雑文の旅

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温故知新「琴、花、酒のあるものを」

2013-02-20 | 日記
  旅と旅との君や我
  君と我とのなかなれば
  酔ふて袂(たもと)の歌草(うたぐさ)を
  醒さめての君に見せばやな

 島崎藤村の詩集「若菜集」の中の『酔歌』である。これに曲を付けた歌をYouTubeで聴いた。
 「さびしい歌ですね」というコメントが付いていたが、これは死別の詩でも失恋の歌でもない。旅(人生)というものに挫折して悩む少年(青年)に、ただ突き進むだけでなく、「時には立ち止まって肩の力を抜いてみろや」と諭している詩だと思う。
 「恋をするのもいいもんだぞ」とも。

 恋などと何処にも書いてないが、(我)の詩を君に見て貰いたいが、ちょっとテレ臭いので(君)と酒を酌み交わしている時に見せよう。(君)の酔いが醒めた頃合いを見計らって。
 その詩とは、数多い藤村の恋の詩であろうと推れるではないか。では、(君)が少年(青年)であると私が思うのはどこか。次の詩文である。

  若き命も過ぎぬ間まに
  楽しき春は老いやすし
  誰(た)が身にもてる宝ぞや
  君くれなゐのかほばせは

 「くれなゐのかほばせ」は、紅の顔(かんばせ)、すなわち、紅顔の美少年(青年)であろう。40歳を過ぎた男には、あまりこの形容はしないものだ。紅顔の美壮年とか美中年とか…。
 「君は頗るイケメンじゃないか、もっと砕けて生きてみろよ、女にモテるぞ」

  君がまなこに涙あり
  君が眉には憂愁(うれい)あり
  堅かたく結べるその口に
  それ声も無きなげきあり

 悩み多き青春のまっ直中とはいえ、(君)は鬱陶し過ぎる。なにも語らなくても顔に出ているさ。

  心の春の燭火(ともしび)に
  若き命を照らし見よ
  さくまを待たで花散らば
  哀かなしからずや君が身は

 若いっていうことは、それだけで素晴らしいことだ。その素晴らしい時代を悩み苦しみながら、無駄に過ごしてはならない。 そんなのって、哀しすぎるよ。

 わきめもふらで急ぎ行く
 君の行衛(ゆくへ)はいづこぞや
 琴、花、酒のあるものを
 とゞまりたまへ旅人よ

 「琴花酒」とは、清酒の銘柄ではない。琴は音楽、花は女性、酒はそのまま酒、酒を酌み交わす二人の男の話題である。あまり男二人が酒を飲みながら「俺はチューリップがすきだ」「儂は断然牡丹がいい」などとフラワーを話題にしないものだ。 
 ただ頑なに突き進んで、いったいどこへ行き着こうとしているんだ。音楽に耳を傾けるのも良い。女も、うまい酒もある。ちょっと立ち止まって、脇見をしてみろ。また違った世間がみえてくるぜ。

 この詩を、湿っぽいメロディで歌うのではなく、応援歌として手拍子で歌いたい。やはりこの詩に似合う曲は、与謝野鉄幹の「人を恋うる歌」に付けられた曲(作曲者不詳)が良い。短調のメロディではあるが、短調は歌い方で「物憂く」もなるし、長調よりも「勇壮」にもなる。
   (2015.02.26 改稿)

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