雑文の旅

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猫爺の掌編小説「リセット」

2015-10-06 | 掌編小説
 「人間とは何か」という学術論文の著者である人類学者、通称タコゾウ先生こと海老倉硝三(しょうぞう)博士は、その論文の中でこう仮設を立てている。

 「地球上の生物のなかで人間の脳だけが高度に進化したのは、もともと人間は地球上で派生したものではないからだ」と。 

 銀河系宇宙の中の星が滅びる寸前に、高度に発達した生物のDNAが、宇宙に向けて飛び散った。それが偶然なのか、その星の生物の意図したものかは不明ではあるが、DNAが数億光年の彼方から地球に到達し、地球生物のDNAを破壊し、飛来したDNAが地球生物のDNAにとってかわり人間誕生に至ったと述べている。
 即ち、インフルエンザのウィルスが動物の細胞核を壊して、自分が細胞核に納まる如く、飛来したDNAが、地球上の生物の中で最も適合した動物に感染した訳である。それが猿の仲間であったのだ。 

 地球には「先祖返り」という言葉が有る。すっかり地球人となり、進化してきた人間であるが、数億光年も離れた星に居た頃の生物の特徴が、突然現れることが有るのだ。容姿ではなく頭脳である。
 彼らは高度に発達した脳がゆえに、自分が何者であるかを察知し、仲間とテレパシーで呼び寄せ合って「秘密結社V」をつくった。実は、このことは海老倉博士も知らないことである。 

 Vの組織員同士の会話は総てテレパシーである。 また、彼らのテレパシーが届く速度は、光の1億倍だ。 すなわち、1億光年彼方の星まで、たった1年で届く訳だ。 

   「皆も受信したと思うが、他の星で適合していた仲間が、絶滅寸前だと伝えてきた」
   「我らの地球も危なくなってきたな」
   「あと、何年住めるのだろうか」
   「僅かだろうな」
   「人間の行為が絶滅を加速している」
   「地球は自らの危機を察知して、リセットしようとしているようだ」
   「我々に止めることは出来ないのか?」
   「出来ない。しかし、我々に出来ることが一つある」
   「それは?」
   「リセットの前に、我々のDNAを持ったウィルスを宇宙に放つのだ」

 地球のマグマが、少しずつ、少しずつ表面に上がってきている。昔、休火山だ、死火山だと言われていた山々が噴火を始める。 地震は頻繁に起き、原子力発電所を次々と破壊する。温室効果ガスでもあるオゾン層を破壊するフロンガスは、先進国でこそ使用を制限されたが、発展途上国では相変わらずたれ流しだ。 

 最近、結社Vが宇宙ゴミ調査という名目で人工衛星を打ち上げた。DNAを搭載したミサイルであることは極秘である。

   (2013-01-28投稿のもの)  (原稿用紙4枚)

 


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