膵癌の抵抗性メカニズムが特定される
成長と進行のために変異したKrasシグナル伝達に頼っている膵癌腫瘍は、そのKrasシグナルがいきなり強制的に止められても、出来あいの代用物を利用できる。
テキサス大学MDアンダーソン癌センターの研究者は、マウスで膵癌の成長を刺激するためにKras変異をオンにした。
彼らがそれを強制的にシャットダウンすると、腫瘍はKras変異とは独立して再発した。その腫瘍はKrasとは異なる癌遺伝子に依存していた。
再発性腫瘍はKras変異体の代わりに、Yap1という別の既知の癌遺伝子によるシグナル伝達に依存すると判明した。
そのYap1に依存的な腫瘍は、予後不良な膵癌の種類に似ていた。
研究で使われた遺伝子改変マウスモデルは、ドキシサイクリンで処置することによってKrasをオンにして膵癌を発病することができる。
腫瘍はすみやかに発病して、ドキシサイクリン処理の24時間の停止後に消失し始める。
ドキシサイクリン停止から3週以内に、腫瘍は全28匹のマウスで完全に消失した。
その後、そのマウスのうち20匹は9週から47週後の間に再発した。
再発した腫瘍は、15匹で肺または肝臓に転移する悪性の特徴を有した。
再発した腫瘍の半分は誘導可能なKras導入遺伝子が再び発現していたが、残り半分はKrasまたはそれに関連する経路が活性化している徴候がなかった。
非Kras再発性腫瘍を引き起こす分子機序を同定するためにチームは分析を行い、腫瘍遺伝子のコピー数多型を確認した。
「増幅していた唯一の遺伝子はYap1だった。Yap1は既知の癌遺伝子なので、これは道理にかなっている」、Avnishカプーア博士は言う。
Yap1の発現をRNA干渉によりノックダウンすると、Yap1が増幅していた再発性の腫瘍は縮小した。
Yap1は遺伝子の転写に関与するが、それ自体はDNAと結合しない活性化補助因子である。
Yap1はTead2と複合体を形成して、別の転写因子であるE2Fと共に作用する。
全体として、それらは腫瘍生存と成長を支える細胞周期とDNA複製プログラムを活性化する。
最近、膵癌は遺伝子転写プロフィールに基づいた分類により、Krasに依存的でないサブタイプが特定された。このいわゆる間葉系様の腫瘍(quasimesenchymal tumor)は予後不良である。
研究チームは、Yap1がこれらの腫瘍細胞系で強く発現していて、Yap1をノックダウンするとこれらの細胞の増殖が抑制されることを確認した。
Yap1は増殖と上皮間葉転換(EMT)、浸潤、そして転移に関与することが知られている。
Yap1は腫瘍の再発と進行を引き起こすが、しかし、膵癌の最初の形成を引き起こすには不十分であるとカプーアは言う。
学術誌参照:
1.Yap1活性化は、膵癌において発癌性Kras傾倒の迂回路を可能にする。
Cell、2014;
http://www.sciencedaily.com/releases/2014/06/140619125034.htm
<コメント>
いったんKrasが変異した癌をマウスで発症させると、たとえ変異Krasの発現を止めてもYap1/Tead2/E2Fによる迂回路ができてしまうという研究です。
何が起きているのかさっぱりわかりませんが、とにかく変異が起きた遺伝子を元に戻せばいいというものではないようです。
他にもKrasとYap1が協力してVimentinやSnail2を発現させてEMTにつながるという同様の記事があります。
http://www.sciencedaily.com/releases/2014/06/140619125315.htm