またはADリスクとしては中間のAPOE3を持つ。
「APOE4はアルツハイマー病の最も大きな遺伝的危険因子である」、UICの細胞生物学と解剖学の教授であるLaDuは言う。
「我々の以前の研究では、APOE3と比較して、APOE4によって産生されるアポリポ蛋白はアミロイド-ベータに十分に結合せず、神経毒を脳から取り除かないことが示された。」
ADに対するベキサロテンの作用を見たマウスの先行研究の結果は混同され、それらの研究はいずれも、ヒトのApoE遺伝子を持ちAD様の進行性の病理を発病するようなマウスでは実施されなかった。
今回のUICの研究は、そのようなマウスで実施された最初のものである。
LaDuとLeon Taiたちは、APOE4またはAPOE3を持つマウスに7日間ベキサロテンを与えた。
それらのマウスはADの早期、中間、または後期のステージだった。
次に研究者はマウスの脳で可溶性のアミロイド-ベータのレベルを測定した。
その結果、ヒトのAPOE4を持っているマウスにおいて、ADの後期では可溶性アミロイド-ベータは40パーセント減少し、アポリポ蛋白とアミロイド-ベータの結合は増加した。
しかし、早期ステージのADのAPOE4またはAPOE3マウスにおいて、可溶性のアミロイド-ベータの量は予想に反して増加した。
研究者はAPOE4マウスに開始1ヵ月でベキサロテンを与え、薬が疾患の早期の進行を防止する可能性があるかどうかを確認したが、薬の効果はなかった。
APOE4遺伝子を持っている人々では、疾患の後期のステージのベキサロテンによる短期治療が有益かもしれないとTaiは考えている。
しかし、治療の長さとタイミングを決定するために更なる研究が必要である。そして重要なのは、ベキサロテンがAPOE3キャリアに恩恵があるかどうかである。
「さらに、ベキサロテンは肝臓に極度に有毒である」、Taiは言う。
「アルツハイマー病の予防のために使う場合、薬はおそらく長期間与えられる。しかし、この既知の毒性のため、投薬が慎重に制御されて患者が密接にモニターされない限り、ベキサロテンは治療薬として現実的ではなさそうである。」
記事供給源:
上記の記事は、イリノイ大学シカゴ校により提供される材料に基づく。
http://www.sciencedaily.com/releases/2014/07/140716123450.htm
<コメント>
皮膚T細胞リンパ腫の治療に使われるRAR/RXRアゴニストのベキサロテンは、アルツハイマーの新しいモデルマウスの早期ではかえってAβを増加させ、しかし後期ではAβを減少させたという記事です。
わかりにくい結果ですが、RAR/RXRのリガンドのレチノイドがAβに何らかの影響を与えることは確かなようです。